NCAA(全米大学体育協会)1部の上位カンファレンス群であるFBS(フットボールボウルサブディビジョン)には現在10のカンファレンスが区分されています。さらに現在ではその中でも最上位の5つのカンファレンスを「パワー5」カンファレンス、それ以外の5つのカンファレンスを「グループオブ5」カンファレンスと分けています。
カンファレンス拡張・再編成の歴史
これらのカンファレンスたちはここまで長い歴史の中で形を変え、名前を変え、所属チームを変えるなどして変化してきました。筆者がカレッジフットボールにハマり出した1990年代後半からだけでも・・・
- マウンテンウエストカンファレンスが誕生(1999)
- サンベルトカンファレンスが参戦(2001)
- Big Eastカンファレンスが消滅(2013)
- アメリカンアスレティックカンファレンスが誕生(2013)
- ウエスタンアスレティックカンファレンスが消滅(2013)
これ以前では名門サウスウエストカンファレンス(SWC)がBig 8カンファレンスに吸収合併されてBig 12カンファレンスが誕生したとかいう出来事もありました。SWCが当時かなり強いカンファレンスだったことを考えると、当時は皆が「まさかSWCが無くなるなんて」と驚いたことでしょう。
それは20年前BCS(ボウルチャンピオンシップシリーズ)制度を経てナショナルタイトルを争っていた時代の「BCSカンファレンス(今のパワー5に相当)」の一員だったBig Eastカンファレンスが無くなってしまうなんて想像だにしませんでした。
しかしながらカンファレンスの勢力図は時を越えて姿形を変えています。2004年から突如として沸き起こったカンファレンス拡張の波に巻き込まれBig Eastカンファレンスは無くなってしまった(事実上アメリカンアスレティックカンファレンスに生まれ変わった)こともそうですが、例えば・・・
- テキサスA&M大、ミズーリ大がBig 12からSECへ移籍(2012)
- テキサスクリスチャン大がMWCからBig 12へ移籍(20012)
- ウエストバージニア大がBig EastからBig 12へ移籍(2012)
- コロラド大がBig 12からPac-10(当時)へ移籍(2011)
- ユタ大がMWCからPac-10(当時)へ移籍(2011)
さらに今年はセントラルフロリダ大、ヒューストン大、シンシナティ大(全てアメリカンアスレティックカンファレンス)からBig 12へ移籍してきますし、無所属だったブリガムヤング大(BYU)もBig 12入りを果たしています。
その影響を受けてグループオブ5界隈でもメンバーの入れ替わりが行われていますし、とにかくカンファレンスの拡張はとめどないカレッジフットボール界の通常業務ともいるのです。
コロラド大がPac-12からBig 12へ
しかし、いつの時でもパワー5カンファレンス間でチームが移籍する場合は大事です。2021年度シーズン開幕前に突如としてBig 12カンファレンスのテキサス大とオクラホマ大がSEC(サウスイースタンカンファレンス)に移籍すると言うビッグニュースが世に出た時はそれは驚かされたものでした。(実際の移籍のタイミングは2024年度)
そして2022年にはPac-12カンファレンスのサザンカリフォルニア大(USC)とカリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)がBig Tenカンファレンスに移籍すると言うのですから、カンファレンス拡張もここまできたかと思わされました。
そして最新の移籍のニュースとして飛び込んできたのが現在Pac-12カンファレンスに所属するコロラド大です。もともとBig 8カンファレンスを経てBig 12カンファレンスに所属していた彼らは2011年にPac-12カンファレンスへと鞍替えしましたが、この度Big 12カンファレンスに復帰することが決定したのです(復帰は2024年から)。
コロラド大は今年からかのディオン・サンダース(Deion Sanders)監督が率いる注目校。「コーチプライム」が指揮するこのチームがPac-12カンファレンスで暴れまくってくれるのか期待が高まっていましたが、どうやらサンダース監督をPac-12カンファレンスで拝めるのは2023年度が最初で最後のようです。
カンファレンスを移籍するのはたいていの場合は分配金が目当てです。カンファレンスはそれぞれが巨額のテレビ放映権やメディアの利権によって莫大な収益を手に入れますが、それを所属するチームに平等に分配するわけです。当然収益額が多い方がチームの取り分は高くなります。現在Big TenとSECが巨額のテレビ放映権などの契約をここで結んでいますから、この甘い蜜を吸いたがるチームはいくらでもいるわけです。
テキサス大やオクラホマ大、USCやUCLAがそれぞれSECやBig Tenに移った原動力となったのもこのお金だと言われています。そして今回のコロラド大もPac-12がなかなかメディアとの大掛かりな契約を結べない中、Big 12カンファレンスに賭けることを決したと言うわけです。
ドミノエフェクト
テキサス大とオクラホマ大は今年まだBig 12カンファレンス所属なので、前述の新加盟チーム4校を合わせると2023年は14チーム所属の大所帯となりますが、2024年にはそのテキサス大とオクラホマ大が抜け、その代わりにコロラド大が新加入となって合計13チーム編成となります。
ただ、13チームというのはキリが良くないということでBig 12カンファレンスは加盟チーム数を偶数にするためにもう1チームを引き入れたいと考えているようですが、パワー5の一員としてグループオブ5から引き抜くよりはパワー5から引き抜きたいというのが彼らの思惑のようです。
そして今のところ噂されているのはPac-12カンファレンス所属のアリゾナ大。アリゾナ大はPac-12ながら南に位置しており、Big 12カンファレンスの主戦場(アメリカ南西部)からそう遠くありません。そういった意味ではかなり可能性は高い移籍話だと言われています。
そうなると状況的に悪くなるのがPac-12です。すでにUSCとUCLAという名門チームをBig Tenに奪われており、そして今回コロラド大がいなくなったことで来年からは9チーム編成を余儀なくされますが、これでアリゾナ大が抜ければ彼らのライバルでもあるアリゾナ州立大も後を追うことは十分に考えられます。
またBig TenはUSCとUCLAを取り込んだ後、オレゴン大とワシントン大にも触手を伸ばそうとしていましたが、この時は分派金の関係で折り合いがつかず断念。またPac-12も残されたチームの結束は硬いとPac-12の格好は保たれたと思われていましたが・・・。
コロラド大が抜けることになり、またアリゾナ大も抜けるかもしれないとなると、Pac-12カンファレンスの空中分解が以前よりも増して現実的となってきており、そうなった時に別のカンファレンスにオレゴン大やワシントン大を掠め取られるなら取り込もうとBig Tenカンファレンスの上役は緊急会議。この時はこの2校に加えてスタンフォード大とカリフォルニア大も議題に上がっていたようですが、最新の報道ではオレゴン大とワシントン大を誘致してもいいということで意見が一致したのだとか。
もしこれで本当にオレゴン大とワシントン大が抜け、アリゾナ大も抜けたら、いくら近くにいるマウンテンウエストカンファレンスのサンディエゴ州立大やサンノゼ州立大を抱き込んだとしてもこれまで維持してきた「パワー5」の肩書きを下されてしまいそうです・・・。
ACCでも・・・?
さらにこれに感化されたのか、ACC(アトランティックコーストカンファレンス)のフロリダ州立大もACC内での分配金の額に満足いかないようで、これが改善されないなら自分たちもACCから離脱する準備がある、なんて吠え始めました。
ただ、ACCはメディアやテレビの放映権を巡って2036年までの大型契約が継続中です。そしてその期間中にACCを脱する大学にはかなり巨額の違約金を払う義務が生まれるため、これが抑止力となってACCから本当に出て行こうとするチームは出てきていませんでした。
フロリダ州立大ももし本当に出ていくのならばその巨額の違約金を支払わなければいけなくなりますし、また出てどこへ行く?という疑問も生まれてきます。SECはテキサス大とオクラホマ大を加えてすでに16チームの大所帯となることがわかっていますし、かといっってBig Tenは地理的に流石に遠すぎます。となればBig 12が妥当なのかもしれませんが、彼らはどちらかと言えば自分たちはSECレベルのカンファレンスに属するのに値するチームだと思っているようですので・・・。
そんなフロリダ州立大の遠吠えを聞いた、同じACC所属のノースカロライナ大の大学長は「彼ら(フロリダ州立大)がいくら吠えようが、ACCにとっては何の得にもならない」とフロリダ州立大を戒める発言もしています。
この記事が出た1週間以内に事態が急変している可能性がもあります。実際にプレーする学生アスリートを置いてきぼりにして、大人の事情だけで話が進み続けるカンファレンスの拡張問題。果たして今回の「2023年度の変」のエンディングはどうなるのでしょうか・・・。