フットボール(というかどんなスポーツでも)をやるからにはやはり強くなりたい、試合に勝ちたいというのがどのチーム・選手にとって共通な意志なはずです。もちろんみんながその望みを叶えることが出来るわけではなく、むしろそれを味わえるのは上位のチームのみで、それ以外のチームたちはいつかその仲間入りができるようにと毎日鍛錬しているわけです。
ただ、カレッジフットボールに於いてはブランド力、リクルーティング力、コーチング力、財力などのせいで強者と弱者の差がどんどん離れていくような気がします。そして負け続けてしまう大学はディビジョンを下げる、つまり降格したり、廃部になったりする運命をたどる場合もあります。それはかなり極端な例ですが負け続ければいいことなど何もありません。
しかしここに勝ち続けて痛い目を見たという大変稀なケースがあります。
当サイトが主に取り扱うNCAA1部(FBS、FCS)ではなく3部の話ですが、ミネソタ州にありNCAA3部で超強豪とされるセントトーマス大は、なんとあまりにも強すぎるために所属するMIAC(Minnesota Intercollegiate Athletic Conference)から追い出されることになってしまったのです。
以下がMIACの声明文です。
「慎重なる話し合いの結果、セントトーマス大はMIACから脱退していただくことに決定しました。その主たる理由は競技上の強さの不釣り合いであります。セントトーマス大はたった今から複数年かけて脱退へのプロセスを踏んでいただくことになりますが、2021年春まではMIACにて正規メンバーとして全てのスポーツ活動に参加していただけます。セントトーマス大はMIAC発足時の7校のうちの1つであり、今回脱退していただくことに際しては何の落ち度もありません。これまで長きに渡り学業並びにスポーツでその力を発揮していただいたことに感謝します。」
要するにセントトーマス大があまりにも強すぎて他のメンバーに勝機が回ってこないため、だったら彼らを排除してしまおうという風に聞こえます。フットボールに関して言えば最近の通算成績は78勝10敗(勝率88%)で過去9年間で6度のカンファレンスタイトル獲得。またMIACで行われている全スポーツを通して送られる年間最優秀トロフィー「MIAC All Sports Trophy」もセントトーマス大が2008年から独占している状況。
そしてスポーツ以外でもセントトーマス大はMIAC所属大学の中でも最大の学生数を誇り、そのことも間接的にスポーツの力関係に影響を及ぼしているとさえ言われています。つまりMIACはセントトーマス大の独壇場だというわけです。MIAC内でのパワーバランスが崩れすぎて、それこそ大人と子供が相撲を取っているという状況に陥っており、それだったらその大人を排除して子供だけで相撲を取ろうというのが今回のMIACの決断というわけです(悪意がある言い方かな苦笑)。
強すぎるために仲間はずれにされてしまうセントトーマス大はあと2年の間に新しい所属カンファレンスを模索しなければならなくなりました。ただ、MIACだけでなくNCAA3部の中でも有数のライバリーとされているセントジョーンズ大との対戦はおそらくスケジュールに残されることになるでしょう。
それにしても強すぎて困ってしまったというこの状況、FBSやFCSのレベルでも起き得るとは考えづらいです。しかし、実際それらのカンファレンス群でも同じリーグに所属しながらパワーバランスが崩れているケースもよく見受けられます。名指しこそしたくはありませんが・・・。
強すぎて話にならないと言えば、筆者的には1990代から2000年代中頃にかけてのフロリダ州立大を思い浮かべます。彼らは1992年にアトランティックコーストカンファレンス(ACC)に加盟してから9年連続のカンファレンスタイトル獲得を含め2005年までに合計14年間で12度の栄冠を手に入れています。1993年と1999年にはナショナルチャンピオンにも輝きました。この時のACCはフロリダ州立大の一辺倒で誰も彼らに敵いませんでした。しかしだからといって彼らをACCが除名するなんてことは当然ありませんでした。
セントトーマス大の今回の件は上記に紹介したフロリダ州立大の時の圧倒的強さには敵いませんが、それでもMIACのパワーバランスを崩壊させるのには十分な強さを誇っていました。おそらくそれが仇となるとは思いもしなかったことでしょうが。