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ヴァーチャルリアリティとカレッジフットボール

ヴァーチャルリアリティとカレッジフットボール

アメリカに長いこと住んでおりますので最近の日本でのトレンドなどには時として疎くなってしまいがちです。ですから「ヴァーチャルリアリティ(VR/仮想現実)」の技術が日本でどれだけ普及しているのか分かりませんが、少なくともアメリカではテレビのコマーシャルやテクノロジー系のメディアで少しずつ露出が増えてきたように思います。

そんな中カレッジフットボール界ではこの技術を積極的に取り入れようとするチームも出てきました。

VRを取り入れたクレムソン大

昨年度のナショナルチャンピオンシップゲームでは無敵と言われたアラバマ大ディフェンスに対しクレムソン大QBデショーン・ワトソン(Deshaun Watson)が素晴らしい働きを披露。特に勝負の分かれ目となった第4Qは特に冴え渡り、ブリッツ時のパス成功率は7回中6回、しかも2つのTDを奪う活躍を見せ35年振りのタイトル獲得に大きく貢献しました。

この「ゾーン」に入ったごとくのワトソンのパフォーマンスですが、ワトソンは常に冷静沈着を保っていたように見えました。ひょっとしたらそれは彼が「既にそのシーンを見ていた」からなのかもしれません。というのもクレムソン大はVRをトレーニングに取り入れていたチームだからです。

クレムソン大の関係者は昨年ワトソンはトレーニングに費やした全体の時間の4割をVRでのトレーニングに割いていたといいます。特に瞬時の判断を要求されるブリッツ時のシミュレーションをVR上で行っていたらしいのです。勿論タイトルゲームでアラバマ大のような超カレッジ級のブリッツをいなせたのはワトソンが元々持っていたスキルとビジョンに寄るところが大きいですが、彼の恩師であるダボ・スウィニー(Dabo Swinney)監督はVRトレーニングもワトソンのプレーの向上の手助けをしただろうと言っています。

「VRを導入した当初は我々もその効果について計りかねていましたが、それ以来この技術は我々にとって重要なトレーニングの一部となりました。この技術を試行錯誤しながら使用してきましたが、使うごとに最大限の効果を得られるよう工夫を重ねてきました。デショーンはひょっとしたらこのVRトレーニングでアラバマ大のブリッツパッケージを目の当たりにしていたかもしれませんし、LBのベン・ボウルウェア(Ben Boulware)なら実際に体を張って練習しなくてもVRで相手チームの攻撃を読む練習をすることができました。 また練習できない怪我人でもこのシステムを用いることによって相手の攻撃パタンやカベレージを仮想現実の中で学習することもできる。この技術の可能性は無限大です。選手たちの練習のためのいいツールの一つとなっています。」

普及しつつあるVR技術

2年前スタンフォード大はこのVR技術を最初に取り入れたチームとなりましたが、今では全部で13校のFBSチームに6つのNFLチームがこの最先端テクノロジーの恩恵を受けています。

その中でもテンプル大はVRトレーニングでチームを飛躍的に強くした一番のチームといえそうです。

長いことカレッジフットボール界でも低迷し続けてきたテンプル大ですがここ数年間は見違えるほどに急成長。昨年はアメリカンアスレティックカンファレンス(AAC)のタイトルゲームに進出しここで海軍士官学校を撃破。過去50年間で初のカンファレンスタイトルを獲得する偉業を成し遂げました。

タイトルゲームで対戦した海軍士官学校は現在希少となったトリプルオプションアタックの使い手。この攻撃を用いるチームが極端に減ったことにより、対策を講じるのも難しくなってきました。そこでテンプル大が利用したのがVRシステム。話によるとタイトルゲームが行われた週にはテンプル大のLB及びDB陣は約500セッションのVRトレーニングでオプションフットボールに対抗するための準備を積みました。

結果、レギュラーシーズン終了までの3試合にて平均61得点というハイパワーオフェンスを誇る海軍士官学校を10点に抑え見事AACの栄冠を手に入れたのです。

またテンプル大のQBフィリップ・ウォーカー(Philip Walker)はこの週足の怪我のためろくに練習できませんでしたが、その間VRを使い海軍士官学校戦に備えました。そして出場したこのゲームでは112ヤードに2TD、しかも試合開始直後から11投中9投のパスを成功させる正確なプレーで勝利のチームに貢献。このゲームのMVPを獲得するに至りました。

「私は大のVRファンです。テンプル大では2年間この技術を使用しましたが、その2シーズンとも二桁勝利を挙げることができたのですから。視力やビジョンといった側面はこれまであまりトレーニングで取り上げられてこなかった部分です。これまでのトレンドはとにかくスピード。選手がどれだけ早く走れるか、が大きな焦点でしたが、瞬時にプレーを分析して理解するスピードもまた大事だと思います。この本能にも似た能力はVRを通じて教えることができるし学ぶことができると思うのです。」と話すのはこのシステムをテンプル大に取り入れた、当時の監督で現ベイラー大マット・ルール(Matt Rhule)監督。恐らくベイラー大でもこの技術を導入する事でしょう。

VRがもたらす可能性

クレムソン大ではワトソンがNFLに旅立っていった後でもこのVRは重要なトレーニングの一つとしてQB陣に使用されています。ワトソンの抜けた大きな穴を埋める次期QB候補に名乗りを上げているゼリック・クーパー(Zerrick Cooper)は昨年一度もプレーする機会はありませんでしたが、その代わりにVRトレーニングを数多く積み来る日に備えています。その様子を彼のQBコーチ、ブランドン・ストリーター(Brandon Streeter)氏はこう語っています。

「昨シーズン、ゼリックはポジションミーティングの最初の30分は我々QB陣とともにミーティングルームに居ましたが、後半の30分間彼はVRルームに送られそこで仮想現実の世界で実際にプレーするかのようにプレーブックを頭に叩き込んでいたのです。殆どの場合彼はVRで「7-on-7(QB+スキルプレーヤー vs LB+DBのパス練習)を体験していました。その様子はまさに実際に彼がプレーしているようでしたし、上手くそのドリルをこなしていました。」

クーパーはワトソンや他のQBが実際に前日の練習で行った事を翌日にVRの世界で体験していたのです。その時の様子をクーパーは「それは本当に実際に自分がゲームでプレーしているような感覚にさせてくれました。VRのヘッドセットを装着する事でまるで自分がボールのスナップを受け、そして見渡せばディフェンスがどのようなカベレージを敷いているかを察知することが出来るのです。」と話していました。

スウィニー監督はVR技術がクレムソン大にもたらしてくれたのはフィールド上での結果だけではなく、リクルーティングにも大いに役立ってくれていると話しています。

「リクルート達が我々のキャンパスを訪問した際、彼らにVRギアを装着してもらい、仮想空間のなかでスタジアムの試合の盛り上がりや、試合の勝利後のロッカールームでの選手達の喜ぶ場面などをまるでその場にいるかのように体験してもらうことが出来ています。場合によっては彼らはその場にいる事は出来ないかもしれません。しかしこの技術を駆使すればそのような場面を彼らの元へ届けることが出来るのです。」

もちろんこのシステムはタダという訳ではなく、それなりの運用費がかかりますから、現時点ではだれもが手を出せる技術ではないかもしれません。しかしVRが生み出す可能性は計り知れないものがありそうですから数年後にはこの技術が当たり前のものになっていたとしても何ら不思議ではありません。昔マンガや映画でしか見た事が無かったものが現実のものとなる未来がやって来たという事です。

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