NCAAはカレッジフットボールに関する6つの新ルールを発表しました。以下がその要約です。
早期サイニングデー
高校生リクルートたちが進学先を公表し書類にサインする日を「ナショナルサイニングデー」と言いますが、これまでこの日は2月の初旬(最初の水曜日)にのみ行われてきました。しかし今回のルール改正で新たに「早期サイニングデー(Early Signing Day)」が設けられることになったのです。早期サイニングデーの必要性は長いこと議論されてきましたがそれが現実のものとなるわけです。しかもそれに加えて日数も3日間という猶予が与えられたというから驚きです。
これは中堅チームにしてみれば捕まえた魚を早めにロックオンすることができるので喜ばれるものとなりそうですが、リクルーティングをギリギリまで行いたい強豪チームにとってはあまり喜ばしいものではなさそうです。
さらに早期サイニングデーに関して選手の立場からすると、必ずしもいいことばかりではなさそうです。例えば早期サイニングデー(2017年度は12月後半に予定されています)にて進学先を決めたくても、その時点での生徒の成績次第ではその資格がないという状況も生まれます。そうなると行きたかったチームでの受け入れの枠が早期サイニングデーにて埋まってしまい、成績がよくない選手が行きたいチームに進学できなくなるという可能性が出て来るかもしれません。
また高校フットボールは12月まで行われていますが、時としてシーズン中にカレッジチームの目にはとまらない選手でも、シーズン後にフィルムを通して大学コーチに発掘されることもあります。ですから12月末の早期サイニングデーで早まって中堅大学に進学を決めてしまったことにより、後々強豪チームがリクルートしたとしても時すでに遅し、というシナリオもありえます。
行きたいチームが分かっていて、その上早期に進学先を決定できる選手はいいですが、そうでない選手に関しては早期にサインしてもいいのか、それともよりいいチームからのリクルートを待つためにサインしないほうがいいのか、という選択に迫られることになるのです。
二部練習の廃止
かつて夏のプレシーズントレーニングでは二部練習(『Two-A-Day』、午前と午後で1回ずつ1日合計2回練習がある日)が恒例でした(遡れば三部練習があったこともあります)。しかし選手にかかる負担を考え徐々に練習の数は減り、昨年までは二部練習は1日おきでないと行うことはできませんでした。しかし新ルールにより二部練習は完全に廃止されることになります。
この「練習」の定義はコンタクトのある「ぶつかり稽古」を含むトレーニングのことで、フィルムセッションやミーティング、ウォークスルー(動きだけをシミュレートするセッション)を練習と同じ日に行うことは許されます。しかしギアをつけることは禁止、そして筋トレやコンディショニングトレーニングを行うことも許されません。
もっともすでにアーカンソー大や、ジョージア大、ジョージア工科大などでは自主的に二部練習を辞めていたチームもありましたが。
大学チームへの公式訪問が早期化
これまでリクルートが大学キャンパスを直接訪問するには9月まで待たなければなりませんでした。しかし今回のルール改正によりこの時期が4月1日まで早まったのです。これは選手によってはいい知らせとなるでしょう。これによりリクルート及び親たちはより柔軟に訪問先を決めることができるようになるからです。
10人目のコーチを雇用可能に
「The more, the better」という言葉もあるように、コーチは多いほうがいいに決まっています。これまでは9人までのコーチを雇っていいことになっていましたが、来年の1月から10人目をチームに加えてもいいことになりました。ただ、10人目のコーチのサラリーを確保するためにこのルールが施行されるのは来年まで先延ばしになったのです。これにより資金がそれほど潤沢でないチームも、10番目のコーチを雇うための資金繰りができるというわけです。
選手に関わる人物を雇用することを制限
これは大学バスケットボール界では普通のことでしたが、ようやくカレッジフットボールにも適応されることになります。このルールにより、大学はリクルートの親、コーチ、トレーナーなど直接関わる人物をチームに引き入れることが不可能になりました。この手法はリクルートを確実に自分のチームに引き入れるために度々使われてきたもので、最近ではミシガン大が全米のトップリクルートが所属する高校の監督をミシガン大のスタッフとして雇い、このリクルートがミシガン大に進学することを水面下で確約するようなことがありましたし、また同じくミシガン大でトップリクルートの親をチームのスタッフに招いたという例もあります。
いかにもミシガン大のアイデアマンであるジム・ハーボー(Jim Harbaugh)監督らしいやり方ではありましたが、一方でこれができなくなると痛手を被る人たちも出てきます。それはカレッジレベルでコーチすることを夢見ている高校のコーチ達です。カレッジレベルとハイスクールレベルとではコーチングでも大きな隔たりがあります。高校でコーチを始めた人物はなかなか「上位レベル」のカレッジレベルに上がってくることはなかなかできません。そんな中、ハーボー監督のような手法は批判されたとしても彼らにとってはまたとないチャンスだったわけです。ただでさえ狭き門なのにこのルールは彼ら高校コーチにその門の隙間を狭めることになるのです。
サマーキャンプ(サテライトキャンプ)について
これについても前述のハーボー監督の影響といっても過言ではないともいますが、今回のルール改正によりFBSのコーチが行っていいサマーキャンプは6月と7月でそれぞれ10日ずつに制限され、しかもそれらはそれぞれのキャンパスかその近辺でしか行うことはできないということになりました。このルールはすでに有効ということで今後はサテライトキャンプなるものを開催する事は不可能となりました。ただ既に開催を決めてしまってあるものについては開催してもオーケーだそうです。「出る杭は打たれる」ではないですが、ハーボー監督の旅重なるサテライトキャンプ開催に挙げられた批判の声がNCAAを動かしたのでしょうね。