昨年彗星のごとく表れたアラバマ大QBジャレン・ハーツ(Jalen Hurts)は1年生ながら先発QBの座を序盤に確保するとナショナルタイトルゲームでクレムソン大に敗れるまでチームの快進撃に大きく貢献。まだまだ荒削りながら高いポテンシャルを全米中に示し、アラバマ大の将来はまず安泰だと誰もが思った事でしょう。
しかしハーツの台頭の裏でアラバマ大で先発QBになる事を夢見てやってきた選手達にとっては、いかにフットボールがチームスポーツであったとしても、1年生で先発の座を確保してしまったハーツは邪魔でしか無い訳です。そんなこんなでシーズンが終わるまでになんとアラバマ大から3人ものQBが他チームでのプレーチャンスを求めて転校していったのです。
その中でも昨年の開幕戦・サザンカリフォルニア大戦で先発QBするも途中からハーツに取って代わられてしまったブレイク・バーネット(Blake Barnett)にしてみればせっかく掴んだスターターの座を1年生の若造に奪われた事は彼のプライドに傷を付けることになった事でしょう。そして彼はシーズン途中に退団を決意。そして後日アリゾナ州立大へと転校する事が決まったのでした。
そんな中最近バーネットはあるインタビューの中で元の師であるアラバマ大のニック・セイバン(Nick Saban)監督に対して不満(というか怒り)をぶちまけました。
先にも述べた通りバーネットは昨年の開幕QBに指名され、夢のアラバマ大での先発出場を果たすのですが、その重圧にやられたのか前半は全くいいところがなく、後半にハーツに代わってベンチに下げられてしまいました。
もちろん全米に生中継されていたこの大一番、前半が終わってハーフタイムとなる時、テレビリポーターに質問されたセイバン監督はバーネットの事を「臆病になっている」と話し、そしてその直後となる後半開始後にバーネットの姿をフィールド上で見ることはありませんでした。
そして9月にバーネットがアラバマ大を去ることになった時、セイバン監督はこう話しました。
「(バーネットが先発の座を失って退団することに関し)現在のカレッジフットボール界で選手の心の持ち様が変わってしまったという事でしょう。もちろん勝負や競争の世界でプライドを持つ事は重要です。しかし一方で私は苦境に立たされても決して諦めず、その苦境から物事を見極めろと言われて育ってきた人間です。もし仮に私がチームを辞めることにしたと帰郷して父親に報告するとしたら、きっと私の父は私を家から追い出す事でしょう。そんな事をしたら私に居場所などあるはずがありません。」
と、暗にバーネットは「臆病者の負け犬だ」と言っているように聞こえます。
これらのコメントを振り返ったバーネットはあるインタビューでこう反論しています。
「私はサザンカリフォルニア大戦以降『臆病なやつ』と色々なところで言われ続けました。しかし他のどのチームメイトに訪ねても同じ答えが返ってくると思いますが、私はあの時非常に冷静でビビってなどいませんでした。しかしあのコーチ(もちろんセイバン監督のこと)はメディアの前で直接私は臆病になっていたと言い放ったのです。そのせいで私は「臆病者の選手」という烙印を押されてしまったんです。」
「今でもどうしてこんな風(アラバマ大で先発の座を失い、アラバマ大を出た事)になってしまったのか自分でも分からないのです。しかし起きてしまった事は仕方がありません。私は今こうしてアリゾナ州立大の地に立っているのですから。」
バーネットは新天地であるアリゾナ州立大で活躍し、セイバン監督が自分を「ビビりQB」とののしった事を後悔させようと意気込んでいる事でしょう。もしバーネットが先発QBの座を射止めることが出来たとしたら、彼が自分の評価を回復する為の踏み台として来年のアリゾナ州立大の対戦相手に不足はありません。来季アリゾナ州立大はスタンフォード大、ワシントン大、サザンカリフォルニア大、コロラド大、UCLA、ユタ大と並み居る強豪たちと対戦予定です。もし仮にこれらのチームを全て先発QBとしてなぎ倒せたとしたら、その時はバーネットは胸を張ってセイバン監督にもの申すことが出来るでしょう。しかしその日が来るまでは永遠にセイバン監督からは自らのチームとチームメイトを見限った「逃亡者」と見られてしまうことになりそうです。