2024年度シーズンも残すところCFP(カレッジフットボールプレーオフ)準決勝戦の2試合とそれらの試合での勝者がぶつかり合うナショナルチャンピオンシップゲームを残すのみとなりました。
今年から新たに導入された12チーム制度のプレーオフ。ここまで勝ち残ったのはファーストラウンドから上り詰めたチームばかり。今回の記事では準決勝戦第2試合のコットンボウルの見どころをお届けします。
#5 テキサス大 vs #8 オハイオ州立大
🏟️AT&Tスタジアム(テキサス州アーリントン)
準決勝戦の2つ目であるコットンボウルのマッチアップは第5シードのテキサス大と第8シードのオハイオ州立大の対決となりました。
テキサス大は昨年のCFPに初出場したのに続き、今年も2年連続のプレーオフ出場となりました。前回は準決勝戦でのワシントン大戦で惜しくも敗れてタイトルゲーム進出を逃しましたが、今年こそこの準決勝戦を勝ち抜き、2005年度以来となる5度目のナショナルタイトルを目指します。コットンボウルに出場するのはこれでなんと24度目(10勝11敗1分け)。最後にこのボウルゲームに出場したのは2003年(2002年度シーズン)となります。
オハイオ州立大にとってCFP出場は6度目。これはアラバマ大(8回)、クレムソン大(7回)に続き3番目に多い出場回数です。しかし、2014年度に行われた第1回目のCFPで見事初代チャンピオンになりますが、以来全米王座から遠ざかっています。今回彼らが目指すは史上9度目のナショナルタイトルとなります。また、彼らがコットンボウルに出場するのはこれで4度目。ここまでのコットンボウルでの戦績は2勝1敗となっています。
両チームとも歴史あるチームですが、意外なことにここまで直接対決は3度しかなく、対戦成績はテキサス大が2勝1敗。最初に対戦したのが2005年度シーズンでその後は2006年と2009年ということでここ2000年代にしか対戦がなかったことになります。
両チームのこれまでの歩みは準々決勝戦のプレビュー記事をご参考ください。
参考記事2024年度CFP準々決勝プレビュー【ピーチボウル】(テキサス大)
参考記事2024年度CFP準々決勝プレビュー【ローズボウル】(オハイオ州立大)
マッチアップ
テキサス大 | オハイオ州立大 | |
#3 | SOS | #2 |
34.3 (15) | 平均得点数 | 36.4 (6) |
444.0 (12) | 平均トータルオフェンス | 432.6 (3) |
278.4 (13) | 平均パスオフェンス | 263.4 (28) |
165.6 (55) | 平均ランオフェンス | 169.1 (49) |
14.5 (3) | 平均失点数 | 12.1 (1) |
277.9 (3) | 平均トータルディフェンス | 245.0 (1) |
166.1 (3) | 平均パスディフェンス | 152.4 (1) |
111.8 (12) | 平均ランディフェンス | 92.6 (4) |
テキサス大にしてもオハイオ州立大にしてもカレッジフットボール界において誰もが一目置く存在である名門チームです。歴代勝利数だけみても、オハイオ州立大が969勝で全米3位、テキサス大が954勝で5位とどちらも5本の指に入るチーム。その割に過去3度しか対戦がないのは驚きですが、それが今回のこのマッチアップを特別なものにしているとも言えます。
どちらのチームも今季開幕前から上位5位以内にランクされていた期待度の高かったチーム。特にオハイオ州立大は途中オレゴン大に敗れるもその1敗を守りながらシーズンを送り、そのままBig Tenカンファレンス優勝決定戦に出場するかと思われましたが、最終節でライバル・ミシガン大にまさかの敗戦を喫し、宿敵に4連敗そして4年連続Big Tenタイトルに手が届かないという状況に陥ったのでした。
ただそのミシガン大戦での敗戦以来、彼らは何かに火がついたかのように士気が高まり、ファーストラウンドでテネシー大、そして準々決勝戦でオレゴン大に3ポゼ差以上のマージンをつけて快勝。シーズンの一番重要な時期にピークを迎えていると言えそうです。
QBウィル・ハワード(Will Howard)はミシガン大戦を除いては常に安定したシャープネスを保っており、プレーオフに入ってからはまだ一度もQBサックを喰らっていません。それはひとえにOL陣の奮闘があるからですが、今季彼にはワン・オン・ワンに強く50/50ボールで負けないスーパールーキーWRジェレマイア・スミス(Jeremiah Smith)という絶対的ターゲットがいることも強み。スミスはプレーオフ2試合ですでに322ヤードに3TDを稼いでいるモンスター級WR。これでまだ1年生だというのですから末恐ろしいです。
オハイオ州立大WRスミス(#4)
当然オハイオ州立大には他にもたくさんの武器が揃っています。特に昨オフにはNIL(Name/Image/LIkeness)経由でなんと2000万ドル(1ドル100円計算で約20億円)を使ってロースター補強を行なったと言われています。その中には前述のQBハワードをカンザス州立大から、RBクウィンション・ジュドキンス(Quinshon Judkins)をミシシッピ大から、OLセス・マクラフリン(Seth McLaughlin)とDBケイレブ・ダウンズ(Caleb Downs)をそれぞれアラバマ大からトランスファー経由で入部させることに成功。彼らは即戦力としてチームに貢献しています。
また昨年のメンバーでNFLドラフト入り出来たものの敢えて大学に戻ってきたというベテランの選手たちが健在なのも強み。特にWRエメカ・イブカ(Emeka Egbuka)、DLタイリーク・ウィリアムス(Tyleik Williams)、DL J.T.トゥイモロアウ(J.T. Tuimoloau)、DLジャック・ソイヤー(Jack Sawyer)、DBデンゼル・バーク(Denzel Burke)らが残留したことはチームにとって大きな収穫でした。
オハイオ州立大のトゥイモロアウ(左#44)とソイヤー(右#33)
一方のテキサス大はというと、オハイオ州立大と比べると過去2試合で苦労しています。特にピーチボウルでのアリゾナ州立大戦では後半に猛追を許してOTに突入しあわやアップセットかという状況までに至ってしまいました。テキサス大のランゲームの火力不足が顕著で特にアリゾナ州立大戦ではトータルで53ヤード、1キャリーの平均ではたったの1.8ヤードしかランが出なかったのも大きな危惧となりました。
パスプレーが華である近代のフットボールにおいてもやはりランが構築できなければオフェンスのバランスを失い相手ディフェンスによっては守りやすくなることでしょう。その為にもテキサス大OLがオハイオ州立大のフロントセブンとのスクリメジバトルを制し、ランでヤードを稼いでなるべくポゼッション時間を長くしたいところです。
特に得点力のあるオハイオ州立大との点取り合戦をやり合うのであれば、チャンスがある時に確実にスコアリングしておきたいところ。オハイオ州立大はプレーオフの2試合において前半だけで平均27.5得点しているファーストスタートなチーム。このチームとやり合うには当然QBクウィン・ユワーズ(Quinn Ewers)らのオフェンスにミスは許されません。
テキサス大QBユワーズ
またテキサス大は直近6試合で第3Qに無得点という嫌な傾向があります。SEC優勝決定戦でのジョージア大戦での敗戦を除いた5試合で結果的には勝利していますが、スティーヴ・サーキジアン(Steve Sarkisian)監督というオフェンスに長けた知将がいるにも関わらず、思ったほどスコアリングが高くない(といっても全米15位ですが)のは気がかりです。
特にハーフタイム後のQで得点できないというのは、そのハーフタイム時のアジャストメントが上手くいっていないのか、と素人ながら考えてしまいます。クレムソン大戦にしてもアリゾナ州立大戦にしても、前半2ポゼ差以上ありそのまま行けば楽勝となってもよかった流れを持続できずに逆に相手に反撃を許している面は気がかりです。
サーキジアン監督も今現在のオハイオ州立大は全米で最もホットなチームであると認めています。そのオフェンスはテネシー大もオレゴン大も止めることは出来ませんでした。ただテキサス大のディフェンスはオハイオ州立大がここまで対戦していた相手の中でおそらく1、2を争う鉄壁ユニットだと言えます。スコアリング、ラン、パス、これらのカテゴリーでテキサス大は全米屈指の結果を残しています。これはサーキジアン監督にとっては頼もしいポイントです。
もし試合が僅差になった時にはスペシャルチームの差が勝負を分けるかもしれませんが、Kバート・アーバン(Bert Auburn)はアリゾナ州立大との試合で勝負を決められるという重要な場面で2度もFGを外してしまっています。2度あることは3度あるのか、もしくは3度目の正直となるのか。どんな綻びもオハイオ州立大にとっては大きなチャンスに広がってしまう可能性がありますので、テキサス大としてはとにかく彼らの持っているものを余すことなく披露する必要がありそうです。
注目の選手たち:テキサス大
クウィン・ユワーズ(QB)
2024年度シーズンはQBユワーズにとってまるでジェットコースターに乗っているようなシーズンでした。プレシーズンにはハイズマントロフィー候補選手として名前が挙げられ、並々ならぬ期待を背負って開幕を迎えましたが、怪我で2試合欠場を余儀無くされたり、また調子の波が安定しないためバックアップのアーチ・マニング(Arch Manning)を欲するファンの声を否が応でも聞かされることになったりし、いつの間にかにハイズマントロフィーレースで彼の名前が聞かれなくなっただけでなく、次期NFLドラフトでの株も下げる結果となってしまいました。
数字的には3189ヤードに29TDというスタッツを残しましたが一方で11個のパスINTを犯すなどし、評価はまちまち。ただ前戦のアリゾナ州立大戦では30回中20回のパス成功で322ヤードに3TD(1INT)を記録。特にOTで勝つか負けるかという4thダウンプレーでマシュー・ゴールデン(Matthew Golden)に決めたTDパスには痺れました。
“Texas must convert 4th-and-13… TO STAY ALIVE! CAN THEY HOOK ‘EM?! TOUCHDOWN, MATTHEW GOLDEN!” – Joe Tessitore 🏈🎙️ #CFP pic.twitter.com/a38XeAakMx
— Awful Announcing (@awfulannouncing) January 1, 2025
ユワーズが今回対峙することになるオハイオ州立大はテキサス大が2度負けているジョージア大のディフェンスよりもさらに上だと言われています。オハイオ州立大のスコアリング力を考えるとテキサス大も彼らに負けじと点を取り続ける必要が出てくるでしょう。その鍵を握っているのがユワーズ。また彼は元々オハイオ州立大に在籍していた転校生であり、今回彼の古巣と対戦するということで特別な感情を抱いていることでしょう。それを上手くコントロールできるかも勝敗を分けるポイントとなるかもしれません。
アンソニー・ヒル・Jr(LB)
多彩な攻撃パターンを持つオハイオ州立大オフェンスを止めるためには、LBアンソニー・ヒル・Jr(Anthony Hill Jr)の活躍が必須です。チーム最多となる107タックルに7.5QBサックを決めてきたヒル・Jrですが、彼はこの試合で前出のジュドキンスやトレヴィヨン・ヘンダーソン(TreVeyon Henderson)ばかりでなく、QBハワードをも止めることを任されることになるでしょう。
ヒル・Jrはすでに直近2試合で17タックルを記録しており好調を維持しています。テキサス大ディフェンスがオハイオ州立大オフェンスのオフェンスを攻略するためには彼の最高のパフォーマスが求められることになるでしょう。
ジャーデイ・バロン(CB)
年間最優秀DB賞である「ソープ賞」を今季活躍したのがこのテキサス大のCBジャーデイ・バロン(Jahdae Barron)。全米屈指のパスオフェンスを誇るオハイオ州立大を止めるにはこのバロンが最も重要なプレーヤーになるはず。というのも彼はオハイオ州立大が誇るスターWRジェレマイア・スミスと一騎打ちになる場面が多くなると予想されるからです。
オハイオ州立大と対決したテネシー大およびオレゴン大でさえもオハイオ州立大のパスアタックを止めることはできませんでした。しかし今季ベストDBの称号を授かったバロンにしてみれば、これは彼の進化が試される絶好のチャンスとも言えます。テネシー大・オレゴン大がそれぞれ一気に引き離されて追いつけなくなり負けたという同じ轍を踏まないためにもバロンがスミスやイブカといったレシーバー陣をチェックすることが最重要課題となるでしょう。
注目の選手たち:オハイオ州立大
ジェレマイア・スミス(WR)
言わずと知れたスーパールーキー。才能、体格、パフォーマンス、どれを取ってもすでにNFL級な1年生WRです。5つ星リクルートとして鳴物入りでオハイオ州立大に入部してきたスミスはその期待を裏切らない活躍を続けチームのリーディングレシーバーとしてなくてはならない選手として君臨しています。
今季ここまで1224ヤードに14TDを量産していますが、ポストシーズン中もその勢いは止まらず、準々決勝戦のオレゴン大戦ではなんと前半だけで162ヤードに2TDという数字を残し相手ディフェンスをひざまずかせました。その全てにおいてかつてアラバマ大でプレーしたフリオ・ジョーンズ(Julion Jones)を彷彿とさせるスミスとテキサス大パスディフェンスとの対決は見ものです。
J.T.トゥイモロアウ&ジャック・ソイヤー(DE)
オハイオ州立大のパスラッシュは全米でも屈指で1試合平均のQBサック数は3.4個で全米3位。これを支えるのがJ.T.トゥイモロアウとジャック・ソイヤーの二人です。
プレーオフの2試合においてオハイオ州立大ディフェンスはトータルで12個のサックを記録していますが、そのうちトゥイモロアウは4つ、ソイヤーが3.5個を記録。シーズントータルだと二人合わせて18個ものサックを相手QBに食らわせてきました。当然次なる獲物はユワーズ。テキサス大OL陣が彼らをどれだけ抑えることができるかに注目です。
ケイレブ・ダウンズ(S)
昨年アラバマ大で1年生ながらセカンドチームのオールアメリカンに選出されたケイレブ・ダウンズは2024年度からオハイオ州立大に転校しすぐさま先発の座を射止めました。今季ここまで71タックル、0.5サック、6パスブロック、1INTとスタッツ的には超際立つというものではありませんが、今年度はファーストチームのオールアメリカンに選ばれました。
ポジションはSとなっていますが、Sにとどまらずなんでも出来る器用さと運動能力を備えており、オハイオ州立大のバックフィールドになくてはならない存在。テキサス大にはダウンズと昨年までアラバマ大でチームメートだったアイゼア・ボンド(Isaiah Bond)が在籍していますが、負傷中のボンドがコットンボウルで復帰してくれば、元チームメート同士の戦いが見られるかもしれません。
展望
16年ぶりの対決となるテキサス大とオハイオ州立大のビッグマッチ、今回の舞台はCFP準決勝戦という、勝てばナショナルチャンピオンシップゲーム出場、負ければシーズン終了という究極のシチュエーションを迎えます。開幕前のランキングを振り返ると、どちらもトップ5入りしていたことを考えれば、両チームともここにたどり着くべくしてたどり着いたということになります。
スタッツ上ではどちらのチームも攻守ともに全米トップレベルですが、ロースター的に見るとオハイオ州立大オフェンスのスキルチームがテキサス大のそれよりも多少上回っているという印象を受けます。逆に言えば試合の鍵を握っているのはテキサス大オフェンスがオハイオ州立大のディフェンスからどれだけスコアリングできるのか、という点ではないでしょうか。
テキサス大の今季のトータルオフェンスは1試合平均440.0ヤードで全米12位。対するオハイオ州立大のトータルディフェンスは245.0ヤードで全米1位。これだけ見てもテキサス大が対峙しなければならない壁は高いことが容易に伺えます。
テキサス大のオフェンスの要はパスアタックですが、オハイオ州立大のパスディフェンスは1試合で相手に許すパスヤードが平均152.4ヤード足らずで、これも全米1位の数字。サーキジアン監督が操りユワーズが体現するテキサス大のパスオフェンスは278.4ヤードで全米13位。文字通り全米最強のパスディフェンスを相手にテキサス大がどれだけエアーアタックで崩せるか・・・ここは大いなる注目点です。
もしテキサス大がパスで攻めあぐめば、当然ランも出ないと相手の思う壺ということになってしまいますが、オハイオ州立大のランディフェンスも相当なもので、今シーズンは1試合平均92.6ヤードしか相手に許してこず、これは全米4位の実力です。そしてこれに対してテキサス大のランオフェンスは今季振るわず全米で見ると55位(1試合平均165.6ヤード)。
これはひとえに開幕前に先発予定だったC.J.バクスター(C.J.Baxter)が膝の怪我で手術を受けて今季を棒に振ってしまったことが大きく影響しています。2年生RBクウィントレヴィオン・ワイズナー(Quintrevion Wisner)が1000ヤードラッシャーに成長してくれたのは嬉しい誤算だったかもしれませんが、ピーチボウルのアリゾナ州立大戦ではチームトータルで50ヤードそこそこしか出なかったことを考えるとここは不安材料でしかありません。
ランが出なければパスに頼らざるを得なく、しかしパスに至っても対峙する相手が全米最強レベルのパスディフェンスを持っている・・・。下馬評はテキサス大不利と言われても仕方なさそうです。
これが現実になるとテキサス大には厳しいですが、大量得点できないのであれば、自ずと相手をロースコアゲームに引き摺り込む必要が出てきます。幸いスタッツ上ではテキサス大のパスディフェンスも全米トップレベル。となれば当然オハイオ州立大のスミスやイブカらのようなエリートレシーバー陣とテキサス大のバロンやアンドリュー・ムクバ(Andrew Mukuba)とのマッチアップも実物ですが、それと同時にテキサス大のフロントセブンが相手QBハワードにプレッシャーをかけ続けて自由にパスを投げさせなければ点取り合戦を回避することもできるでしょう。
現在のカレッジフットボール界を代表する策士でもあるテキサス大のサーキジアン監督、およびオハイオ州立大のオフェンシブコーディネーター、チップ・ケリー(Chip Kelly)氏のスキーム合戦、プレーコーリング合戦も目が離せませんが、ミシガン大戦での敗戦以来「アンダードッグ」精神の元にチームの闘志がピークに達しているオハイオ州立大と、「Bend but not Break」という粘り腰のテキサス大、どちらに勝利の女神が微笑むか・・・。注目のビッグゲームです。