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トランスファーの新時代到来?

トランスファーの新時代到来?

ジョージア大QBで先月オハイオ州立大トランスファー(転校)したジャスティン・フィールズ(Justin Fields)。ジョージア大に鳴り物入りの大型新人として入部するも2年生のジェイク・フローム(Jake Fromm)から先発の座を奪うことは出来ず、2018年度シーズンはフロームのバックアップとして限られたプレー機会しか与えられませんでした。

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ベースボール・マガジン社 (編集)

2018年のリクルーティングクラスではクレムソン大トレヴァー・ローレンス(Trevor Lawrence)に次いで2番手にランクされた高いポテンシャルをもつフィールズ。彼がジョージア大を選んだのはフロームから先発の座を奪えると踏んで敢えて先輩のいるチームに入部することにしたのでしょう。そういった意味では昨年度はフィールズにとっては誤算だったのかもしれません。

おそらくフィールズとしてはカレッジで名を挙げてNFLでプレーするのが最大の目標でしょうから、今後フロームのバックアップを2年も務めるのはその夢を達成させるのに足かせとなってしまいます。そこで彼はフロームから先発の座を奪う道ではなく、ジョージア大以外で先発QBとなれる場所を探すために転校することに至ったのでしょう。

「ジョージア大で先発を奪えなければNFLでプレーなどできないだろ」という声も聞かれますが(筆者も同意見です)、NFLという狭き門をくぐるためなら背に腹はかえられないと感じたフィールズの心情も分からないことは無いです。

その彼が新天地に選んだのはオハイオ州立大。ここには昨年までドゥウェイン・ハスキンズ(Dwayne Haskins)という絶対的先発QBがいましたが、シーズン後にNFLドラフト早期エントリーを公表していたため、チームは先発不在でオフシーズン入りしていました。来たるシーズンの先発QBの座を巡って、フィールズはハスキンズのバックアップを務めていた元5つ星QBテイト・マーテル(Tate Martell)との争いが予想されていましたが、フィールズの転校が決ってから程なくしてマーテルはオハイオ州立大を脱出しマイアミ大へ転校していってしまいました。

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これでフィールズとしてはオハイオ州立大という名門校の先発QBを張れる絶好のチャンスとなったわけですが、それには超えなければならない大きな壁がありました。トランスファー選手に課せられるルールです。

というのはFBS(フットボールボウルサブディビジョン)チームからFBSチームへトランスファーした場合、その選手は新天地で1年間プレーできないというルールがあるのです。つまり転校してすぐに試合に出られないというわけです。これは誰でも彼でも簡単にトランスファーできないようにするためのルールであり、転校するのであればそれなりの覚悟とリスクを持ちなさいというメッセージです。

ですから2019年度シーズンに2年生となるフィールズはこのルールに則れば来たるシーズンにプレー資格が無いことになります。

しかし例外もあります。1つは転校する選手がプレー資格を残しながらすでに学位を取得して卒業している場合。この場合は転校先で即試合出場が可能です。例えば昨シーズン後アラバマ大からオクラホマ大へ転校したジェイレン・ハーツ(Jalen Hurts)は12月の時点で学位を取得しているため、2019年度からすぐにオクラホマ大で試合出場することが出来るのです。

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そしてもう1つの例外はNCAA(全米大学体育協会)が特例として即時プレー資格を許す場合です。これにはこの選手がどうしても転校しなければならない特別な理由があった場合に特別に許可されるケースであり、非常に稀な処置であります。

これまでならベイラー大で起きたスキャンダルの余波を受けて大打撃を受けたチームから転校を決めた新入生たちにこの特例が認められたほか、同じようにコーチのスキャンダルによる辞任劇の末にミシシッピ大からミシガン大に転校したQBシェイ・パターソン(Shea Patterson)が転校したその年の2018年度にプレーすることをNCAAから許されました。

通常であればオハイオ州立大に転校したフィールズは1年間ベンチを温めなければならないわけですが、すぐさまプレーしたいフィールズ(そしておそらくマーテルまで失ってしまったオハイオ州立大コーチ陣)はNCAAにすぐにプレーできるよう申し立てをします。何をネタに申し立てをしたのか・・・。それはフィールズがジョージア大時代に味わった「人種差別」の事件です。

遡ること9月。フィールズが出場した試合で観客席にいた同大学の野球部員が彼に向けて人種差別用語を叫んでいたという事件が起きました。ジョージア大の野球部でもプレーしようと考えていたフィールズとしては確かにこの事件は心中穏やかではなかったでしょう。大学側はすぐに調査を開始し、この発言をした部員を即座に退部・退学処分にしました。

ただこの人種差別事件はわかっている限りではこの1度きりであり、その後フィールズ自身から彼がキャンパスで身の危険を感じているという意思表示もなく、また彼の妹さんはソフトボール部員としてジョージア大入りもしており、フィールズがジョージア大で人種差別を受け続けているという話は浮かび上がってきませんでした。

それでもフィールズはジョージア大を出なければならなかったのはこの人種差別事件があったからであり、特例としてこのトランスファーを認めて欲しいと直訴していたわけです。

普通ならば今まで挙げたような状況ではNCAAが特例を認めるとは思えませんでした。しかしこの度NCAAはフィールズの主張を支持し2019年度から即オハイオ州立大で試合出場することを許可したのです。

確かに人種差別という問題はアメリカでは非常にデリケートな問題で、一つ対処を間違えれば大炎上となりかねないトピックです。ですからNCAAがフィールズの訴えを退けて後々非難を受けるぐらいならば願いを叶えてあげた方が都合がよかったのかもしれません。

しかし安易にこのようにトランスファー先で即プレー可能という特例を出してしまうのは非常に危険です。フィールズのケースではどこまで確固たる証拠があったのかは知る由もありませんが、どう考えても今回の訴えはオハイオ州立大で即プレーするための「秘策」だったと見るべきです。もし本当に人種差別で心を痛めトランスファーしたかったのなら疾っくの疾うにしていたはずです。NCAAが今回のケースを許してしまうと今後同じようなケースが増えた時に「ノー」と言えなくなってしまいます。まさにNCAAは「パンドラの箱」を開けてしまったのかもしれません。

カレッジスポーツにおいて学生アスリートが出場機会やセカンドチャンスを求めてトランスファーすることは決して珍しいことではありません。しかしトップアスリートがその上のレベル、つまりプロリーグでプレーすることに重きを置く風潮が顕著となった昨今では所属する大学への執着や義という概念は薄れてきているように思えます。昔ならば3年間誰かのバックアップを務め、最後の1年間だけ先発の座を頂いて大成したアスリートは多くいたものです。しかし所属チームへのロイヤリティーよりもプロで成功するための手段として個を優先する選手が多くなってきたのは事実であります。

トランスファールールはそういった風潮に歯止めをかける大事なルールです。選手がホイホイと所属チームを変えるようなことがあればそれこそ「本分は学業」と謳うNCAAの軸から外れることになるからです。

米男子大学バスケでは「One & Done」と言われる言葉があります。これは大学バスケのルールでは大学1年間を経ればプロ入り出来るというルールのことを指すのですが、それ故に入部時にすでにプロ候補生と言われる選手たちは1年生シーズンが終わるとNBAの早期ドラフト入りを宣言し大学を離れる選手が後を絶ちません。「いったい何のために大学にやってきたんだ?」という批判の声も聞かれます。米バスケットボール界において大学バスケはまさにNBAのファーム的存在が色濃くでているわけです。

一方カレッジフットボールではプロ入りするためには「高校卒業後3年後」でなくてはならない、という明確なルールがあります。そのため昨年トゥルーフレッシュマン(真の1年生、入学直後からプレーし始めた1年生のこと)だったクレムソン大のローレンスはプロ入りまで後2年間待たなければならないのです。

フットボールにはこのようなルールがあるためにある程度の期間大学でプレーしなければならなく、これが大学選手の早すぎるプロ入りを防ぎ、大学がNFLのファーム化となる事に歯止めをかけています。しかしNFLの世界が華やかになればなるほどそこにたどり着きたい高校・大学選手が増えるわけで、カレッジフットボールはそこに行きつくための通過点でしかない、という認識が少しずつではありますが強くなっている気がします。

もしカレッジフットボールのトランスファールールが緩くなり、今よりもさらにトランスファーするリスクが減ることになれば、カレッジフットボールはカオスに陥ることになるでしょう。もちろん自分はNFLでやれるタマではないと自覚している選手は山ほどいるでしょうが、高校で持てはやされそのせいで自分は自動的にプロでやれるんだと勘違いしているリクルートたちは大学での現実にぶつかり、入学時から先発スター選手になるという描いていた夢が叶わなくなると、その座を努力して獲得するのではなく、競争が緩やかそうなチームへと転校する。そんな安易な流れができてしまう可能性があるのです。

例えば3年前、アラバマ大で1年生ながら先発QBに指名された元5つ星リクルートのブレイク・バーネット(Blake Barnett)は開幕戦のサザンカリフォルニア大で大苦戦。するとその試合中にベンチに下げられ前述のジェイレン・ハーツが登場しチームに勝利をもたらすと先発の座はそのままハーツのものになりました。するとバーネットはアラバマ大から転校。アリゾナ州立大で新たなプレー機会を探りますがここでも鳴かず飛ばずで今度はサウスフロリダ大へ。ようやくここで先発の座を射止めましたが、全米の表舞台に立つことはありませんでした。転校したからといって必ずしもいい結果が待っているわけではない訳です。

オハイオ州立大から逃げ出した転校したマーテルはマイアミ大へ転校しましたが、彼も転校生として次シーズンは試合に出場することはできません。しかしマーテルもフィールズと同じように来季から即プレーできるようにNCAAに申請中です。その理由は「オハイオ州立大でコーチ陣のシャッフルがあったから」だとか。

オハイオ州立大では昨シーズン後にアーバン・マイヤー(Urban Meyer)監督が引退しライアン・デイ(Ryan Day)氏がチームを引き継ぎましたが、マーテルが言うには自分はマイヤー監督がいるからオハイオ州立大に来たのであって、その途中で監督が変わってしまったのは自分のせいではないから特例を認めて欲しいと言うことです。

しかしそんなケースはこれまでも山ほどありマーテルの主張が認められることはまずないと思いますが、仮にこれが認められればそれこそパンドラの箱が大開放されることになります。カレッジフットボール界のフリーエージェントの始まりです。そうなれば強い大学が現役選手を勧誘して引き抜いたりしてスーパーチームを作り出すことができる可能性も秘めることになりますし、それはただでさえ強いチームとそうでないチームの差が激しい現状をさらに悪くするばかりです。

またコーチたちも自分が高校から引っ張って来た選手たちが転校してしまわないかという不安を抱えながら仕事をしなければならなくなります。有能な選手をたくさん抱えられたとしても出場できる選手は限られています。もしフィールズのような高いポテンシャルを持つ選手がたくさんいるチームならば、彼らを試合に使って「飴」を与え続けなければそのような選手たちに逃げられてしまいます。コーチたちのロースター管理にも負担がかかるわけです。

フィールズの場合は人種差別というカードを用いてNCAAから特例を引き出しました。果たして今後トランスファールールが改められカレッジフットボールにフリーエージェントの波が訪れるのか・・・。しかしそうなればカレッジスポーツというアマチュアリズムとか学生アスリートという概念が薄れてしまうため個人的にはあまり受け入れたくない改革ですけれどね。

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