大学スポーツ全ての運営・管理に関わる団体がNCAA(全米大学体育協会)です。彼らの主な仕事として各大学がルールに法って行動しているかどうかに目を光らせるということがありますが、ルール違反を犯した大学やチームには容赦ない鉄槌を下してきました。そんなNCAAから今回制裁を食らうことになったのがSEC(サウスイースタンカンファレンス)のミズーリ大です。
原因はフットボール部員を学業の面で手助けするチューター(個人教師のようなもの)が数人の選手の数学の宿題を替え玉として行なっていたということ。またその内2人のチューターはプレイスメント試験(生徒がどれだけ数学の知識を持っているかを見分ける試験)を直接試験場で手助けしていたがことも発覚。これがNCAAの定める道徳的行為違反、学業面での不正行為と見なされたのです。
今回の制裁でミズーリ大に下されたもっとも重い処分は2019年度におけるポストシーズン(レギュラーシーズン後)の試合出場禁止処分です。これによりチームが地区優勝に値する成績を残したとしてもSEC優勝決定戦に出場することは出来ず、ボウルゲーム出場も禁止。さらに言えば仮に彼らがカレッジフットボールプレーオフ(CFP)に出場足るチームだったとしてもそれを許されることはなくなってしまいました。つまり来年度彼らはナショナルチャンピオンはもとよりSECチャンピオンにもなれないことがすでに決定事項となってしまった訳です。
さらに追加処分として以下の処分が下されています。
- 来年度5%のスカラシップ(スポーツ奨学金)を削減
- 7週間の高校生リクルートの非正規ビジット(リクルートがキャンパスに見学に来ること)禁止
- 12.5%の正規ビジット数の削減
- リクルートと連絡を取ることを7週間禁止
- キャンパス外でのリクルーティング活動を7週間禁止
処分を食らった当のミズーリ大は2016年時点でこのことが明るみになって以来NCAAに全面的に協力して調査を行ってきたにも関わらずここまで厳しい処分が下されたことに驚きと遺憾の意を表しています。体育局長のジム・スターク氏はNCAAに上告する意のようです。それは当然と言えるでしょう。特に2014年に明らかになったノースカロライナ大での学業面での不正行為では3年の調査の結果、彼らはNCAAの制裁を逃れたというケースがあり、ミズーリ大側からしてみればなぜ自分達だけ?という気持ちになるのも分からないでもありません。
この制裁のとばっちりを食らったのは当然何の落ち度もない現役選手達です。ミズーリ大がナショナルタイトルを狙えるチームかどうかは別として、大学でフットボールをプレーする以上所属するカンファレンスタイトルを獲るのは選手達の大きな目標です。それをプレーする前から成し遂げられないことだと突きつけられるのは何とも非常な事実であります。
そんな中忘れてならないのは、クレムソン大から転校して来季からミズーリ大で復活を画策していたQBケリー・ブライアント(Kelly Bryant)です。
クレムソン大からミズーリ大に転校しセカンドチャンスを手に入れていたブライアントでしたが・・・
彼は2017年度にデショーン・ワトソン(Deshaun Watson、現ヒューストンテキサンズ)の後を継いで先発出場し、12勝2敗という好成績を残しましたが、昨年度途中に1年生QBトレヴァー・ローレンス(Trevor Lawrence)に先発の座を奪われ、そのままクレムソン大を退学。4年生として残り後1シーズンをどこでプレーするかに注目が集まっていましたが、その彼が新天地として選んだのが何を隠そうこのミズーリ大だったのです。
クレムソン大はご存知の通りブライアントが去った後も快進撃を続けナショナルチャンピオンに輝きました。しかしブライアントとしてはナショナルタイトルを得ることよりも、プロの世界で挑戦するためには1年生のバックアップを務めている場合ではない、とトランスファー(転校)することを決めた訳です。彼の頭の中にはおそらくミズーリ大で大成し、名を挙げてNFL入りを果たそうというシナリオが描かれていたことでしょう。
しかし今回のNCAA制裁により、せっかく転校したというのにその行き先でレギュラーシーズン以降の試合に出ることができないという決定を突きつけられたのです。ミズーリ大は絶対的QBだったドリュー・ロック(Drew Lock)が卒業し、ブライアントも自分が先発になれると判断してミズーリ大入りを決めたことでしょうが、まさかこんなところに落とし穴があるとは知るよしもなかったでしょう。
気になるのは果たして自分のプレー機会のためにクレムソン大を飛び出たブライアントが制裁下に置かれたミズーリ大に留まるのかどうかというところですが、今の所彼はミズーリ大からさらに別のチームに移るつもりはないらしいです。確かに不運なところはありますが、コロコロ所属チームを変えまくるもの逆にNFLスカウトにいい印象を与えませんから、こうなった以上ブライアントはミズーリ大でレギュラーシーズン中に大活躍しようと腹をくくらなければならないでしょうね。