脳震とう(Concussion)の危険性が明らかになり、そのためのルール改正などが行われるようになって数年経ちますが、研究が進むに連れ後の人生に後遺症となって現れる重大な可能性が叫ばれるようになりました。
脳震とうの脅威
以前ならば脳震とうは患ったとしても根性でプレーをし続けるという悪しき習慣がありましたが、カレッジ時代(もしくはそれ以前から)蓄積された脳へのダメージによりうつ病を発病したり最悪の場合自ら命を立つような事件も見受けられました。それは脳震とうがどれだけ後の人生に影響を及ぼすかまだ誰もわからなかった時代に、十分なケアを受けずにプレーし続けた選手たちが自らの体で世間にその危険性を提示し始めているともいえます。
そのおかげで世間一般の脳震とうへの意識は高まり、それが大変危険なものであることが認知されてきました。例えば脳震とうを患った選手は復帰するためには数々のステップ・テストをパスしなければならなくなりましたし、複数回脳震とうを受けた選手は引退を勧告されるということも珍しくなくなってきました。
ルール改正も脳震とうの発生率を低くするための試みの一環です。故意に頭部を狙ってタックルする「ターゲッティング」の反則はそれをしただけで一発退場という厳しいファールですし、キックオフ地点が35ヤードラインになったのもキックオフリターン時に脳震とうの発生率が高いという統計から、なるべくリターンできないようにするために施されたルール改正です(キック位置が相手陣内に近づくことによりキック自体がエンドゾーンへ飛んで行きやすくした)。
脳震とう防止のためにルール改正されたことは一般的に受け入れられていますが、現役の選手の中ではルールを改正し過ぎてはフットボールの存在自体が危ぶまれるのではないか、と疑問を投げかける者もいるのも確かです。しかし選手としての時間よりも引退後の人生のほうが遥かに長いことを考えれば、人として健康に人生を全うできる方が遥かに重要だと考えます。
ジャクソン氏の危惧
それに同調するのが元アーバン大RBでハイズマントロフィー受賞者、そしてNFLの殿堂入り選手でもあるボ・ジャクソン(Bo Jackson)です。
彼は選手時代に脳震とうがどれだけ自分の脳に影響を及ぼすかは当時活躍した選手たちと同じように知る由もありませんでした。近年前述の通り脳震とうが及ぼす影響が徐々に明らかになる中、ジャクソン氏はそれを知らずにプレーし続けたことを後悔していると話したのです。そしてそれを知った今、自分の子供には絶対にフットボールをプレーさせたくないとも言っています。
「もし私がプレーしていた当時、現在明らかになっている脳震とうに関する情報を知っていたならば、私は絶対にフットボールをプレーしていなかったでしょう。叶うならば当時脳震とうが及ぼす影響などの情報を認知していたかった。しかし当時は誰もそれに関して知っているものはいなかったのです。そして脳震とうが及ぼす影響を危惧していた人たちもそれを声に出すことはしなかったんです。」とはジャクソン氏。
「フットボールは年を増すごとにその激しさを増していきました。そして我々は今脳震とうが及ぼす後遺症、CTE(Chronic Traumatic Encephalopath)について色々学びました。それを知ってしまった以上、私は子どもたちにフットボールをプレーさせることなど考えられません。もちろんスポーツとしてフットボールを愛してやみませんが、もし子どもたちがフットボールをやりたいと言ってきたら、無理矢理でも止めさせるでしょうね。」とジャクソン氏は続けました。
CTEについて意見を述べる元選手たちは増えてきましたが、ジャクソン氏のように現役時代に大活躍したスター選手がここまでフットボールをプレーすることに否定的であるのには多少の驚きを隠せません。彼のような大物がこのようなコメントを残したことは今後フットボールをしたがる子供を持つ親やコーチ、もしくは選手自身に影響を及ぼすかもしれません。