2023年の全米チャンピオンを決めるためのプレーオフ「カレッジフットボールプレーオフ(CFP)」。その栄えある舞台に駒を進めることが出来たのが4チームありますが、その準決勝第1試合目となるのが第1シードのミシガン大と第4シードのアラバマ大が対戦するローズボウルです。
📌 場所:カリフォルニア州パサデナ市
⏰ 日時:1月1日米東部時間午後4時(日本時間1月2日午前6時)
ここまでの歩み
ミシガン大
ここ最近なかなか表舞台に立つことがなかったミシガン大。名門再建の切り札として2015年にHCに招聘したのがOBのジム・ハーボー(Jim Harbaugh)監督でした。
2015年から2019年までの5年間は二桁勝利シーズンが3つと明らかにミシガン大の復権の土台を築きはしましたが、肝心なBig Tenカンファレンスタイトル、そしてもっと重要とも言える宿命のライバル・オハイオ州立大に負けっぱなし。カリスマ性はあるものの結果が伴わず、しかも2020年度に行われた短縮シーズン(新型コロナウイルスのパンデミックのため)では2勝4敗と負け越してしまい、いよいよハーボー監督の去就問題にも発展するかと言われていました。
しかし2021年にはようやくオハイオ州立大を倒しBig Tenカンファレンスのタイトルも取得して悲願だったCFPに出場。その翌年となる2022年も同じくオハイオ州立大に競り勝ちBig Tenタイトルを2連覇して2年連続CFPに出場を果たすなど、一気にハーボー監督の蒔いた種が開花したのです。
そして迎えた今シーズンですが、オフシーズンにミシガン大がNCAAの規則違反(リクルーティング違反やコーチ以外の人物に指導させたこと)が明らかになり、その自主規制としてミシガン大はハーボー監督に開幕から3試合の謹慎処分を下しました。
そんな中でもミシガン大は開幕後から白星を重ね続けます。ここ数年彼らは強力なディフェンスとランを重点的にした、古き良きBig Tenフットボールともいえるスマッシュマウス的なスタイルでアイデンティティを確立。2021年と2022年に2年連続ジョー・モアー賞(最優秀年間OLユニット賞)を獲得したOL陣をバックボーンに、RBブレイク・カーラム(Blake Carum)とドノヴァン・エドワーズ(Donovan Edwards)という2人の有能ラッシャーを擁し、さらには機動力のあるQB J.J.マッカーシー(J.J. McCarthy)と3人合わせてここまで30TDを足で稼いでいます。
ディフェンス面では失点数が全米1位(9.46点)、ランディフェンスが全米5位(86.6ヤード)、パスディフェンスが全米2位(152.6ヤード)、トータルディフェンスが全米2位(239.2ヤード)とどのスタッツを取っても全米トップクラス。特にメイソン・グラハム(Mason Graham)、ケネス・グラント(Kenneth Grant)、クリス・ジェンキンス(Kris Jenkins)が控えるDL陣、そしてジュニア・コルソン(Junior Colson)、マイク・バレット(Mike Barett)らで構成される2列目含むフロントセブンの右に出るものはありません。
特にグラントですが、彼がペンシルバニア州立大戦で見せたこのパシュートは圧巻。340パウンド(約154kg)の巨体なのにRBに後方から追いつくこのスピード・・・。
Michigan DT Kenneth Grant weighs 340 pounds.
— Big Ten Network (@BigTenNetwork) November 12, 2023
Watch big No. 78 show off the wheels on this tackle from behind. 👀@KennyGrant78 x @UMichFootball pic.twitter.com/nUjeq5sBv3
そんな強力ユニットを擁するミシガン大でしたが、シーズン後半にチームスタッフが対戦相手のサインを盗んでいたと言う疑惑が明らかになり、その責任を負う形でハーボー監督がレギュラーシーズン戦3試合に欠場というハンディを置くことになりました。この間指揮を取ったのがシャロン・モアー(Sherrone Moore)氏でしたが、彼のもとでミシガン大はペンシルバニア州立大、メリーランド大、そしてオハイオ州立大戦で3連勝。スキャンダルそして監督不在という逆風を乗り越えてBig Ten東地区を制覇したのです。
そして出場したBig Ten優勝決定戦ではアイオワ大とのディフェンスバトルを演じ、結果的には26対0で守備陣が相手を完封して見事13勝無敗でレギュラーシーズンを終了。発表されたCFPファイナルランキングでは見事に1位を獲得し3年連続のプレーオフ進出を決めたのでした。
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アラバマ大
過去10年間で5度のナショナルタイトルを獲得してきたアラバマ大ですが、ハイズマントロフィー受賞QBでもあったブライス・ヤング(Bryce Young)の最終年だった2022年はSECタイトルを逸し、しかもスキルプレーヤーでこれまでのような逸材が見当たらないことから、いよいよアラバマ大の時代も過渡期を迎えていると思われました。
実際今シーズン当初は2戦目でテキサス大にホームで敗れる波乱。その翌週のサウスフロリダ大戦では開幕時からの先発QBジェイレン・ミルロー(Jalen Milroe)を第3番目のQBに下げ、ノートルダム大からの転校生、タイラー・バックナー(Tyler Buchner)を起用するも散々な出来でタイ・シンプソン(Ty Simpson)を投入するなど迷走(ちなみにバックナーはシーズン後にラクロス選手としてノートルダム大へ戻っていきました)。
走力と投力はあるものの、ターンオーバー癖が気になったミルローでしたが、4戦目に先発の座を再び手に入れるとそこから試合をこなすたびに成長を見せ、また彼の出来と共にOL陣のパフォーマンスがブラッシュアップされ、相手を圧倒することはないものの白星を得るには足りる展開で連勝を重ねていきます。
これには今年からオフェンシブコーディネーターを任されている、元ノートルダム大OCのトミー・リース(Tommy Rees)氏の絶妙なプレーコーリングとプランニングによるところも大きいかと思います。
とはいえ、これまで観てきたアラバマ大と比べると危うさを感じずにはいられないのは確かで、勝った試合でも場合によっては負けていた試合というのも少なくなく、その際たるものは宿敵アーバン大との「アイロンボウル」。この試合ではリードを奪われた状態で迎えた第4Q残り約30秒、4th&ゴール@31ヤードという絶体絶命の状況でミルローがアイゼア・ボンド(Isaiah Bond)にミラクルTDパスを通して1敗を守りました。
TOUCHDOWN ALABAMA ON 4TH AND A MILE!
— CBS Sports (@CBSSports) November 26, 2023
UNREAL! pic.twitter.com/rX5XPRsuzV
そしてSECタイトルゲームでは全米1位のジョージア大と対戦。ジョージア大有利と思われた中、ミルローの活躍とディフェンスの奮闘で27対24とアップセットを演じSECタイトルを2年ぶりに獲得して2年ぶり8回目のプレーオフ進出を果たしました。
これまで2000年代後半からニック・セイバン(Nick Saban)監督が築き上げてきたアラバマ大のダイナスティーは昨今のジョージア大の台頭もあって終末期にあると言われていました。チームを見ても数年前のチームと比べれば戦力に穴があることは否めません。しかしそんな中でもシーズン中に急成長して紆余曲折を経ながらもプレーオフに進出を果たしたのは流石。
そんなことからも今年のチームは17年間アラバマ大でHCを務めるセイバン監督にとっては最もコーチしがいのあるチームだったとも言われており、また完全無欠でないのにも関わらずプレーオフに進出を決めたことから、彼にとって最高傑作だという声も聞かれます。
スタッツ比較
161.8 (#59) | ランオフェンス | 172.7 (#47) |
218.8 (#72) | パスオフェンス | 228.5 (#59) |
36.7 (#14) | スコアリングオフェンス | 35.1 (#18) |
380.5 (#67) | トータルオフェンス | 401.2 (#53) |
87.1 (#5) | ランディフェンス | 124.5 (#29) |
152.6 (#2) | パスディフェンス | 188.8 (#23) |
9.46 (#1) | スコアリングディフェンス | 18.25 (#16) |
239.7 (#2) | トータルディフェンス | 313.3 (#18) |
大きく括るとどちらも似たようなスタイルを持つチームだと言えます。特にディフェンスヘビーである点は見逃せませんが、ミシガン大のディフェンスのスタッツはどれも全米ランキングで一桁という驚異的な守備力を誇っています。
パス | J.J.マッカーシー 2630yd/74.2%/19TD/4INT | J.ミルロー 2718yd/65.5%/23TD/6INT |
ラン | B.カーラム 1028yd/24TD D.エドワーズ 382yd/3TD | J.マクレラン 803yd/6TD R.ウィリアムス 561yd/5TD |
レシーブ | R.ウィリアムス 662yd/11TD C.ラヴランド 572yd/4TD | J.バートン 777yd/8TD I.ボンド 621yd/4TD |
ディフェンス | J.ハレル (DL) 28TOT/6.5SACL M.バレット (LB) 52TOT/2SACK M.セインリスティル (CB) 30TOT/6INT | J.イボイグビ (DL) 59TOT/7SACK D.ターナー (LB) 50TOT/9SACK T.アーノルド (CB) 61TOT/5INT |
このスタッツ表れていないのはアラバマ大のミルロー脚力です。彼はチーム3番目のランヤードととなる468ヤードにチーム最多となる12ランTDを記録。またポケット内でのプレゼンス(出立ち)も落ち着いたところを見せており、時折持ちすぎてサックをくらいはしますが、静と動がはっきりしているQBです。
一方ミシガン大は12パーソネル(TEを2人配置するフォーメーション)を好んで使うチーム。チーム2番目のレシービングヤードを誇るコルストン・ラヴランド(Colston Loveland)、そして4番目のヤード(249ヤード、1TD)を誇るA.J.バーナー(A.J. Barner)に注目です。
過去の対決
1988年 | ミシガン大28、アラバマ大24 |
1997年 | アラバマ大17、ミシガン大14 |
2000年 | ミシガン大35、アラバマ大34 |
2012年 | アラバマ大41、ミシガン大14 |
2020年 | アラバマ大35、ミシガン大16 |
合計 | アラバマ大3勝、ミシガン大2勝 |
カレッジフットボールを語る上で外すことができないこの名門同士の対決ですが、意外にも直接対決は5度しかありません。2000年の対決はオレンジボウル。この時ミシガン大にはトム・ブレディ(Tom Brady)氏、アラバマ大にはショーン・アレキサンダー(Shaun Alexander)氏が所属していました。
注目ポイント
まず注目したいのはミシガン大オフェンスとアラバマ大QBミルローの対決。ミシガン大がこれまで対決してきた相手にミルローのようなタイプのQBはいませんでした。スクランブルでき、肩も強いというミルローをどのように攻略するか・・・。レギュラーシーズン後半にはミルローをマークする「スパイ」を1人だけでなく2人用意するチームも登場していましたが、ミシガン大ディフェンスとミルローのマッチアップに注目したいです。
そしてミシガン大の伝家の宝刀とも言えるランオフェンスがアラバマ大ディフェンスに通用するのかどうか。アラバマ大は強力なランオフェンスを誇るジョージア大との試合で相手を78ヤードに抑えることに成功。もしRBカーラムおよびエドワーズが相手ディフェンスに抑え込まれるとオフェンスが単調になってしまう可能性も。そうなった時の鍵は実は走れるQBマッカーシーの足かもしれません。アラバマ大は機動系QBに弱いという印象があり、ここから崩していくというのもありなのかも・・・。
ミシガン大は過去2年間プレーオフに進出するもいまだ決勝戦に進めていません。1997年以来の悲願の全米制覇を狙うためにはまずこのアラバマ大という山を崩さなければなりません。
一方のアラバマ大は「彼らの時代は終わった」と言われる中ここまでたどり着いたのは圧巻。過去10回のプレーオフ中8度目の出場ということで、在籍中の選手の中には2年前のプレーオフに出たことのある選手もおり、大舞台は慣れたもの。ローズボウルでは6勝1敗と相性も良く、2020年ぶりの優勝を狙うためにもミシガン大を是非倒したいところです。