いよいよ2020年のNFLドラフトまで数時間となりました。今サイトはカレッジフットボールを主に取り上げるサイトですが、やはりカレッジで成功した選手たちがどのプロチームに旅立っていくのか、そしてどれだけプロでやれるのか、というのは非常に興味をそそります。そこでここでは今年のドラフトをカレッジフットボールファンとしてどう楽しむかを書いてみたいと思います。
総合ドライチ選手輩出は監督の誇り?
ドラフト総合順位1位(ドライチ)の選手が必ずしもその年のベストプレーヤーということにはなりません。それはドライチを引き抜く権利を持っているチームのニーズに左右されるからです。とはいえやはり一番最初に選ばれるというのは栄誉なことですし、今後一生歴史にその名が刻まれることを考えればそれが誰であろうと注目されるのは当然のこと。
そしてもっといえばそんなドライチ選手を世に送り出すことのできるカレッジチームの監督にとってもそれは大いに胸を張れる勲章なのではないでしょうか。
現在FBS(フットボールボウルサブディビジョン)に所属する現役監督でこれまで総合ドライチ選手を輩出したコーチは全部で7人います。
監督 | ドライチ選手 | 年 |
---|---|---|
リンカーン・ライリー (現オクラホマ大) | カイラー・マレー (オクラホマ大) | 2019 |
ベーカー・メイフィールド (オクラホマ大) | 2018 | |
ケヴィン・サムリン (現アリゾナ大) | マイルズ・ギャレット (テキサスA&M大) | 2017 |
ソニー・ダイクス (現SMU) | ジャレッド・ゴフ (カリフォルニア大) | 2016 |
ジンボ・フィッシャー (現テキサスA&M大) | ジェーミス・ウィンストン (フロリダ州立大) | 2015 |
デヴィッド・ショウ (現スタンフォード大) | アンドリュー・ラック (スタンフォード大) | 2012 |
レス・マイルズ (現カンザス大) | ジャマーカス・ラッセル (ルイジアナ州立大) | 2007 |
デヴィッド・カットクリフ (現デューク大) | イーライ・マニング (ミシシッピ大) | 2004 |
気付かされるのは2017年度のマイルズ・ギャレット以外は皆QBであるということです。イーライ・マニングはとうとう昨シーズン後に引退しましたが、16年間も現役でプレー出来たのはひとえにQBというポジションのお陰なのでしょう。
またその他では上にあげた監督のうちオクラホマ大のリンカーン・ライリー(Lincoln Riley)監督とスタンフォード大のデヴィッド・ショウ(David Shaw)監督以外は、それぞれの選手がドライチされたときのチームから現在はチームを乗り換えたか解雇されて別のチームで現在起用されている監督ばかり。カレッジフットボール界のコーチング市場が非常に流動的であることの証ともいえそうです。
そしてこのリストに新たに名前を刻む監督が今年は誰になるかが気になるところですが、今のところその可能性があるのがQBジョー・バロウ(Kyler Murray)を指導したルイジアナ州立大のエド・オルジェロン(Ed Orgeron)監督と言われています。そしてお気づきだと思いますが、このバロウのポジションもやはりQB。総合ドライチ選手を指名するチームがどの選手をドラフトするかはそのチームの台所事情に左右されますが、チーム再建においてQBというポジションが重要な側面を担っていることを示しているいい例だと思います。
ちなみに上に紹介した名前を見て気づかれた方もいるかもしれませんが、現役最強コーチと謳われるアラバマ大のニック・セイバン(Nick Saban)監督の名前がありませんよね。彼はこれまで6度のナショナルタイトル獲得に成功していますが、いまだにドライチ選手をプロの世界へ送り出していないわけです。彼の息のかかった選手で最もそれに近づいたのは2012年のRBトレント・リチャードソン(Trent Richardson)の総合3位でした。しかもそのリチャードソンは今では「ドラフトバスト(後述)」として知られるようになってしまい、セイバン監督にとっては決して胸を晴れるようなことではありません(もっとも本人はそんなことは気にも留めないのでしょうが)。
ドライチ選手は誰か?
今年の総合ドライチ指名権を持っているのはシンシナティベンガルズです。おそらくNFLに詳しい読者の方ならば今回彼らがが先ほど紹介したジョー・バロウを指名することが当確であることはご存知のことでしょう。
ベンガルズは2011年から元テキサスクリスチャン大のアンディ・ダルトン(Andy Dalton)が先発QBを担ってきましたが、昨年度は開幕後0勝8敗となったところでついに先発の座をルーキーのライアン・フィンリー(Ryan Finley、元ノースカロライナ州立大)に奪われてしまいます。しかしフィンリーでも連敗が止まらず結局ダルトンは先発の座を取り戻します。
ダルトンが大学時代所属していたテキサスクリスチャン大といえば今でこそFBS(フットボールボウルサブディビジョン)の上位カンファレンス群である「パワー5」に所属していますが、彼が現役時代にはテキサスクリスチャン大は「パワー5」とほぼ同義の「BCSカンファレンス」ではない「非BCSカンファレンス」扱いを受けていました。
「非BCSカンファレンス(Non-BCS)」は今で言う「グループオブ5」カンファレンス群ですが、BCS時代(1998年〜2013年)に「非BCS」チームがメジャーボウルゲーム(BCSボウルゲーム)に出場するのはそうかんたんなことではありませんでした。
そんな中当時「BCSバスター」というあだ名を背負っていたテキサスクリスチャン大は2009年度と2010年度に見事BCSボウルに出場。2009年度はフィエスタボウルでボイジー州立大と対戦し、2010年度はローズボウルで当時4位のウィスコンシン大と激突しこれを退け13勝0敗でファイナルAPランキングで全米2位にまで上り詰めました。ちなみにこの年全米制覇をしたのはテキサスクリスチャン大と同じく無敗だったアーバン大で、このチームにはキャム・ニュートン(Cam Newtown)が在籍していました。
ということでダルトンは大学ではカリスマ的存在なのですが、プロではプレーオフでワイルドカードより上に進んだことは皆無でありピークを越えた感じは否めず、彼の時代の終焉が訪れていると囁かれて数年。いよいよチームはポスト・ダルトンとして次なるフランチャイズQBとなる人材を今ドラフトで指名すると考えるのが妥当なようです。
となれば昨年ハイズマントロフィーを受賞し、ルイジアナ州立大を15勝無敗の全米チャンピオンに導いたバロウがトップ候補に挙げられるのは自然なことです。しかもバロウは元々オハイオ州出身。ルイジアナ州立大に転校する前はオハイオ州の旗艦大学・オハイオ州立大に所属していたこともあり、ベンガルズにドラフトされるということは彼がオハイオ州に凱旋するということでもあり、まさに相思相愛の様相を見せています。
カレッジフットボールファンが見るドラフト
当サイトはカレッジフットボールファンサイトですので、NFLドラフトに関してはNFLファンの視点としてよりもカレッジフットボールファンとしての視点として情報をお伝えしているつもりです。筆者はNFLのディープな話をできるほど詳しい知識を持ち得ていませんので、そういった方にとっては非常に物足りない情報ばかりかもしれませんが・・・。
それはさておき、NFLドラフトをカレッジフットボールファンが捉えるとき、まずはカレッジ界で名を馳せた名選手たちがどのチームに選ばれるのか、そしてどこまでプロの世界でやれるのか、といった点が気になるところだと思います。
そしてもう一つは自分の贔屓のチームから何人の選手がドラフトされていったのか、というのも興味津々な点です。それはそのチームのファンの自己満足であるという側面は否定できませんが、一方でその数が多ければ多いほどそのチームは翌シーズンにて戦力ダウンは間逃れないという見方もできるはずです。
もっともドラフトで何人の選手が選ばれていったかを知らなくても、シーズン終了時にどれだけの選手が卒業ないし早期ドラフト入り宣言をしてチームを去っていくかは既に分かっていますから、ドラフト前からどれだけ戦力が落ちるかはある程度把握できます。しかしそれでもやはりドラフトで同じチームから二桁数の選手が一度にプロへ流出したとしたら、ファンへのインパクトは超弩級です。
例えば2017年のドラフトではミシガン大が11人もの選手をプロ入りで失いました。そしてそれが直接の原因かどうかはわかりませんが、2018年度のミシガン大は調子を大きく落として8勝5敗と残念なシーズンを送る羽目になってしまいました。
一方で2018年ドラフトで12人をプロ入りで失ったアラバマ大は選手の補填に成功して昨年CFPナショナルチャンピオンシップゲームに進出。クレムソン大に惜しくも二連覇を阻まれましたが、4年連続でタイトルゲームに駒を進めることが出来たのはニック・セイバン監督以下コーチ陣のリクルート力と指導力が実を結んだ証拠ともいえます。強いチームは選手が抜けても次世代の選手たちがしっかりと育っているものです。それをドラフトの結果で確認できるというわけです。
今年で言えば昨年の全米覇者であるルイジアナ州立大は今ドラフトに多くの人材を送り込もうとしています。モックドラフトなどを見てみると各ポジションの上位には必ずと行っていいほど同校出身選手の名を見つけることが出来ます。
その最たる人物がQBジョー・バロウなのですが、それ以外にも合計で8人のLSU出身選手がドラフトのトップ50候補に名を連ねています。果たしてドラフト終了後に何人のLSU出身選手がプロ入りのチケットを手にしているか・・・。一つのチームに未来のNFL選手が多数いることがそのチームの強さの測りとなるのであれば、昨年のルイジアナ州立大は歴代カレッジチームの中でも上位にランクされることになるかもしれません。
ちなみにですが過去にさかのぼった時、将来的にNFLでプレーすることになる選手を最大数擁していたチームはおそらく2001年のマイアミ大です。この年のマイアミ大にはなんと17人もの未来の第1巡選手(2002年ドラフト:5人、2003年ドラフト4人、2004年ドラフト6人、2005年ドラフト:2人)が所属していたのです。
2019年度のルイジアナ州立大が2001年度のマイアミ大と比較できるようになるまではあと数年かかりますが、たとえ彼らがマイアミ大の数字に追いつけなかったとしても、彼らが昨年成したことを考えれば後世に2019年度のルイジアナ州立大が過去最強のチームの1つと数えられてもおかしくはありません。
15勝無敗という記録、ほぼ誰も手を付けることが出来なかった勝ちっぷり、特にテキサス大、フロリダ大、アーバン大、アラバマ大、ジョージア大、オクラホマ大、クレムソン大という強敵を全て蹴散らしたという事実だけで彼らが最強だったという称号を与えられるに値すると思うのです。
過大評価/過小評価される選手たち
ドラフトの過程でさもNFLでの未来のスターを保証されるような取り上げられ方をされる選手はたくさんいますが、その過程で過大評価され実際にプロの世界で活躍できず期待を裏切る選手、いわゆる「ドラフトバスト(Draft Bust)」はどんなドラフトでも存在します。これまでも散々持ち上げられながら結果を出せなかった選手はたくさんおり、貧乏くじを引かされたチームも数多存在します。
当然ドラフト前から誰がプロで失敗するかなどわかるはずもありません。カレッジで成功したとしてもプロでは個人のレベルが桁外れですから、大学での活躍がそのままプロで再現できる保証もないのです。ですからプロチームはスカウティングに膨大な時間を割き、なるべくはずれくじに当たらないように心がけるわけです。
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その一方で評価されなかったにも関わらず、プロの世界で開花し思わぬ活躍をするような「お買い得」な選手もいたりします。その数は多くはありませんが、例えば2000年ドラフトで第6巡目にニューイングランドペイトリオッツに指名されたトム・ブレディ(Tom Brady、ミシガン大出身)はそのいい例だと思います。
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過大評価された選手が落ちぶれていくのを見るのはカレッジ時代からその選手を見てきた者としては大変つらいことですが、無名選手がNFLで大成するのを見るのは非常に痛快です。4巡目から7巡目にドラフトされた選手が将来的に名を馳せるようなスター選手になるのか、大いに気になります。
出身大学・出身カンファレンス
どの大学がどれだけ多くの選手をプロに送り出したのかを見るのもまた一興です。先にも述べたルイジアナ州立大から何人の選手が指名されるかに注目が集まりますが、前述のように多くの選手をプロに送り出すということはそれだけ戦力ダウンにつながることになります。来る時期シーズンに際してどれだけの人材を補填しなければならないかをこのドラフトの結果で知ることも出来るでしょう。
またドラフトされた選手の数は大学の威厳を示すにはもってこいの数字ですし、将来プロでプレーしたい高校生たちをリクルートする際、「うちの大学からはこんなに多くのプロ選手が生まれているんだよ。もしプロでやりたいならウチの大学に来るべきだよ」などという甘い言葉をかけることもできるわけです。
また出身大学別にドラフトされた選手の総数を見るのも面白いかもしれません。それが直接チームの強さを示すものではありませんが、カレッジフットボール界の勢力図を測る上では参考になるでしょう。
バーチャルドラフト
今年のドラフトは世界流行しているコロナウィルスの影響で完全バーチャル方式が採用されます。普段なら大きな会場に観客を入れて盛大に行うものですが、ソーシャルディスタンスが叫ばれる中で今回は全てがリモートで行われることになります。
こんなことは過去に例を見ないことであり、一体どんな感じで事が進んでいくのか、技術的に問題は起きないのか、など未知の領域ではありますが、基本的にルールや流れは変わりません。今週初めにはリハーサルとしてバーチャルの予行ドラフトが行われ、ほぼ無事故で終わったようですが、果たして本番を無事に乗り越えることは出来るでしょうか?
最後に・・・
NFLドラフトは各チームが戦力を補強するために無くてはならないシステムです。その歴史は古く、かつてはオーナーだけが集まってあれこれ言いながら選手を指名していったわけですが、時を経て全米で生中継されるほどに商業化しました。派手になればなるほどそれを見る若い選手たちはそこを目指したくなるわけです。
ただ覚えて置かなければならないのはいくらドラフトでもてはやされたとしても上位巡でドラフトされた選手以外はプレシーズンキャンプまでに多くの選手がチームからリリースされてしまうという厳しい現実が待っていることです。ドラフトされたからと言って即プロ選手として大成できるわけではなく、それはまた新たな挑戦の始まりというわけです。
とはいえその舞台に立つことができる選手はカレッジフットボール界からほんの一握りの選手だけ。そういった意味では1順目だろうが7巡目だろうがプロチームから目をかけてもらった選手は大喜びしてもいいのかもしれません。
フットボーラーにとって最高の舞台であるNFL。その世界の登竜門とも言えるNFLドラフトにて新たなドラマが生まれるのか・・・。夢見る若きフットボーラーたちの命運をかけた日まであと少しです。
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