カレッジフットボールファンがNFLドラフトを振り返るシリーズ第2弾。今回はドラフト選手たちを出身大学並びに出身カンファレンス別に見ていきたいと思います。多くの選手をプロに送り込むことができるということはそれだけの人材を抱え込み育てることが出来たことの証だと思いますし、それはそれらのチームのリクルーティング力と指導力が試されているともいえます。また逆に言えばそれだけ多くの人材を一度に失えば来年度シーズンのチーム力に少なからず影響を及ぼすとも考えられるでしょう。現在のパワーバランス、そして来季に向けての各チーム・カンファレンスの勢力図を見定めることができそうです。
第1巡目選択選手出身校
まずはドラフトでも最も注目を浴びる第1巡目に選ばれた32選手を出身大学別にリストアップしたいと思います。
アラバマ大:3人
クレムソン大:3人
ミシシッピ州立大:3人
オクラホマ大:2人
オハイオ州立大:2人
ミシガン大:2人
アイオワ大:2人
ルイジアナ州立大、デューク大、ケンタッキー大、ヒューストン大、ボストンカレッジ、フロリダ州立大、ノースカロライナ州立大、メリーランド大、ワシントン州立大、アラバマ州立大、ノートルダム大、テキサスクリスチャン大、ジョージア大、ワシントン大、アリゾナ州立大:各1人
昨年ナショナルタイトルを争ったアラバマ大とクレムソン大が1位タイという構図が今のカレッジフットボールの勢力図を如実に反映しているようで面白いです。そしてここに食い込んで躍進してきたのがミシシッピ州立大。
ジェフリー・シモンズ(テネシータイタンズDT、総合19番目)
モンテーズ・スウェット(ワシントンレッドスキンズ、総合26番目)
ジョナサン・エイブラム(オークランドレイダース、総合27番目)
ミシシッピ州立大といえば一昨年まで9年間ダン・マレン(Dan Mullen)監督に率いられ力をつけてきたチーム。マレン監督は現ダラスカウボーイズのダーク・プレスコット(Dak Prescott)を擁した2014年度には創部以来初となる全米1位に投票されるまでチームを育て上げました。それを可能にしたのは彼がコーチとして秀でていたからのは他でもありませんが、それと同時に強豪ひしめくサウスイースタンカンファレンス(SEC)にありながら、他チームに負けないリクルーティング力を持っていたからです。
そして今回第1巡目でドラフトされたミシシッピ州立大出身の3選手はまさにマレン監督陣営にリクルートされ育てられた選手。ですから今回同校からこれだけの1巡目選手を輩出できたのはマレン監督の手腕によるところが大きいということと、そしてそのマレン監督が現在指揮を執るフロリダ大が近い将来ミシシッピ州立大と同じ道を辿り、再び全米の檜舞台へ復活してくる日もそう遠くないと思わせてくれるのには十分でした。
カレッジ別ドラフト選手数上位ランキング
No. | チーム | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | R6 | R7 | 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | アラバマ大 | 3 | 1 | 1 | 1 | 3 | 1 | 0 | 10 | |
2 | オハイオ州立大 | 2 | 1 | 2 | 2 | 0 | 1 | 1 | 9 | |
T3 | オクラホマ大 | 2 | 1 | 1 | 2 | 1 | 1 | 0 | 8 | |
T3 | ワシントン大 | 1 | 3 | 0 | 1 | 2 | 0 | 1 | 8 | |
T5 | ジョージア大 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 2 | 7 | |
T5 | テキサスA&M大 | 0 | 1 | 1 | 0 | 2 | 2 | 1 | 7 | |
T7 | クレムソン大 | 3 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 6 | |
T7 | ノートルダム大 | 1 | 0 | 1 | 2 | 0 | 1 | 1 | 6 | |
T7 | ミシシッピ大 | 0 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 | 2 | 6 | |
T7 | ペンシルバニア州立大 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 6 | |
T7 | アーバン大 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 2 | 6 | |
T11 | ミシシッピ州立大 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 5 | |
T11 | ミシガン大 | 2 | 0 | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | 5 | |
T11 | ケンタッキー大 | 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 5 | |
T11 | フロリダ大 | 0 | 1 | 1 | 1 | 2 | 0 | 0 | 5 | |
T11 | スタンフォード大 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 5 | |
T11 | ユタ大 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 1 | 5 | |
T11 | マイアミ大 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2 | 2 | 0 | 5 | |
T11 | ウエストバージニア大 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 | 1 | 0 | 5 |
今年最もドラフト選手を輩出したチームは昨年に続きアラバマ大でした。去年新記録を樹立した12人には及ばなかったものの、今年唯一の二桁選手がプロチームに指名されていきました。また今年も3人第1巡目で選ばれたことによってアラバマ大は11年連続で最低1選手が1巡目にドラフトされるという記録を更新。10年以上連続でこれを成し遂げたのはこれまで彼らとマイアミ大(1995年から2008年までの14年連続)の2チームしかいません。アラバマ大がこのマイアミ大の記録を追い抜く日も遠くなさそうです。
考えてみればこのことはリクルーティングで強力な威力を発揮すると思われます。高校生選手でもやはり夢はプロでプレーすること。そのプロの世界に少しでも近づくことができるチームがあるなら行きたいと思う学生も多いのではないでしょうか。そんな時「うちの大学は多くの選手をプロの世界へ送り出している。君もその中の一人になれるよ」なんて言葉を使ってリクルートされたら彼らの心も動いてしまうと考えるのは容易なことです。
2番手につけたのは9人のオハイオ州立大。彼らががこの位置にいるのは毎度のことですが、これもやはり昨季までチームを指揮してきたアーバン・マイヤー(Urban Meyer)監督らのリクルーティング及びコーチングの賜物でしょう。注目なのはマイヤー監督が引退して後任に指名されたライアン・デイ(Ryan Day)新監督が今後このトレンドを維持できるかどうかです。
関連記事 オハイオ州立大マイヤー監督が引退へその次点には8人でオクラホマ大とワシントン大です。オクラホマ大は昨年4人がドラフトされましたが今年はその倍の8人に。オクラホマ大はリンカーン・ライリー(Lincoln Riley)監督体制になって2年が経ちましたが、ドラフト総数が倍になったのはライリー監督陣営の手腕とも言えるのでしょうか。さすが2年連続ハイズマントロフィーQB(ベーカー・メイフィールド、カイラー・マレー)を世に送り出しただけあります。
そして地味に(失礼!)8人もドラフト選手を輩出したのがワシントン大です。昨年は5人でしたが今年はさらに3人増えました。ワシントン大は今年5年目を終えたクリス・ピーターセン(Chris Petersen)監督に率いられていますが、ワシントン大に来る前は「グループオブ5」カンファレンス群に属するボイジー州立大の監督でした。ここで中堅校ながら堅実にチーム育成を果たし、その手腕が認められて「パワー5」のワシントン大に引き抜かれた過去があります。上位カンファレンス群と言われる「パワー5」レベルでも十分に戦えるチーム力を備えるまでに至ったワシントン大。これを作り上げたピーターセン監督の堅実さに筆者は密かに惚れています(笑)。
5位以降にはジョージア大、クレムソン大、ノートルダム大などの大御所が続きますが、気になるのはミシシッピ大です。彼らは昨年5勝7敗と惨敗しましたがそのチームにはプロ級の選手が6人も居たことになります。ミシシッピ大は現在2年目となるマット・ルーク(Matt Luke)監督が長を務めますが、彼の1年目は6勝6敗、そして昨年5勝7敗とイマイチ結果が出ていません。なのに6人ものドラフト選手を輩出できたのはひとえに彼の前任者であるヒュー・フリーズ(Hugh Freeze)元監督の置き土産であるからに他ならないでしょう。
2012年にミシシッピ大監督に就任したフリーズ氏はチームを急速に強くし、2014年と2015年にはあのアラバマ大から2連勝を奪うという偉業を成し遂げ、ミシシッピ大を瞬く間に強豪の仲間入りに押し上げたのです。そのあまりのスピードでのチーム強化の姿からきな臭い感じはしていましたが・・・。その勘は当たりミシシッピ大はリクルート違反でNCAAから制裁を受けることになります。
そして2017年度シーズンが始まる直前、フリーズ氏は自らの不貞行為(コールガールサービスを受けていたこと、しかもその際に大学が支給していた携帯電話を使っていたこと)が明らかになり辞職する自体に陥ったのです。ミシシッピ大は結局監督を失い、しかも後に違反を犯していた間の勝ち星を剥奪(33勝)され、スポーツ奨学金(スカラシップ)の数も削減され、おまけにボウルゲーム出場権も2年間剥奪されるという厳しい制裁を食らったのです。
関連記事 ミシシッピ大のフリーズ監督が辞任そんなチームを引き継いだルーク現監督ですから、チームの成績が落ちることは目に見えていましたが、フリーズ氏の巧みなリクルーティング力でかき集めていたタレントたちはそのまま力をつけ、その結果今回の6人のドラフト選手たちは皆フリーズ氏の行きの掛かった選手ばかり。以下にフリーズ氏のリクルート力が優れていたかが分かると同時にそんなコーチがSECチームを去らなければならなくなったことは残念です。もっともフリーズ氏は来季からFBS(フットボールボウルサブディビジョン)に昇格したばかりのリバティー大で新監督を務めることになっていますが。
カンファレンス別ドラフト選手数(FBS)
サウスイースタンカンファレンス(SEC) | 64 | |
Big Tenカンファレンス | 40 | |
Pac-12カンファレンス | 33 | |
アトランティックコーストカンファレンス | 28 | |
Big 12カンファレンス | 26 | |
アメリカンアスレティックカンファレンス(AAC) | 11 | |
マウンテンウエストカンファレンス(MWC) | 10 | |
独立校/無所属 | 7 | |
カンファレンスUSA | 6 | |
ミッドアメリカンカンファレンス(MAC) | 5 | |
サンベルトカンファレンス | 1 |
過去15年間で9度ナショナルチャンピオンを世に送り出してきたサウスイースタンカンファレンス。その彼らが今年もカンファレンス別のドラフト選手数でナンバーワンとなりました。
アラバマ大、ルイジアナ州立大、フロリダ大、ジョージア大などの常連校に加え今年は昨年度シーズンにブレークしたケンタッキー大から5人もプロ候補が誕生しました。昨年10勝3敗という素晴らしい成績を残したのもうなずけるわけです。そして驚くべきことにSECに所属する全14チームから最低でも一人はドラフト指名されたという事実もあります。
上位5カンファレンス「パワー5」(SEC、Big Ten、Big 12、ACC、Pac-12)とそうでない5カンファレンス「グループオブ5」ではその力関係は歴然としていますが、「パワー5」内部でもドラフト総数だけ見ればかなりの隔たりがあります。64人を輩出したSECに対してBig 12カンファレンスはその半分にも満たない28人に甘んじています。タレントの差は明らかではありますが、その中でもオクラホマ大は2年連続カレッジフットボールプレーオフ(CFP)に進出していますから、これはオクラホマ大がBig 12カンファレンスで突出していると見れますし、もっと言えば彼ら以外のチームが結果を出せないためにカンファレンス全体としての底上げがなされていないとも見れます。もしくはSECの層の厚さが規格外だとか・・・。
そんな中「パワー5」と「グループオブ5」で構成されるFBS(旧ディビジョンIA)だけでなくその下部組織とも言えるFCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン、旧ディビジョンIAA)からも13名ドラフトされました。しかもそのうちアラバマ州立大のタイタス・ハワード(Tytus Howard、OT)は第1巡目(総合23番目)でヒューストンテキサンズに指名されたほどです。
参考記事 NCAAとディビジョンさらにディビジョンI(一部)の下部組織であるディビジョンII(2部)からも4人がプロチームの目にかかりました。ジョン・コミンスキー(John Cominsky、チャールストン大(WV)DE→アトランタファルコンズ)E.J.スピード(EJ Speed、ターレトン州立大LB→インディアナポリスコルツ)コーリー・バレンティン(Corey Ballentine、ワッシュバーン大CB→ニューヨークジャイアンツ)、トレイ・ピプキンス(Tray Pipkins、スーフォールズ大→ロサンゼルスチャージャーズ)の4選手です。FCSの選手たちも含め必ずしもFBS所属選手だけがプロレベルであるということはないことを証明しています。