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NCAA、ミシガン大に鉄槌

NCAA、ミシガン大に鉄槌

全米大学体育協会(NCAA)は、過去ミシガン大が行なっていたという「サイン盗み」疑惑に対して遂にその懲罰を決定。その内容が非常に厳しいと話題になっています。

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背景

遡ること2021年から2023年、ミシガン大はルール上許可されていない相手のプレーコールの際のサインを組織的に盗んでいた、という疑惑が2023年度シーズン後半に浮上。これを陣頭指揮していたというのが、元ミシガン大スタッフであるコナー・スタリオンズ(Connor Stalions)氏だと言われ、彼は内部で「KGB」と呼ばれる、サインを盗むことに特化したスカウティングチームを結成し、ミシガン大が対戦することになる相手の試合にそのチームメンバーを送り込んで、サイドラインで行われているプレーコールのサインを撮影させてそれを分析して実際にそれらのチームと対戦する際の対策に役立てていた、という噂が立っていました。

そのオペレーションの中には、なんとスタリオンズ氏自身が相手チームのギアを纏ってサイドラインに「潜入」した、なんて大胆なものもあったとか。

更にNCAAがこの疑惑について調査を始めた際、ミシガン大のスタッフだった当時のHCジム・ハーボー(Jim Harbaugh、現LAチャージャーズHC)監督や当時のDCで現在のミシガン大のHCシェロン・モアー(Sherron Moore)監督らが、この調査に非協力的だった、更には証拠隠滅しようとしたとして問題視されていました。

そして調査の結果2021年から2023年の間に実に52試合でミシガン大の組織的なサイン盗みが行われていたことが明らかになりました。

サイン盗みとは?

通常オフェンスのサインはスタジアムの上部に設置されているボックスに在中するオフェンシブコーディネーター(サイドラインにいるOCも存在する)がコールするプレーを、サイドラインにいるスタッフ(控えのQBだったりする場合が多い)がハンドシグナルでフィールド上のQBらに伝えるのが普通です。この際相手に読まれないように複数のシグナルコーラーがいてそれぞれがパーソネルの指示だったり、実際のプレーコールの指示だったり、もしくはフェイクのコールをしている場合が常です。最近では複数の画像が描かれたボードを掲げることもしばしば見受けられます。

これらのシグナルコーラーのハンドシグナルは当然逆サイドにいる相手チームには筒抜けです。「見えてしまっている」シグナルをその場で解析することはサイン盗みには含まれません。相手に見られてしまうことを前提としてシグナルを送る側は対策を練るわけです。

しかしNCAAが許していないのは、対戦相手の試合に前乗りしてビデオなどの機器を利用して相手のシグナルをスカウトすること。これがサイン盗みに相当します。今回ミシガン大でサイン盗みとして問題になったのはこれをスタリオンズ氏が陣頭指揮をとって組織的にやっていたからです。

スタリオンズ氏はあらかじめ分かっている対戦相手のシグナルをスカウトするために、雇ったスタッフにそのチームの試合のチケットを手配してスタジアムに送り、スタンドからサイドラインのハンドシグナルの様子をビデオに収めさせ、それをあとで回収して分析していたという疑惑があがりました。

これほどの組織的な悪事をミシガン大で当時下っ端だったスタリオンズ氏が単独で行なっていたとは考えづらく、彼に指示を送っていた上層部がいたのではないかと調査のメスが入ったわけです。しかし当時の監督だったハーボー監督は、自分は全く知らなかった、と自身の関与を完全否定。ただBig Tenカンファレンス自身もミシガン大の最終3試合にてハーボー監督を謹慎処分に処す決定を下していました。

また当時スタリオンズ氏の直属の上司と言われていた現監督のモアー氏はこのスキャンダルが明るみに出た直後にスタリオンズ氏とのものと思われるテキストメッセージ(ショートメール)を削除していたことが明らかになり、このことも疑惑の念を深める結果になっていました。

罰則

ミシガン大は結果的に2023年度シーズンに1997年度以来の全米制覇を成し遂げますが、スタリオンズ氏のスキャンダルが同じシーズンに明るみに出たことで、せっかく獲得した全米制覇はサイン盗みという違反行為の影響を受けたものだったのではないかという疑念に変わってしまいました。

以来NCAAは調査に調査を重ねてきましたが、遂にこの調査を受けミシガン大へのペナルティーの内容をリリース。その内容はかなり厳しいものとなっています。

大学に対するペナルティー

  • 2025年度と2026年度のポストシーズン(ボウルゲーム)にて獲得できる収入合計2000万ドル(1ドル100円計算で約20億円)を没収
  • 5万ドル(約500万円)の罰金とスカラシップ(スポーツ奨学金)のためのバジェット(資金)から10パーセント分の削減
  • 許されているリクルーティング活動の2割分削減
  • 4年間の執行猶予処分

個人に対するペナルティー

コナー・スタリオン氏

今後8年間カレッジフットボール界から事実上の追放処分

ジム・ハーボー氏

無実を訴えるも監督として今回の事件を止められなかった責任を追及され、結果2028年から10年間のカレッジフットボール会からの事実上の追放処分

シェロン・モアー監督

合計3試合の謹慎処分(2025年度シーズンに2試合、2026年度シーズンに1試合)

さらに元ミシガン大QBで事件当時スタッフとして関与していたと言われるデナード・ロビンソン(Denard Robinson)氏にも3年間の追放処分が言い渡されています。

この追放処分(Show-Cause)ですが、この罰則は懲罰を受けた人物がNCAAでの活動に復帰するのを難しくするもので、大学側はその対象者を雇用してはいけないというわけではありませんが、それをNCAAが許すためには厳しい嘆願プロセスを経なければならず、これを乗り越えるのは相当難しいとされるため、実質的に大学界からは追放された、と見てとれる厳格な制裁です。

実際のところハーボー監督は現在カレッジを離れNFLに身を置いていますが、この制裁はNFLでの活動になんら影響を及ぼさないため、彼がカレッジに戻ってこようと思わない限りダメージはゼロと言えます(こんな状況でカレッジに戻りたいなど微塵も思わないでしょうが笑)。計算上ハーボー監督の追放処分が切れるのが2038年であり、その頃に彼は74歳になっているため、実質ハーボー監督のカレッジ復帰の可能性は無くなったと見るのが妥当です。

影響

制裁の内容は厳しいものになりましたが、そん中でも救いだったのはポストシーズンのボウルゲームの出場禁止処分を免れたことでしょう。これで少なくともBig TenチャンピオンやCFP(カレッジフットボールプレーオフ)ないしそれ以外のボウルゲームに出場する資格は確保することができました。

しかしながら総額2000万ドルの収入の没収は大打撃なはずです。特に今年から上額約2000万ドルのレヴェニューシェア(大学の収入を学生アスリートに分配するシステム)が導入されるわけですから、その分のバジェットを根こそぎ取られることに等しい罰則。いかに資金に潤沢だと言えどもこれほどの高額のお金が手元に残らないのは痛手です。

またリクルーティング活動の制限も痛いです。チームが強くあり続けるにはどれだけより良い逸材を大学に勧誘できるかどうかが大きな鍵を握っています。肩を並べて火花をちらす他の大学とのリクルーティング戦争において、星の数が多いエリート高校生選手や有能な転校生を確保するのは死活問題。その活動を少しでも制限されるのは決して喜ばしいことではありません。

モアー監督の謹慎処分についてもフルシーズンの処分を回避することができたものの、監督が率いない試合というのはやはり通常運転とはいかない筈。今年は3試合目のセントラルミシガン大戦と4試合目のネブラスカ大戦。メジャーゲームではないかもしれませんが、モアー監督不在時にまさかの黒星ともなれば悔やんでも悔やみきれません。

しかしながら最もダメージを受けた点は、ミシガン大という名門チームに汚点が残ったということではないでしょうか。

NCAAのルールにはさまざまなものがありますが、サイン盗みのルール違反というのはそう滅多に表沙汰にならないものです。しかもそれをやっていた間にミシガン大は全米制覇を成し遂げていますから、当然世間の目は「サイン盗みというチートをしたから優勝できたのだろう」と言う風になってしまいます。1997年以来の悲願の栄冠を勝ち取ったのに、それが正攻法じゃなかったとしたらその価値に傷がついてしまう訳です。

幸いなことにこの時獲得した全米優勝を剥奪されることはありませんでしたが、全米でも由緒正しいミシガン大という名門が組織的にズルをしていたとなれば、印象がいいはずがありません。それは長期的に見てブランド価値を下げたり、リクルーティングの際に「そういったチームに我が子を送りたくはない」と考える高校生の親が現れてもおかしくはない訳です。

ミシガン大自身はこの制裁を不服としてアピール(上告)する予定のようですが、どちらにしてもミシガン大にとっては非常に痛い鉄槌が下ったといっていいと思います。

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