1990年代のフロリダ州立大はちょっと前のサザンカリフォルニア大や現在のアラバマ大のような、誰も敵わないような超強豪チームでした。特に90年代後半は1999年のナショナルチャンピオンに見られるように常にトップ5に顔を連ねるほどで当時のフロリダ州立大はその栄華を満喫したのでした。
そのフロリダ州立大を指揮していたのは名監督のボビー・バウデン(Bobby Bowden)氏ですが、彼のアシスタントコーチも秀逸な人材ばかり揃っていました。その一人にチャック・アマト(Chuck Amato)氏がいました。
チャック・アマト氏
ちょうど先日の記事でも紹介したように筆者がカレッジフットボールにのめり込んだ頃のが1990年代後半でしたが、この頃はフロリダ州立大の絶盛期であり、それゆえにバウデン氏のアシスタントであったアマト氏の存在も知っていました。1982年から1995年までDLコーチ、そして1996年から1999年までLBコーチ兼アシスタントヘッドコーチを務めチームの成功に大いに貢献したアマト氏はその腕を買われ2000年に同じアトランティックコーストカンファレンス(ACC)所属で彼の母校でもあるノースカロライナ州立大の監督に就任します。
7年間で49勝37敗という成績を残しますが、2006年度に3勝9敗と惨敗するとその責任を取る形で解雇されてしまいます。その後は再びフロリダ州立大に戻り、恩師でもあるバウデン氏の右腕として彼のカレッジキャリアの晩年を見届けます。そして2009年にバウデン氏が引退すると彼の後任となったジンボ・フィッシャー(Jimbo Fisher、現テキサスA&M大監督)氏のコーチ陣に入閣することなくチームを去ることになります。
師弟対決となったアマト氏(左)とバウデン氏(右)
そしてその3年後、アマト氏はバウデン氏の実子であり同じくコーチとしてアーバン大などを率いたテリー・バウデン(Terry Bowden)監督が就任したアクロン大のディフェンシブコーディネーター就任を要請され、以来二代に渡りバウデン家に仕える重鎮となったのでした。
そんなアマト氏も今年で71歳。恩師であるバウデン氏も引退してすでに9年が経ちましたが、そのアマト氏もいよいよカレッジフットボールキャリアに終止符を打つ時が来たようです。というのも昨日(2月26日)彼が正式にコーチングから引退することを表明したのです。
以下がアマト氏の表明文です。
「カレッジフットボール界から退くことを考え出してからしばらく経ちました。ボビー・バウデン監督は私に3つの「F」を話してくれたものです。それは「Faith(信仰心)」、「Family(家族)」、「Football(フットボール)」、この順番が大事だということでした。現在私の妻の兄弟の具合が思わしくなく、私の自宅には双子の孫がいて本当に手を煩わせてくれます。そんな折ふと『ひょっとしたらすでに(コーチングを)他の誰かに任せてもいい時期が来たんじゃないのか』と感じるようになったのです。私がこの世界に身を投じてから久しい。これまで数々の栄光を経験もして来ましたが、いよいよ私はこの業界から身を引く覚悟ができました。私はこれからやりたいことを探さなければなりませんが、誰かいいアイデアがあれば是非とも私に教えてください!」
1969年に高校のコーチとして指導者の道を歩みだしたアマト氏は約50年のコーチング人生に幕を閉じることになりました。これを生きがいとしてやって来た人物とすれば引退後に何をしていいか分からないというのも理解できる話です。
彼の恩師でもあるボビー・バウデン氏もアマト氏の引退表明に際しコメントを寄せました。
「彼は長く私の右腕として働いてくれた人物です。彼は多くの私の苦悩を代わりに背負ってくれました。私が彼に何かを頼めば、彼は絶対にそれをこなしてくれたのです。かつて私は彼にこんなことを言ったことがありました。『もし君が私の元にいてくれるなら、私は後25年間はコーチングをし続けることができるだろう』と。彼は私の元でディフェンシブコーディネーターを務めてくれたミッキー・アンドリュース(Mickey Andrews)を長年支えて素晴らしいディフェンスを育ててくれました。(中略)コーチアマトと彼の家族が今後とも素晴らしい人生を送れることを祈っています!」
アマト氏のようなコーチが引退したりすると時の流れを感じずにはいられません。それはかつてのアイドルグループが歳をとって引退していくような・・・(違うか?!)時の流れは止められませんから仕方ありませんが、やっぱりちょっと寂しいですね。