カレッジフットボール界でもその歴史、成績、資金力などからチームを格付けすることはできると思います。有名校、強豪校なら上位、そうでないチームは中堅チームなどとカテゴリー分けされます。上位チームなら上昇志向の高い選手たちが集まることでしょうし、また資金力も豊富なら多くのリクルートの目を奪うような施設やスタジアムを建設することも可能でしょう。ですからできるならフットボール選手は上位チームに進学してそこでプレーしたいと夢見るわけです。
[quads id=8]そしてそれはコーチ陣たちにしても同じです。コーチとなるからには最終的には「一家の主」となる監督としてチームを率いたいでしょうし、究極の夢はナショナルチャンピオンとなることだったり、その上のNFLでコーチングを続けることだったりするでしょう。
ですからコーチたちも常に上を目指して上位校から声をかけられるようコーチとしての腕を磨くのです。もちろん結果を残せなければ上にたったとしてもすぐにこき下ろされてしまうという厳しい現実は待っていますが、それを恐れて上を目指さないというコーチはいないことでしょう。
そんな中今オフ上位カンファレンス群である「パワー5」チームからその下部カンファレンス軍である「グループオブ5」チームへ移籍した監督がいます。現ヒューストン大のダナ・ホルゴーセン(Dana Holgorsen)監督です。
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アシスタントコーチならばまず目指すのは「グループオブ5」カンファレンス群に属するチームから「パワー5」カンファレンス群に属するチームに移ることだと考えてまず間違いないと思います。そして次に狙うとすればコーディネーター職。この場合、例えば自身が「パワー5」のアシスタントコーチであったとして、もし格下である「グループオブ5」のコーディネーターのポジションがオファーされればたとえそれが「グループオブ5」チームであったとしてもおそらくその話に乗ることになるでしょう。下位カンファレンス群に「降格」することにはなりますが、将来のために経験を積み職歴を分厚くするならば十分この動きは考えられる話です。そこから次にたどり着くのが監督職。初めて監督の職を与えられる人物ならばそれが「パワー5」だろうが「グループオブ5」だろうが関係ないと思います。「グループオブ5」の監督であってもそこで結果を残せば「パワー5」チームから声がかかることもあるでしょうし。
ただ「グループオブ5」から「パワー5」に移籍する監督は山ほどいてもその逆、「パワー5」から「グループオブ5」に自ら進んで移っていく人物はそう多くはありません。(「パワー5」チームから解雇されて「グループオブ5」チームに拾ってもらうのとは違います)最近で思いつくのは「パワー5」カンファレンス群の一員であるBig 12カンファレンスに所属するテキサス工科大で監督をしていたトミー・タバーヴィル(Tommy Tuberville)監督がわざわざ「グループオブ5」カンファレンス群の一員であるアメリカンアスレティックカンファレンス(AAC)所属のシンシナティ大に移っていったというケースぐらいなものです。
そこにきて今回タバーヴィル氏と同じ道を辿ったのがホルゴーセン監督。彼は2011年から8年間ウエストバージニア大を監督として指揮。彼自身初となるHC職でしたが、元ケンタッキー大のハル・マミー(Hal Mumme)監督、そして現ワシントン州立大のマイク・リーチ(Mike Leach)監督らの影響を受けてパス重視の「エアーレイドオフェンス」を信条とするようになり、コーチとしての評判はすでに高かったのです。そしてウエストバージニア大が強豪ぞろいのBig 12カンファレンスに移籍したあとでもリクルーティングで劣勢をしかれながらも好成績を残し続け、結果8年間で61勝41敗とまずまずの成績を残していました。
昨年度出場したキャンプワールドボウルでのホルゴーセン監督
ホルゴーセン監督の腕を見込んでこれまで幾多のチームが彼に触手を伸ばしてきましたが、その度それは噂止まりで現実のものにはなりませんでした。しかし今回「グループオブ5」のヒューストン大にてメジャー・アップルホワイト(Major Applewhite)氏が解雇されたことで空きができ、あっという間にホルゴーセン監督がウエストバージニア大を去ってヒューストン大の新監督に就任することが決まったのでした。
関連記事 ヒューストン大がアップルホワイト監督を解雇ウエストバージニア大があるウエストバージニア州モーガンタウン市には私も行ったことがありますが、典型的な大学タウンでそれ以外には何もないエリア。一方ヒューストン大があるテキサス州ヒューストン市は言わずと知れた全米を代表する大都市であり、生活の利便性だけを考えるとヒューストン大の方に魅力を感じるのもわからなくはありません。もちろん人それぞれライフスタイルは違いますから、田舎のほうが暮らしやすいし物価も安いと感じる人も多いでしょうが。
ただホルゴーセン監督が今回敢えてヒューストン大の監督職を引き受けた背景には彼がヒューストン大とつながりがあったからにほかありません。というのも彼はかつて2008年から2年間同校でオフェンシブコーディネーターを務めていたことがあったからです。さらに言えば2000年から2007年までテキサス工科大でアシスタントコーチをしていたこともあり、9年間もテキサス州に住んでいたというバックグラウンドを持っているのです。
ヒューストン大でのOC時のホルゴーセン監督。右はQBケイス・キーナム(現レッドスキンズ)
ホルゴーセン監督自身もヒューストン大へ移ることに関して以下のようなコメントを残しています。
「(ウエストバージニア大からヒューストン大へ移ることは)非常に簡単な決断でした。ヒューストン大はいつ何時でも私にとっては特別な場所であり、昔から多くのポテンシャルを秘めたチームだと感じていたからです。」
ヒューストン大はAAC所属の「グループオブ5」チームですが、1970年台から80年台にかけて当時所属していたサウスウエストカンファレンス(のちにBig 8と合併してBig 12カンファレンスに)で4度のタイトルを獲得するなど力を発揮。その後彼らはBig 12カンファレンスに統合されずカンファレンスUSAに鞍替えしましたが、そこで2度カンファレンスタイトルを確保。さらに2013年から現在のAACに移った後にも2015年にトム・ハーマン(Tom Herman、現テキサス大)監督下で1度タイトルを獲るなど存在感は「グループオブ5」の中でもピカイチでした。
そしてヒューストン大が「グループオブ5」の大学として潤沢な資金源を用していることも事実。実際ホルゴーセン監督は今回ヒューストン大から5年契約で総額2000万ドル(約20億円)という契約を結びましたが、これは同氏がウエストバージニア大と2016年に更新した契約(5年で1860万ドル)を上回っており、これがホルゴーセン監督を動かした理由の一つとも大いに考えられます。
またチーム作りの観点からしてもリクルーティングが難しいと言われるウエストバージニア大よりも有能リクルートの宝庫と言われるテキサス州のお膝元であるヒューストン大に居たほうがリクルートしやすいともいえます。
ですからホルゴーセン監督が今回「格下」とされるヒューストン大に移っていったことは文字の上では「降格」と見えるかもしれませんが、大きく見るとそこまで悪い条件ではなかったわけですね。唯一欠点を上げるとすれば、「グループオブ5」所属チームとなったことでナショナルタイトルを狙いづらくなったことでしょうか。しかし、ウエストバージニア大に居続けたとしてもオクラホマ大、テキサス大などの強豪校揃いのBig 12カンファレンスを制することができる保証はなく、ならばむしろヒューストン大でここ2年間活躍しているセントラルフロリダ大のような好成績を残して「ニューイヤーズ6ボウル」を目指すほうが現実的なのかもしれません。
もしAACが「グループオブ5」を抜け出して「パワー5」入りするという野望を持つならば、彼らはカンファレンス自体のレベルをあげなくてはなりません。そのためにはセントラルフロリダ大だけではなくヒューストン大やその他のチームが存在感を見せつける必要があり、その点で言えばホルゴーセン監督のヒューストン大監督就任は同大にとってだけではなくAACにとっても大変朗報だと言えそうです。ウエストバージニア大ファンにとっては受け入れがたいニュースだったことでしょうが。