選手が試合中に怪我をするとその選手はメディカルスタッフによって介抱され、サイドラインにある診察テーブルでアスレティックトレーナー(スポーツ医療チームの一員)やチームドクターによって怪我のチェックを受けることになります。たいていの場合この様子は多くのファンに筒抜けとなり、TV放映されていればそれこそそれは全国のお茶の間に届けられるわけです。もしそのような状況を回避したいのであればロッカールームに選手を連れていくか、もしくはタオルか何かで隠すぐらいしか方法がなかったのがこれまでのケースでした。
この状況に革新的なアイデアを取り入れたのがアラバマ大でした。2015年度シーズンに彼らは怪我のチェックをプライベート化できるポータブルテントを開発したのです。
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— Kinematic Sports (@KinematicSports) November 20, 2017
その開発に関わったアラバマ大のヘッドアスレティックトレーナー、ジェフ・アレン氏は「現場にいる多くの人間は(サイドラインにて)怪我のチェックを行うのにはスペース的に非常に難しいと感じていると感じていました。怪我の診断の最初の10分は非常に重要でこの間に選手が試合に戻れるかどうかを迅速に判断しなければなりません。そんな中スペースがなくおまけに大勢の人に見られる可能性があるというこれまでの状況は我々にとって非常に大きなチャレンジでした。」とこのテントの開発への背景を語っています。
確かに2015年度シーズンのアラバマ大のサイドラインにはスクールカラーの深紅に彩られた小型テントが時折テレビに写り込んでいました。これは必要な時だけテントとして使用し、そうでない時は簡単にたためる便利なギアだったわけです。
Would you rather be evaluated in front of 102K or 3? The #SidelinER provides athletes & trainers with needed privacy pic.twitter.com/xLh6ufdj6E
— Kinematic Sports (@KinematicSports) June 24, 2016
アレン氏が考案し、アラバマ大学の工学部の学生が協力して完成させたこのポータブルテント。この新たなアイテムはすぐさま他のチームの興味を引き付け、商品化された2016年以降には年を追うごとにこのテントを使うチームが増えていきました。
テントの作り自体は非常にシンプルで、このプロジェクトに携わった生徒の一人は「なんでこんなシンプルなものが今まで開発されなかったのだろう?」と思うぐらいのものです。しかしその有意性が広まった今、このプロダクトはのちにサイドラインになくてはならない必需品となる日もそう遠くはないはずです。それはそれこそスポーツドリンクの最大手である「ゲーターレード(Gatorade)」がフロリダ大の一教授によってフットボール部のために開発されたものが商品化して大ヒットになったのと同じように。
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— Kinematic Sports (@KinematicSports) August 4, 2017
すでにカレッジだけに止まらず、高校レベルやプロレベルでもこのテントが見られるようになりました。先月行われたスーパーボウルでも使用されたほどです。
私も実際に触れたことがありますが、思ったよりも大きくなく、テントを折りたたみするのもそんなに力が入りませんから女性でも苦労なく使用することが可能なはずです。またテントの側面や天井部分にスポーンサーなどのロゴを入れられるという利点もあったりします。
そしてつい先月、「SidelinER(ERはEmergency Room=救急病室の意)」と名が付けられたこのポータブルメディカルテントについに特許がおりました。構造や製作の過程自体は非常にシンプルなためほおっておけばこれを真似した商品がすぐに出回ることでしょうから、アレン氏及び製作に関わった関係者にとっては非常に大きなニュースです。
選手としては怪我をした時にテントのようなプライベートの空間でドクターらにチェックしてもらえるのは精神的にも少しは落ち着ける要素になるでしょう。またこれは元来の用途とは違いますが、試合中にトイレに行きたくなった選手や着替えなければいけない選手たちにとってはこのポータブルテントは天からの恵みとも言えるアイテムとなっているようです(笑)。
その単純なアイデアを開発に持ち込んで製品化できたのも、アラバマ大がフットボール部のためならばお金に糸目をつけないような組織だからなのかもしれません。いつかこのテントが海を渡って日本に持ち込まれる日が来るでしょうか?
SidelinERのホームページ:https://www.kinematicsports.com/