早期サイニングピリオドがやって来る!

カレッジフットボールにおいて高校生たちを自分のチームに勧誘する行為、つまり「リクルーティング」はチーム強化において在校生たちをコーチすることと同じくらい重要であると言われています。それはどんなに戦術が優れていてもそれを体現できる能力の高い選手たちが多く揃わなければチームとして成り立たないということの裏返しでもあります。だからシーズン中でもコーチ陣は金曜日になればお目当の高校生が出場している試合会場に足を運び実際にその選手のプレーを観戦したり、電話やメール、自宅訪問など余念がありません。

そして多くのチームから声をかけられる選手たちは進路に迷い、大人たちの甘い言葉に戸惑い、いくつもの眠れない日々を過ごしながら、正式に進学先を決定して書類にサインをする「ナショナルサイニングデー」を待つことになります。その日までは口頭での約束に拘束力はありませんが、サインしてしまえば気が変わって他のチームに乗り換えることはできなくなります。ナショナルサイニングデー当日に書類にサインすることで選手たち、彼らの家族、そしてリクルーティングするコーチたちの長きに渡る「戦い」が終わるのです。

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ナショナルサイニングデーではプロ級の扱いを受ける高校生たち

通常このナショナルサイニングデーは2月の第一水曜日に行われます。しかし今年からこの通常のサイニングデーに先立ち、12月20日から22にまでの72時間の間に進学先を正式に決定する「早期(アーリー)サイニングピリオド」が導入されることになっています。この新システムには賛否両論でうまくいくと主張する声もあれば、よりリクルーティングのプロセスを複雑にするという主張も聞かれます。

なぜ早期サイニングピリオドが必要なのか?

これまで行われてきた2月というタイミングはアメリカのスクールシステムでは非常に中途半端なものでした。1月から春学期が始まりフットボールのシーズンはすでに終了しています。これは大学も高校も同じです。ただリクルーティングというプロセスを経なければならない高校生たちにすればコーチたちからの勧誘や学校訪問などが2月まで(実際には4月まで)行われるということで、彼らが背負わなければならないプレッシャーを考えるとナショナルサイニングデーまでの日々は非常に気が重い日々であるに違いありません。

特に行先がほぼ決まっている選手たちにとっては早く書類にサインして肩の荷を下ろしたくても2月まで待たなければならないのです。その間に再び別のチームのコーチたちから悪魔の囁きでも耳に入ろうものならまた眠れない日々がやって来ることになります。加熱していくリクルーティングにおいて彼らが耳にしなければならない雑音は年々増えていっていることでしょう。

またコーチたちにとってみれば目当の選手が本当に自分たちの書類にサインしてくれるかどうかは気が気でならないでしょう。それぞれのチームがスカラシップ(スポーツ奨学金)を与えることができる選手の数は限られています。ですから2月の時点でお目当の選手が自分たち以外の大学に進学することになったら、そこから新たに「売れ残った」選手たちに的を絞らなければならなくなります。

これらのような問題を解決するために2月の通常のサイニングデーを前倒して選手たちが進学校を決められる制度を制定しようではないか!という声はここ何年も上がっていました。そしてとうとう昨オフに「早期サイニングピリオド」が導入されることが決定したのです。

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早期サイニングピリオドの利点

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サイニングデーは選手の所属チームそして家族にとっても一大イベント

パワー5カンファレンス」と呼ばれる上位リーグに属しているチームにとって高い能力を持つ「ブルーチップ」級のリクルートたちを早い段階で囲えるのは確かに有利な点だと言えるでしょう。2月の本番(ナショナルサイニングデー)までに何が起こるかわかりません。その時までに選手の気が変わっていることもあり得るでしょう。ひょっとしたら監督が変わっているかもしれません。そうなる前にトップリクルートを確保できるというのはチームにとっては歓迎すべき事実です。

またボウルゲームに出場できなかったチームにとってこの時期はリクルーティングに集中できるため、ボウルゲーム出場の準備に忙しい他のチームよりも有利と言えるかもしれません。またボウルゲームに出場したチームでも早い段階で試合が終了したチーム(今年なら12月16日に試合があった10チーム)にとっては、メジャーなボウルゲームに参加できなかった代わりに早期サイニングピリオドに向けて最終調整ができることになります。

また早い段階でどこにどの選手が進学するか分かることで、無駄にリクルーティングに時間と金を浪費することを防ぐことができます。早期サイニングピリオド後にどの選手がまだ進学先を決めていないかを知ることができることによって、2月のナショナルサイニングデーまでにその労力をそういった選手につぎ込むことができるのです。

中堅チームにとっては早い段階で目当ての選手を確保できれば、これまでのようにギリギリのところで大御所チームに狙っていた選手を奪われるということも少なくなります。リクルーティングは生き物のようなものです。時間が経てば高校生たちが進学先を非公式ながら口言し出しますし、そうなるとそれぞれのチームのターゲットも変わってきます。それによって当初は大御所チームに目をかけられていなかった選手にも状況が変わったことによって触手が伸び、最後の最後でそのようなチームに選手が流れてしまうことがよく起きていました。これは中堅チームには大きな痛手ですので、早期サイニングピリオドでそれを阻止できるというのは朗報でしょう。

選手にとっては先にも述べましたがすでに行き先を決めてしまった場合であれば早いことこのプロセスに終止符を打ってストレスから解放されたいでしょう。そうすることによって残りの学業に集中もできますし、12月に高校を卒業できる選手であれば1月から大学に進学していち早くチーム練習に合流できるという利点もあります。

そしてもしこの早期サイニングピリオドに合わせてコーチ陣がプッシュをかけてきた選手はそれだけそのチームから欲しがられているという証拠にもなり、これは選手にとって自分がどれだけ評価されているかを知る良い手がかりとなるでしょう。

早期サイニングピリオド の欠点

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脚光を浴びてもまだスタート地点に立ってすらいないことを肝に命じてほしいところ

早期サイニングピリオドで得しないと思われるのは進学先を未だ決められない選手たちです。なぜなら彼らにとっては締め切りを前倒しにされ、進学先を早まって決めてしまう可能性があるからです。

今年がこのシステムの初年度ですので、全ての関係者が手探りでこの早期サイニングピリオドを迎えていますが、ひょっとしたら大学側はリクルートたちに「もし早期ピリオドにサインしないなら、君に奨学金を用意できるかわからない」なんていうプレッシャーをかけて来るかもしれません。そうなるとその選手らは焦って的確な判断ができなくなる可能性もあります。もちろん大学側にはそんな手段を使ってもらいたくはありませんが。

また逆に中堅チームからオファーされつつ、彼らよりも強豪チームから「早期ピリオドにサインするな。ひょっとしたら後々君にも我々のチームに来れる枠が空くかもしれない」などと言われたら、その選手は究極の決断を迫られることになるでしょう。確実に奨学金がもらえる中堅チームに行くか、もしくはリスクを背負って強豪チームからのオファーを待つか。どちらがいいかなんて分かったものではありません。

また4つ星5つ星の評価を得るような選手たちは1年以上前から大学コーチたちに目を付けられていますが、そうでない選手、特に高校3年生シーズンに突如として成長しそれまでカレッジコーチの目に止まらなかった選手は、早期サイニングピリオドまでにリクルートされない可能性もあります。そうなると早期サイニングピリオド中に声がかからず、2月のナショナルサイニングデーには行きたいチームの枠がすでに埋まっているという状況に陥ることも考えられます。

そしてもし早期にサインをしてしまって、その後そのコーチ陣が解雇または辞任して新天地へ去っていってしまった場合、そのコーチらを目当てに進学を決めた選手たちにとっては大きな痛手となります。その大学のブランド力に惹かれてそのチームに進学したいと考えていた選手ならともかく、そのコーチのプレースタイルが自分に合っているからという理由でそのチームに進学を決めた選手にとっては究極フットボール生命にも関わる問題といっても過言ではないでしょう。

未開の地

早期サイニングピリオドがカレッジフットボール界、特にリクルーティングにどのような影響を及ぼすかはまだ誰にも完全に予測できていません。いいことなのか悪いことなのか、それすら始まってみないと分からないというのが本当のところです。ひょっとしたら上手く機能して今後もこのシステムが存続するかもしれませんし、もしくはとんでもない混乱を招いて来年以降廃止になる・・・なんてことも起きるかもしれません。まずは明日からどれくらいの選手が進学先を表明するのか注目したいと思います。

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