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因縁の対決?

カレッジフットボール界にはライバリートラディションといったフィールド上のプレー以外の面で興味をそそる要素を含んでいますが、コーチの師弟関係や因縁の対決なども試合観戦を楽しませてくれるスパイスとなることがあります。

ここ5、6年のカレッジフットボールを追いかけているファン、特にアラバマ大フットボール部を気にかけている方がいらっしゃるならば、今週末のアラバマ大ミシシッピ大の試合は上記の理由で非常に楽しみな試合になるでしょう。筆者もそのうちの一人です。

それはアラバマ大のニック・セイバン(Nick Saban)監督とミシシッピ大のレーン・キフィン(Lane Kiffin)監督が激突するからです。というのもキフィン監督は2014年から2016年までの3年間セイバン監督のもとでアラバマ大のオフェンシブコーディネーターを務めていたのです。

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ベースボール・マガジン社 (編集)

師弟対決

現在までアラバマ大、ルイジアナ州立大で合わせて6つのナショナルタイトルを獲得してきたセイバン監督はカレッジフットボール史上最高のヘッドコーチと名高い名将ですが、長いキャリアの中で自身のもとでアシスタントコーチを務めてきた人物が成長して他の大学チームのヘッドコーチに上り詰めるケースは多々あります。

セイバン監督の「弟子」でFBS(フットボールボウルサブディビジョン)の監督を務めている(もしくは務めていた)主な人物は以下の通りです(2020年10月現在)。

マーク・ダントニオ(元ミシガン州立大)
ジンボ・フィッシャー(テキサスA&M大)
ウィル・ムスチャンプ(サウスカロライナ大)
ジム・マクエルウェイン(セントラルミシガン大)
カービー・スマート(ジョージア大)
メジャー・アップルホワイト(元ヒューストン大)
ジェフ・コリンズ(ジョージア工科大)
マリオ・クリストバル(オレゴン大)
レーン・キフィン(ミシガン大)
ビリー・ネイピアー(ルイジアナ大ラフィエット校)
マイク・ロックスリー(メリーランド大)
メル・タッカー(ミシガン州立大)
ジェレミー・プルイット(テネシー大)

サウスイースタンカンファレンス(SEC)に所属しているゆえ、セイバン監督はジョージア大のスマート監督やテネシー大のプルイット監督、テキサスA&M大のフィッシャー監督とはこれまで何回も対戦経験があり、今年もすでにセイバン監督はフィッシャー監督と手合わせしてこれを52対24で制しましたし、この後にもスマート監督とプルイット監督との対決を控えています。

彼らとの対決があるたびに「師弟対決」という言葉は使われるのですが、ことこのキフィン監督との対決はちょっとひと味もふた味も他の監督とのマッチアップとは違うのです。それはこの二人の関係性に理由があります。


キフィン監督のコーチングキャリア

その関係性を語る前にまずキフィン監督がどんな人物なのか掘り下げてみましょう。

キフィン監督はNFLの複数のチームでディフェンシブコーディネーターを務めたことのあるベテランコーチのモンテ・キフィン(Monte Kiffin)氏を父に持ち、子供の頃からフットボールに深く触れ合ってきました。カレッジでは1994年から1996年までフレズノ州立大に所属。バックアップQBとして過ごしましたが、4年生時に現役を引退して学生コーチに転向。つまり早い時期からコーチングの道を歩み始めていたことになります。

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父のモンテ氏がディフェンス畑を進んできたのに対して息子のキフィン氏はプレーキャリアからも分かる通りオフェンス畑を突き進みます。2001年には当時一時代を築き始めていたサザンカリフォルニア大でWRコーチに就任し、当時のピート・キャロル(Pete Carroll、現シアトルシーホークス)監督に認められると2005年には早々にオフェンシブコーディネーターに就任(現アラバマ大OCのスティーブ・サーキジアン氏と兼任)。このシーズンのサザンカリフォルニア大はQBにマット・ライナート(Matt Leinart)氏、RBにレジー・ブッシュ(Reggie Bush)氏を擁して業界を席巻。またリクルーティングでも手腕を発揮してコーチとしての株を上げました。

その功績を認められキフィン氏は2007年に若干31歳でオークランド(現ラスベガスレイダースのヘッドコーチに抜擢されます。ただレイダースでは初年度に4勝12敗、2年目も開幕以来1勝3敗と結果が出ずしかもオーナーのアル・デーヴィス(Al Davis、故人)と反りが合わずに3敗目を喫した時点でシーズン途中ながら解雇されてしまいます。

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ちなみにキフィン監督初年度にレイダースがドラフトにて総合1位で獲得したのが元ルイジアナ州立大のジャマーカス・ラッセル(JaMarcus Russell)氏ですが、彼は歴代最も残念なドライチ選手、いわゆる「ドラフトバスト」として有名です。

しかしその2ヶ月にはSECのテネシー大の監督に就任。当時33歳だったキフィン監督は初年度となった2009年に前年度5勝7敗だったチームを7勝6敗と勝ち越させ、それまでなかったオフェンス力をこの先期待できそうだとファンは胸を躍らせました・・・。

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が、翌年のオフシーズン、ピート・キャロル監督がシアトルシーホークスのヘッドコーチに就任するために次期監督を探していたサザンカリフォルニア大から白羽の矢が立ち、なんとキフィン監督はたったの1年でテネシー大を去るという一騒動を起こしたのです。

当然テネシー大ファンは怒りに震えたわけですが、やはりカリフォルニア州に強いルーツを持つキフィン監督としてはサザンカリフォルニア大のヘッドコーチというチャンスは逃すにはもったいなかったということでしょう。その事もテネシー大ファンとしては彼らが下に見られたと感じてキフィン監督への憎悪を拡大させたのです。

サザンカリフォルニア大ではキフィン監督は2010年に8勝5敗、2011年には10勝2敗(数字的には1位でしたがレジー・ブッシュ氏のスキャンダルの影響でタイトルゲームに進出できず)と数字を伸ばしましたが2012年には7勝6敗と後退し、2013年には3勝2敗となったところでシーズン途中ながら解雇されてしまいます。

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サザンカリフォルニア大での監督としての評価は芳しくありませんでしたが、自身が監督に就任する前のいざこざのせいでNCAAからの処分(2年間のボウルゲーム出場禁止やスポーツ奨学金を与えることが出来る選手の上限の削減など)という不運もありました。

セイバン監督との出会い

ただオフェンスIQがかなり高かったことは他も認めるところであり、その才能を生殺しにするのは惜しいと手を差し伸べたのがアラバマ大のセイバン監督だったのです。キフィン監督はサザンカリフォルニア大から解雇された2013年の年末にアラバマ大を訪問しセイバン監督に謁見。そしてその年のオフにアラバマ大のオフェンシブコーディネーターに空きができるとセイバン監督はその職をキフィン監督にオファーしたのでした。

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キフィン監督がOCに就任してから2年目にはアラバマ大はRBデリック・ヘンリー(Derrick Henry、現テネシータイタンズ)を擁してナショナルタイトルを獲得。そして翌年の2016年度にも再び彼らはナショナルタイトルを狙えるチャンスを得ましたが、クレムソン大との頂上決戦の1週間前にセイバン監督はキフィン監督と袂を分かつという驚愕の出来事が起きていました。

関連記事アラバマ大OCキフィン氏がタイトルゲームを目前に退団へ

というのもキフィン監督はその3週間前にフロリダアトランティック大の監督に就任。すでにCFP(カレッジフットボールプレーオフ)に出場を決めていたアラバマ大はキフィン監督がプレーオフ終了までフロリダアトランティック大の監督職とアラバマ大のOC職の兼任を許可していました。

が、その準決勝戦となったワシントン大戦(ピーチボウル)でアラバマ大は試合に勝ったもののオフェンスはいつになくチグハグ。それはキフィン監督がOCとして全身全霊アラバマ大のために尽くせていないからというのがもっぱらの噂でした。そしてクレムソン大との大一番を前にセイバン監督は敢えてキフィン監督を切るという荒療治に打って出たわけです。

結局このタイトルゲームでアラバマ大はクレムソン大に敗れてしまうわけですが、元を辿ればなぜキフィン監督ほどの人物が中堅チームであるフロリダアトランティック大の監督に就任したのかという疑問に行き着きます。

確執?

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その理由の一つとしてキフィン監督がセイバン監督の元でアシスタントコーチを務めることに嫌気が差しており、この呪縛から逃れるためなら監督のポジョションだったらどこでも良かったからだと言われています。

セイバン監督がアラバマ大をここまでの王朝に育て上げられた理由には彼の厳しい統率力が挙げられます。それは選手だけではなくアシスタントコーチらにも及ぶと言われ、選手並びにコーチのキャリアのその多くを西海岸という割と陽気な土壌で過ごしてきたキフィン氏にとってそれは窮屈と感じたのだと。

本当かどうかはわかりませんが、セイバン監督も出席する早朝のスタッフミーティングを「早すぎる」と人目もはばからず文句を言ってみたり、そのミーティングに遅刻してきたり、記者団にアラバマ大での仕事に楽しさはないと言ってみたり、我が道を行くキフィン監督はこれまでのアラバマ大のコーチ陣の顔ぶれと比べると異色であることは確かでした。

また2015年度のナショナルタイトルゲームでクレムソン大を倒して全米制覇を成し遂げた時、キフィン氏はスタジアムからホテルへ戻るバスに乗り遅れたり、翌年のピーチボウル(CFP準決勝戦)の試合後にも記者たちとのんびり談話している間にまたもチームバスに置いてきぼりを食らうという処遇を経験。まあこれはキフィン氏に非がありそうですが。

そしてキフィン監督とセイバン監督の関係性を最も色濃く表したのがサイドラインでの説教です。

2016年に行われたウエスタンケンタッキー大との試合。アラバマ大はすでに35点差をつけて勝利は確定していましたが、この場面でOCのキフィン氏はパスプレーを選択。その結果ファンブルを相手にリカバーされTDを許してしまったのです。

このプレーコールに怒ったセイバン監督はキフィン氏に人目をはばからず大説教。見ているこっちが同情してしまうほどの激怒の模様はTVでバッチリ放映されてしまいました。

この試合後インタビューでこのシーンのことを尋ねられたセイバン監督は「あれは言い合いなんかではありません。あれはいわゆる『Ass-Chewings』ですよ。」と説明していましたが、このAss-Chewings(上司からのクドい説教)という言葉は当時プチブレークしていました。

因縁の対決?

そんなこんなでお世辞にも良好な関係だったとは言えそうにない二人ですが、キフィン監督がフロリダアトランティック大に移った後にも彼はセイバン監督のことに関してチクチクジョークを噛ませてみたりとキフィン節をやめることはありませんでした。

一方コーチとしてはキフィン監督は2017年の初年度にいきなりスクールレコードとなる11勝3敗という好成績を残して所属するカンファレンスUSAで初優勝を飾り、2年後の2019年度にも10勝3敗でリーグタイトルを獲得。大学はキフィン監督と10年契約を結びなんとしてもこの逸材を長い間引き止めたい思惑でしたが、どう考えてもキフィン監督ほどの逸材がフロリダアトランティック大で長期政権を築くとは思えませんでした。

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そして2019年のポストシーズン。SEC所属のミシシッピ大マット・ルーク(Matt Luke)監督を解雇しその次期監督にキフィン監督を指名したのです。ミシシッピ大とアラバマ大は同じSEC西地区所属。筆者はキフィン監督のミシシッピ大就任が決まったその瞬間から今週末行われるアラバマ大対ミシシッピ大の因縁の対決を今か今かと待ちわびたのです。

二人ともいい大人ですから何があったとしても水に流して純粋に対決を楽しむことでしょうが、今週末の試合に際してこれまでの彼らの関係性を考えれば当人とは関係ないところで盛り上がってしまうのは致し方ないでしょう。

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今週に入り二人にはこの試合を迎えるに当たって様々な質問が投げかけれらました。

例えばかつてセイバン監督のもとで働いていたことは彼を倒すことに有利な要素をもたらしてくれるのではないかと尋ねられたキフィン監督は、

「有利ですって?セイバン監督はこれまで彼の元アシスタントとの対戦成績が20勝0敗なんですよ?どう考えてもオッズは私に不利です。しかもよくアシスタントが(セイバン)コーチの手の内を知っているなんて言いますが、それはコーチも同じで彼だって我々元アシスタントのことを知り尽くしているのですから。」

とちょっと優等生なコメントを残したと思えば、ラジオ番組でこの対決に際しての心境を聞かれた際には、

「私とコーチがプレーするわけではないですから。でももし二人の対決となったら彼は私をカバー出来ないでしょうね。彼はお年を召していますから。」

とジョークを飛ばしてみたり。

そしてこのキフィン監督のコメントについて一言求められたセイバン監督は、

「確かに彼の言うことには一理あるから反論はしませんけれどね。私も年をとったし、人工股関節置換術の手術も受けましたしね。ただ一つ言いたいのは彼が私の歳になった時にどうなっているかってことですね。」

と苦笑い。

どちらにしてもこの「師弟対決」ならぬ「因縁の対決」は個人的には大変見逃せないものとなりそうです。

参考記事キフィン監督とセイバン監督

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