「ニューイヤーズ6」ボウルのライナップでコットンボウルに続き2番目に登場するのがピーチボウルです。1968年から開催されているこのピーチボウルは常にジョージア州アトランタ市近辺で行われてきました。なぜ「ピーチ」かといえばそれはジョージア州の特産果物がピーチだからです。
【ピーチボウル】
シンシナティ大vsジョージア大
開催日時:1月1日東部時間午後12時(日本時間12月31日午前2時)
開催地:メルセデスベンツスタジアム(ジョージア州アトランタ市)
TV放映:ABC
今年はSECからジョージア大(7勝2敗)、「グループオブ5」勢代表としてアメリカンアスレティックカンファレンス(AAC)からシンシナティ大(9勝0敗)が出場。両校はこれまで3度の対戦がありますがどちらもジョージア大に軍配。しかし最後に対戦したのが1976年ということで44年ぶりの顔合わせとなります。
ここまでの歩み
今季「グループオブ5」の期待の星として連勝を重ねあわよくばCFP(カレッジフットボールプレーオフ)進出もあるのではないかとわくわくさせてくれたシンシナティ大。しかし最終ランキングでは8位に沈み、「パワー5」の壁の高さを思い知らされました。
無敗とはいえシンシナティ大の強さに疑問を持つ声はありましたし、それがCFP選考委員会の総意ということなのでしょうが、その強さが本物かどうかをプレーオフに出場させて証明させてあげられればいいのに・・・と思ったのは私だけではないはずです。しかし現在のCFPシステムにおいて「グループオブ5」の限界はここだという現実を突きつけられてしまったわけです。
若きホープのルーク・フィッケル(Luke Fickell)監督率いるシンシナティ大はその鬱憤を晴らすべくアトランタに乗り込み名門ジョージア大に挑戦。臨んでいた舞台ではありませんがジョージア大に勝つことができれば彼らの無敗シーズンを完遂できるだけでなく、彼らの強さに疑念を持ったすべての人間をギャフンと言わせることが出来るわけです。
一方のジョージア大はCFPランキングで9位に付けましたが、シーズン中盤までに2敗を喫した時点で早くもCFPレース並びにSEC東地区レースから脱落してしまいました。にもかかわらずCFPランキングの初回がリリースされてから一貫して10位以内をキープ。しかし現在の9位というランキングは聞こえはいいものの、もっと上を目指していた彼らにとっては決して現状に満足しているわけではないでしょう。
彼らは開幕時の先発QB候補とされていたジェイミー・ニューマン(Jamie Newman)が開幕前にNFLドラフトに備えるために今季オプトアウト。サザンカリフォルニア大からの期待の転校生J.T.ダニエルズ(J.T. Daniels)は昨年古巣で負った膝の怪我の具合が芳しく無く開幕戦に間に合わず、結果的に開幕スターターに任命されたドゥワン・マティス(D’Wan Mathis)は開幕戦でのアーカンソー大戦で超不振。そこで途中起用された第4の男であるステソン・ベネット(Stetson Bennett)がしばらくは先発QBとしてチームを率いました。
しかしベネットのキャパは強豪相手と試合をすることですぐに飽和し、明らかにQBプレーで他チームと渡り合うには力不足であることが露呈。そして満を持してダニエルズが登場した頃には時既に遅し。確かにダニエルズの合流でチームのオフェンス力は格段に良くなりましたが、その頃にはチームは2敗目をすでに喫しておりジョージア大の勝ち負けがCFPレースに影響を及ぼすようなことはありませんでした。
明らかに不完全燃焼なジョージア大。もし開幕時からダニエルズがプレーできていたらシーズンは全く変わったものになっていたかもしれませんが、その話は来年に持ち越し。今はなんとしても「グループオブ5」出身のシンシナティ大の餌食にならないために「パワー5」チームとしての意地を通さなければなりません。
シンシナティ大(CFP8位、9勝0敗)
ジョージア大との決戦に挑むシンシナティ大は2014年に「ニューイヤーズ6」ボウルというコンセプトが生まれて以来、「グループオブ5」勢としてこのボウルシリーズ戦で勝利する4つ目のチームとなることを目指します。
【NY6ボウルで勝利したグループオブ5チーム】
2014年:ボイジー州立大(vsアリゾナ大@フィエスタ)
2015年:ヒューストン大(vsフロリダ州立大@ピーチ)
2017年:セントラルフロリダ大(vsアーバン大@ピーチ)
もしシンシナティ大が今回ジョージア大を倒すことがあるならば、それは彼らのディフェンス力が物を言うからでしょう。今季被ヤードで全米10位、失点数で全米7位という数字からもそれを伺い知ることが出来ます。今回「NY6」ボウルに出場する全12チーム内で比べてみてもこの数字を上回るのは2位のクレムソン大ぐらいなものなのです。
そのディフェンスはこれまで9試合中実にたったの1試合でしか25点以上の失点を許していません。(vsセントラルフロリダ大、33失点)。また彼らが対戦した3つのランカー(陸軍士官学校:当時22位、サザンメソディスト大:当時16位、タルサ大:当時23位)との試合のうち2試合で失点数を14点未満に抑えています(陸軍士官学校:10失点、サザンメソディスト大:13失点)。
確かに彼らが対戦してきた相手はジョージア大が対戦してきたSECチームとは比べ物にならないかもしれませんが、だからといって彼らが中堅カンファレンス出身だからという理由だけでジョージア大オフェンスを防げないという結論に走るのは軽率でしょう。
今季彼らのディフェンスは多くの解説者や専門家らから多大なる評価を受けてきましたが、同じくらい見ているものに興奮を与えてくれたのは彼らのオフェンスでもあります。特にQBデスモンド・リダー(Desmond Ridder)とRBジェリド・ドークス(Gerrid Doaks)の二人のランアタックを止めるのは容易なことではありません。
機動系QBのリダーは足で609ヤードに12TDを奪う活躍を見せ、RBドークスも673ヤードに7TDという数字を残しており、この二人だけで約1300ヤードをランで獲得してきました。それはロースターに合わせたマルチプルセットを得意とするオフェンシブコーディネーター、マイク・デンブロック(Mike Denbrock)氏の手腕によるところも大きいです。
全米でも鉄壁のディフェンスとして知られるジョージア大にシンシナティ大オフェンスがどれだけやれるのかも見どころの一つです。
ジョージア大(CFP9位、7勝2敗)
前述の通りジョージア大のオフェンスはダニエルズの合流により一変。彼の初戦となったミシシッピ州立大戦では401ヤードに4TDと鮮烈デビュー。ジョージア大では2009年のNFLドラフトで総合1位でデトロイトライオンズ入りしたマシュー・スタフォード(Matthew Stafford)以来のスリンガーとして期待大のパフォーマンスを披露しました。
これまでのジョージア大オフェンスはラン重視のオフェンスに司令塔系QBを据えたオーソドックスなスタイルが主流でしたが、バックフィールドに果敢にチャレンジしていくダニエルズのスタイルは斬新でジョージア大にも遂に今流行りの飛び道具を多用したオフェンスがやってきたのかと思わせてくれるには十分でした。
またダニエルズの存在でこれまで力を十二分に発揮できてこなかったWR陣が水を得た魚のように復活。特に若き期待の星であるWRジョージ・ピケンズ(George Pickens)は最終戦のミズーリ大仙で126ヤードに2TDとようやくその真価を発揮する事ができたのです。
ただ一方でダニエルズが対戦した3チーム(ミシシッピ州立大、サウスカロライナ大、ミズーリ大)はお世辞にも鉄壁のディフェンスを持っているとは言えず、たしかにダニエルズの合流後の数字はぐっと伸びましたがこれがレベルの一歩高いディフェンスチームと対戦した時にどこまでの力を見せてくれるのかは未知数です。
つまりダニエルズ体制となったジョージア大にとってシンシナティ大ディフェンスは今季最強の相手となるポテンシャルを秘めており、アラバマ大やフロリダ大と対戦してこなかったダニエルズの真価を問うだけでなく、来年のジョージア大のオフェンス作りにも多大なる影響を与える試合となりそうです。
総評
相手とのミスマッチを大いに利用してディフェンスを切り崩してきたシンシナティ大オフェンス。彼らが対峙するジョージア大ディフェンスはシーズン通して相手に平均70ヤード以下のランしか許してこなかったユニット。もし「パワー5」勢でも随一のラッシュディフェンスを攻略できれば、シンシナティ大が試合の流れを掴むことが出来るでしょうし、そうなれば大御所斬りも夢ではなくなります。
一方ジョージア大にとってアトランタ市はキャンパスのあるアセンズ市から車で1時間半弱の場所にあり地の利があります。新型コロナの影響で観客数は限られるでしょうが、実質ホームグラウンドで戦えるのは圧倒的に有利です。
ただ気がかりなのはスターCBエリック・ストークス(Eric Stokes)が来年のNFLドラフトに向けて準備するためにピーチボウルを欠場するということ。バックフィールドを束ねていたストークスの欠場は多かれ少なかれ彼らのパスディフェンスに影響を及ぼすでしょう。
どちらにしても自分たちの強さを思い知らせたいシンシナティ大と、そんなシンシナティ大にしてやられることだけは避けたいジョージア大の対戦。どちらのほうが本気でこの試合を勝ちに来るかで勝負は決まるかもしれません。シンシナティ大がプレーオフに進出するだけの力を持っていたのかどうかを図るためには相手のジョージア大も本気でぶつかってこなければ意味がありません。フィッケル監督およびカービー・スマート(Kirby Smart)監督が選手たちのモチベーショをどのように保つかも試合の結果に間接的に影響しそうです。