アラバマ大が昨年度ナショナルチャンピオンに輝いたことで彼らのHCであるニック・セイバン(Nick Saban)監督にとって6つ目の全米制覇を達成したことになりました。これでFBS(フットボールボウルサブディビジョン)レベルではかの有名な元アラバマ大監督でありレジェンドでもあるポール・ベアー・ブライアント(Paul “Bear” Bryant)氏が持っていた最多優勝数に並んだわけです。今の所セイバン監督が現役で最高の監督と言われることに異議はありませんが、ひょっとしたら彼は歴代のカレッジフットボールの監督としても最高の人物と後世に伝えらえる可能性もあります。それくらいセイバン監督がカレッジフットボール界に多大なる影響を与えてきたわけです。
しかしそのセイバン監督も現在66歳。彼は健康状態が許す限りコーチングを続けたいと明言していますが、いずれはヘッドセットを置いて現場を離れる時が訪れるわけです。カンザス州立大のビル・シュナイダー(Bill Synder)監督のように80歳過ぎても現場にい続ければまた別の話ですが・・・。
昔から「栄枯盛衰」なんて言葉もありますから、いずれはアラバマ大からセイバン監督がいなくなる日がくるわけです。その時まで彼らが今のような「ダイナスティー」を維持できているかわかりませんが、アラバマ大ファンとしてはそれがいつになるのか気が気でないでしょう。
そうなれば「セイバン監督の後を誰に継がせるべきか?」という話も当然上がってくるわけですが、それが誰になるにせよセイバン監督が成してきたことをそのまま受け継いで勝ち続けるのはそう簡単なことではありません。それこそ「栄枯盛衰」なわけです。
しかしもしその人物をあえて今選ぶとしたら、それがクレムソン大のHCであるダボ・スウィニー(Dabo Swinney)監督以外に当てはまる人物はいないのではないでしょうか?
スウィニー監督が監督に就任した2009年以来クレムソン大は右肩上がりに強くなり、2016年度シーズンには見事ナショナルタイトルを獲得。それだけでなくここ3年間は連続してカレッジフットボールプレーオフ(CFP)に進出するなどその強さを持続させるのに成功しています。現在48歳とまだまだ若手ながら監督としての腕はトップクラスであることは間違いありません。
2016年度のナショナルタイトルゲーム前のスウィニー監督(左)とセイバン監督(右)
そして何と言ってもスウィニー監督はアラバマ大の卒業生であります。1992年にアラバマ大がナショナルチャンピオンに輝いた時のメンバーでもあるスウィニー監督は現役引退後には母校のアラバマ大でコーチングの道を歩み始めました。生まれも育ちもアラバマっ子である若き闘将が母校に監督として凱旋するというシナリオはそれこそネブラスカ大に凱旋して新監督になったスコット・フロスト(Scott Frost)監督のケースにダブって見えます。
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上のような背景からアラバマ大の次期監督はスウィニー監督が最適だろうという論調は自然と沸き起こってきていますが、それを黙って聞いていられないのはクレムソン大の上層部たちです。クレムソン大は長らくアトランティックコーストカンファレンス(ACC)で強豪チームというには後ちょっと・・・という位置付けをされてきましたが、その壁を取っ払ってくれたのがスウィニー監督であり、彼のおかげでチームは強くなり、それによってホームゲームのチケットはばか売れし、カンファレンスタイトルゲーム出場やCFP出場による報酬も大学側に流れ込んできています。それを考えればスウィニー監督を手放したいなど考える人間がクレムソン大にいるはずがありません。
そのことに一番神経を尖らしているのはクレムソン大の体育局長(Athletic Director=AD)であるダン・ラダコヴィッチ氏でありましょう。
「我々クレムソン大でもカレッジフットボール界の最上級レベルで戦える状況が揃っていることをダボ(スウィニー監督)もわかっているでしょう。そしてそれは彼自身が肌身で感じているはずです。我々クレムソン大には多くのポジティブな側面が揃っています。それは他のチームにはないものばかりです。」とラダコヴィッチ氏はアラバマ大と同じようにクレムソン大もカレッジフットボール界のプレミアチームであることをインタビューで説いています。アラバマ大だけが最高峰のチームではないんだぞ、と。
現在スウィニー監督はカレッジフットボール界で2番目に多いサラリーを受け取っています(約9億円)。これだけ見てもフットボールにつぎ込む財力としてはクレムソン大が全米で見てもトップクラスであることを示しています。ただ1番稼いでいるのは言うまでもなくアラバマ大のセイバン監督(約11億円)なのですが。
現在カレッジフットボール界で5本の指に入る監督にまでなったスウィニー監督
実際にスウィニー監督自身ももしアラバマ大の監督の座に空きができてその椅子をオファーされたらどうするかと言う質問を受けてきました。あるインタビューではこのように答えていました。
「私はよく『世の中何が起こるかなんてわからない』と言っています。だって将来の色々な全体像がどうなっているかなんて見当もつかないじゃないですか。例えば10年後アラバマ大が私を起用したいと誘って来た時、私がその時クレムソン大でそこまで好かれていない人物になっているかもしれない。またその時の大学長や体育局長と反りがあっていないかもしれない。だから私は常に今おかれている状況でその時点でのベストを尽くすことに集中することにしているのです。」と昨年9月のインタビューで述べていました。
また2017年度のアラバマ大とのCFPセミファイナルゲームであるシュガーボウル開催の直前には以下のような話をしていました。
「私は今までシュガーボウルのような歴史あるボウルゲームに監督として参戦するとは夢にも思いませんでした。もしそれが現実のものとなるのならばアラバマ大側の人間として叶うものだとばかり思っていたのが本当のところです。と言うのも私はかつて13年間も(アラバマ大がある)タスカルーサ市で育ち、(アラバマ大の選手として)2度もシュガーボウルに出場したからです。だからクレムソン大の監督としてシュガーボウルに出場するのは想像すらできなかったことです。」
これを聞いているとスウィニー監督がもしアラバマ大から誘いが来たらどうなるかわからないと感じますよね?少なくともこの2つのコメントではその可能性を完全に否定していませんから。
ですからラダコヴィッチ氏もおそらくいつか将来的にアラバマ大からスウィニー監督に触手が伸びるのは想定の範囲内であることでしょう。それは起きるかどうかではなく、「いつ」になるのかと言うことです。
「私は毎晩そのことを心配して夜も眠れない、と言う状況にはありませんが、フットボールに限らず大学のどのスポーツであったとしても体育局長としてそのような(監督が引き抜かれるかもしれないと言う)ケースが起こることにいつでも備えておかなければならないと思っています。」とラダコヴィッチ氏は話しました。
ただ一方でスウィニー監督にしてみれば今のクレムソン大を作り上げたのが自分であると言う自負はあるでしょうし、クレムソン大で彼に文句を言える人もおそらくそうはいないでしょう。そしてアラバマ大でセイバン監督が作り上げたようなダイナスティーをクレムソン大で自らの手で完成させることだって不可能ではありません。そんな居心地抜群なクレムソン大から去ることは、たとえ母校のアラバマ大から白羽の矢がたったからといって簡単に決断できるとも考えられません。
もっとももし本当にそんな日が来たら驚くこともおそらくそこまでないとは思いますが。