Coaching Carousel 2017 – ネブラスカ大の場合

Coaching Carousel 2017 – ネブラスカ大の場合

1960年代から1990年代にかけてカレッジフットボール界の第一線を走ってきたネブラスカ大。古株のカレッジフットボールファンの方々ならばご存知でしょうが、彼らはその象徴でもあったウィッシュボーントリプルオプションオフェンスで一世を風靡し、1963年から10年間で8つ、1981年から10年間で5つ、そして1991年から1999年までの間に7つのカンファレスタイトル(Big 8→Big 12)を獲得し、まさにミッドウェストにネブラスカありと謳われたものでした。

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オスボーン氏(左)とソリッチ氏(中央)

チームのレジェンドでもあるトム・オズボーン(Tom Osborne)氏が1997年にナショナルタイトルを獲得して引退すると彼の愛弟子であったフランク・ソリッチ(Frank Solich)氏がオプションフットボールを引き継ぎますが、1999年にカンファレンスで優勝して以来4年連続でタイトル獲りに失敗。2003年には10勝3敗と二桁勝利を挙げたのにもかかわらず大学側はソリッチ氏を解雇。そしてその後任にウエストコーストオフェンス(パス重視)を得意とするビル・キャラハン(Bill Callahan)氏を起用することになります。これはネブラスカ大の伝統でもあったオプションオフェンスを捨てることを意味し、そのオフェンスのファンであった私は非常にがっかりしたのを今でも覚えています。

キャラハン氏は4シーズンで27勝22敗という数字を残して2007年シーズン後に解雇され、後任のボ・ペリーニ(Bo Pelini)氏は7シーズンで67勝27敗と大きく勝ち越しましたが、全てのシーズンで9勝以上を挙げたのにもかかわらず、カンファレンスタイトルに手が届かなかったこと、そして何よりもペリーニ氏の素行の悪さもあって大学は2014年シーズン後にペリーニ氏と袂を分かち、新監督を探すことになりました。そして白羽の矢が立ったのが当時オレゴン州立大のHCであったマイク・ライリー(Mike Riley)監督でした。

オレゴン州立大の前はNFLのサンディエゴ(現LA)チャージャーズでヘッドコーチを務めたこともあったライリー氏でしたが、オレゴン州立大では鳴かず飛ばず。そんな氏にネブラスカ大が触手を伸ばしたことに関してはかなりの疑問が湧きました。しかも同じカレッジフットボールチームとはいえ、ネブラスカ大のような古豪チームを率いるのにライリー氏はいまいちカリスマ性に欠けると感じざるを得ませんでした。

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マイク・ライリー元監督

ライリー監督の初年度は6勝7敗と負け越し、そして2016年度は9勝4敗と持ち直しましたが、昨年度は4勝8敗と再び後退。そして大学側はライリー監督では未来はないとしてシーズン後に彼を解雇してしまいます。

時を同じくして2017年度シーズンのカレッジフットボール界で旋風を起こしていたのは「グループオブ5」のアメリカンアスレティックカンファレンス(AAC)所属のセントラルフロリダ大でした。そしてこのチームを率いていたのがスコット・フロスト(Scott Frost)監督。フロスト監督は2年前に0勝12敗だったセントラルフロリダ大を2年後には13勝無敗チームに大変身させた立役者で、カレッジフットボール界でもっとも注目されていた若き指導者でした。

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スコット・フロスト監督

そして何を隠そうこのフロスト監督、現役時代はネブラスカ大のQBを務め、しかも上にも紹介したオズボーン氏最後にしてネブラスカ大にとってももっとも最近となる1997年度のナショナルタイトルを獲得した時の先発QBだったのです。

腕の立つ元ネブラスカ大のスターQBであるフロスト監督がヘッドコーチとしての株を急激に上げていたことが、ネブラスカ大上層部がライリー監督からフロスト監督へ鞍替えするきっかけを与えたとしても不思議ではありません。

ところで、コーチング現役当時すでにレジェンドと化していたオズボーン監督は1997年度シーズン中に引退することを表明していました。そのシーズンをチームが13勝0敗で終えると、同じく12勝無敗でシーズンを終えたミシガン大と最終的にどちらがランキングでトップ票を獲得してナショナルチャンピオンに輝くかという非常にデリケートなシチュエーションに陥ったのです。

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その時チームの主力選手でもあった若干22歳のフロスト監督は恩師であるオズボーン監督に引退の花道を用意するためにオレンジボウルテネシー大に42対17で勝った試合後にこんなスピーチをメディアに向けて放ったのでした。

“I just want to say this about the national championship. You know, if all the pollsters honestly think, after watching the Rose Bowl and watching the Orange Bowl, that Michigan could beat Nebraska, go ahead and vote Michigan, by all means. But I don’t think there’s anybody out there that with a clear conscience can say that Nebraska and especially that Tom Osborne, that great man, doesn’t deserve a national championship for this! At least a share!”

「どのチームがナショナルチャンピオンにふさわしいか、ということに関して一言言わせてもらいたいのです。もし投票者のみなさんがローズボウル(ミシガン大がワシントン州立大を21対16で撃破)とオレンジボウルをどちらも観戦した上で、ミシガン大が我々を倒せると本当に思うのならば、どうぞミシガン大を首位に投票してください。しかし私はこの偉大なトム・オズボーン監督率いるネブラスカ大がナショナルチャンピオンに相応しくないと心の底から言える人がいるとは考えられません。最低でもシェア(同時優勝)を!」

恩師を慕ってこんなどでかいことを言い放ったフロスト監督のおかげかどうかはわかりませんが、結局最終ランキングではAPランキングがミシガン大を、コーチランキングがネブラスカ大を全米優勝チームに選出し、オズボーン監督は現役最後のシーズンに全米制覇を達成して現役を退いたのでした。

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ネブラスカ大選手時代のフロスト監督

そんな経緯もありネブラスカ大ファンはフロスト監督を半ば英雄視する傾向があり、今回ライリー監督が解雇されると地元では「Bring Our Boy Back!」と大々的にフロスト監督の凱旋を声高らかに訴えていました。またオズボーン監督も教え子であるフロスト監督なら名門復活を叶えてくれると自らフロスト監督を口説いたとも言われていました。

そのフロスト監督は母校からの熱いアプローチを感じながらもHCを務めるセントラルフロリダ大がチーム初の無敗街道まっしぐらであったこともあり、チームの雑音になることを防ぐためにネブラスカ大の話についてはほぼノータッチでした。その一方で母校でありしかも恩師が直接アプローチをかけたとなれば彼がこの誘いを断る理由はどこにもありませんでした。

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シーズン中すでにフロスト監督を熱望するネブラスカ大ファンたち

しかしたった2年でチームをここまで立て直した彼のセントラルフロリダ大選手たちへの愛情・愛着は想像以上だったようで、ネブラスカ大からのオファーをそう簡単に受け入れることはできなかったそうです。ここにフロスト監督の男気を感じるわけです。

結局セントラルフロリダ大はレギュラーシーズンも全勝で突っ走り、AACのタイトルゲームでは大接戦の末にメンフィス大を下してカンファレンスタイトルを獲得。またこの試合がまだ行われている途中にメディアではフロスト監督がネブラスカ大からのオファーを受理したというニュースが流れ、試合直後のインタビューでこのことについて突っ込まれたフロスト監督は感情的になって溢れ出そうな涙を抑えながら「今はこの勝利を選手たちと味わいたい。ただそれだけです。」と明言を避けていました。

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12勝0敗で見事AACタイトルを獲得

そしてフロスト監督は12月2日に正式にネブラスカ大の監督に就任。しかし12勝0敗でメジャーボウルゲームである「ニューイヤーズ6ボウル」の一つ、ピーチボウルで強豪・アーバン大との決戦が決まったセントラルフロリダ大で最後までチームの指揮を取るべく、フロスト監督は約1ヶ月の間ネブラスカ大監督とセントラルフロリダ大監督の二足の草鞋を履くことを決心します。これはここまで頑張ってきた選手たちとともにこのシーズンを完全な形で終わらせるためならなんでもやってみせる、と自ら発言したことを体現することでもありました。ここでもフロスト監督の男気を感じずに入られません。

そして今年1月1日に行われたピーチボウルでは見事に全米7位の「兄貴格」アーバン大を34対27で倒し、結果的に全米唯一の無敗チームとして完全シーズンに幕を閉じることになったのでした。

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ピーチボウルの勝利を選手たちと分かち合うフロスト監督

この業績が認められコーチオブザイヤーを総なめしたフロスト監督は選手たち、大学、ファンから惜しまれながらもネブラスカ大へと送り出されていきました。普通監督が格上とされるチームのHCに就任するためにチームを去る時は大抵「裏切り者」扱いされるものですが、外側から見てると今回のフロスト監督の場合にはそれが全く聞かれませんでした。それはフロスト監督が選手に包み隠さず本音でぶつかり、そしてネブラスカ大就任後もピーチボウルの準備のために己を犠牲にしてセントラルフロリダ大のために時間を費やしたからに他ならないでしょう。実際ボウルゲームの準備期間はリクルーティングでも非常に重要な時期で、フロスト監督はキャンパスがあるフロリダ州オーランド市で練習が終わるとすぐにチャター機でネブラスカ州リンカーン市に向かいリクルーティングに精を出し、そして夜遅くに再びチャーター機でオーランド市へ戻ってくるという生活をずっと続けていたということです。普通なら元チームのことなど見向きもしないものですが、それをしなかったフロスト監督。思わずファンになってしまいました(笑)。

ネブラスカ大はフロスト監督の現役時代と違って今はBig Tenカンファレンス所属。強敵ぞろいですので彼がどこまで母校を強くすることができるか気になるところですが、少なくとも彼らは競争率が激しくない西地区所属ですので、カンファレンスタイトルゲームに顔を出すのはそう遠くない未来に実現するかもしれません。

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