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オフシーズン便り#11【2020年】

オフシーズン便り#11【2020年】

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ベースボール・マガジン社 (編集)

メンフィス大がヘルメットに・・・

今オフシーズンはコロナ禍と「Black Lives Matter」の話で持ちきりのカレッジフットボールですがどちらも現在進行系。一方は人間の命を脅かし、もう一方は人間の尊厳を脅かすという大変ヘビーな世の中になっております。

そんな中アメリカンアスレティックカンファレンス(AAC)の雄・メンフィス大は2020年度シーズンにヘルメットの後ろに「BLM」のステッカーを貼って「Black Lives Matter」運動を支持すると表明しました(カレッジフットボールが開催されればの話ですが・・・)。

そしてこの行為によって仮にフットボール部関連のチケット売上や寄付金などによる収入が減るようなことがあれば、それを完全に補填しなおかつ上乗せするほどの補助金をポケットマネーから捻出するという後援者も匿名で名乗りを上げたそうです。

残念なことにこの世の中にはまだ「BLM」を支持しないという人もいるわけで、そのような人々がこれを支持することを表明したメンフィス大フットボールゲームのチケット購入やチームへ寄付金を渋るというケースも出てくるかもしれません。この匿名の後援者はこのような事態によって大学が損失を受けた場合の援護射撃を買って出たというわけです。

後援者が名を明かさないという「アンクル・トム」的なところもなかなか粋ですよね。


テキサス大の史上初黒人選手の遺族がNCAAを告訴

全米中で起こっている「BLM」運動はテキサス大キャンパスでも学生たちが変化を求める叫びを生みました。

今回の運動に乗じてテキサス大で叫ばれているのは、同大の黒人アスリートたちが応援されるのはアメフトをプレーしているからだけであって、フィールドの外では彼らをファンたちは平等に扱っていないもしくは平等に見ていないと訴えたのです。ファンたちの行為は偽善的であると。

そして大学や体育局に改善を求めた内容の中で目を引いたのは同チームのアイコニックなファイトソングである「Eyes of Texas」の使用を禁止せよというものでした。なぜならこの曲が作られた頃は悪名高い「ジム・クロウ法」が蔓延り、そしてこの曲が初めて演奏された演目では白人が黒人をもして肌を黒く塗った、いわゆる「ブラック・フェイス」が用いられたからです。

つまりこの「Eyes of Texas」にはかつて行われていた人種差別との深い関わりがあるという説があり、これが今回の廃止を訴える動きにつながったのです。

またその他にテキサス大で史上初となった黒人選手であるジュリアス・ウィティアー(Julius Whittier)氏の名前をホームスタジアムであるダレル・ロイヤル・メモリアル・スタジアムの一部に付け加えるようにとも訴えています。今ではチームの半数を占める黒人選手の先駆けとなったウィティアー氏に敬意を表するためです。

そんな折、偶然にも同じ時期にウィティアー氏の遺族がNCAAを告訴するという出来事が起きました。

告訴内容はちょっと前からNFLでも話題になっている現役時代の脳震とう(Concussion)の後遺症に関するものです。

この手の訴訟は決まってNFLもしくはNCAAが脳震とうによる後遺症のリスク開示を怠ったというのが理由となっており、ウィティアー氏の遺族もこれにもれずNCAAを相手取り100万ドル以上(1ドル100円計算で約1億円)の賠償金を請求しています。ウィティアー氏は現役後弁護士の道を歩みましたが、後年はアルツハイマー病に悩まされ2018年に他界。遺族はこのアルツハイマー病の原因が大学時代の脳震とうに発端をなすと訴えているのです。

死後の脳検査によるとウィティアー氏の脳には脳震とうの後遺症とされるCTE(Chronic Traumatic Encephalopathy)の兆候が見られたといいます。これが現役時代に受けた脳震とうのせいであり、その危険性を明らかにしなかったNCAAが結果的にウィティアー氏の命を奪ったのだというのが遺族の主張です。

ちなみにNCAAは昨年8月に脳震とう関連の訴訟で過去にカレッジでプレーした約400万人が脳震とうのスクリーニングを受けられるように7500万ドル(約75億円)を支払うことで和解するという集団訴訟を経験しています。

Tシャツの代償

先日オクラホマ州立大マイク・ガンディ(Mike Gundy)監督が極右で白人至上主義寄りとして知られるOne America Network(のロゴが入ったTシャツを着用している写真がSNSで出回り、これに反論する形でチームのスターRBチュバ・ハバード(Chuba Hubbard)がチーム活動をボイコットすることを表明するという一悶着がありました。

結果的に両者が話し合って和解し監督自身も謝罪する動画を公表しましたが、大学側は別ルートで内部調査を行っており先日その調査結果がでました。

その結果によると、ガンディ監督が日常から人種差別などを行ってきたという言動は確認されなかった、ということでした。問題だったのは監督と選手たちとのコミニケーションの欠如だった、というのが結論です。

これでガンディ監督も一安心・・・かと思っていたかどうかは定かではありませんが、この騒動の代償はそれなりのものとなりました。

まずは年収100万ドル(約1億円)の減俸。そして契約年数が5年残っていたところ1年減って4年間となった、というものでした。

昨年のデータによるとガンディ監督の年収は約512万ドル(約5億1250万円)であり、これは全米の監督界隈で見ると13番目の高額年収となっています。

100万ドル減っても400万ドル以上のサラリーを受け取ることが出来るということでガンディ監督にとってはどこまでの痛手なのかは分かりませんが、大学側はしっかりと世間様にそれなりの態度を行動で示したということなのでしょう。

テキサスA&M大が1年間の監視処分に

サウスイースタンカンファレンス(SEC)所属のテキサスA&M大リクルーティング違反によりNCAAより1年間の監視処分(プロベーション)に置かれることになりました。

情報によると2018年1月から2019年2月までの間に同大学がリクルーティングにおけるルール違反を犯していたことが明らかになったということです。

高校生選手たちを勧誘する行為をリクルーティングと言いますが、NCAAはコーチたちが行うことのできるリクルーティング活動にも事細かいルールを設けています。コーチが選手にメールやテキスト(ショートメール)を送ることの出来る時期や回数、コーチが選手に電話できる回数、リクルートをキャンパスツアー(オフィシャルビジット)に呼ぶことの出来る回数、それに加えてコーチがリクルートたちにいかなるコンタクトも行うことが出来ない期間(デッドピリオド)など本当に細かく規制されているのです。テキサスA&M大のコーチ陣は今回これらの行為で何らかの違反を犯したようです。

さらにNCAAはそのような環境を作りコーチ陣を管理できなかったとHCのジンボ・フィッシャー(Jimbo Fisher)監督を監督不行き届きとして6ヶ月以内の理由開示(Show Cause)を命令しました。フィッシャー監督自身はさらに今秋のキャンパス外へのリクルート訪問も禁止されることになりました。

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ジンボ・フィッシャー監督

フィッシャー監督の強みの一つとしてリクルーティング力が挙げられてきました。それを武器に彼は2013年度にフロリダ州立大でナショナルタイトルを獲得したのですが、今回はそれが裏目に出た形となってしまいました。

今年でテキサスA&M大3期目を迎えるフィッシャー監督にとって猛者揃いのSECで結果を残すには是が非でもリクルーティング戦争に打ち勝たなければなりませんが、現在のところ2021年のリクルーティングランキングでは全米27位、SECでは8位と大きく出遅れており、今回のこのNCAAによる制裁は大痛手と言わざるを得ないでしょう。

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