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2018年度CFPナショナルチャンピオンシップゲーム分析

2018年度CFPナショナルチャンピオンシップゲーム分析

クレムソン大の圧勝で幕を閉じた2018年度。前回は試合の流れを振り返ってみましたが、今回は締めくくりとして、この試合を分析し一体何が起きたのか、そして今後の展開はどうなるのか、という点に触れてみたいと思います。

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ベースボール・マガジン社 (編集)

アラバマ大の不調

筆者はテレビで最初からこの試合を見ることが出来ましたが、クレムソン大の勢い、アラバマ大のいつもと違う感じ、そして時々現れる「フットボールの神様」の存在を試合を通して感じることが出来ました。

クレムソン大がイケイケムード全開の中、その勢いに殺されてしまったアラバマ大。特に後半37対16とほぼ試合が決定してしまった頃には選手たちの集中力は切れてしまっているように見えました。それはおそらくここ何年も勝つことが常習化してしまい、負けた試合でも僅差だったことしか無い彼らにとってここまで完膚なきまでに叩きのめされてたいう経験がないため、それをどう受け止めていいのか、どうプロセスしていいのかわからないという選手の姿が印象的でした。

そしてそれを一番感じさせてくれたのがニック・セイバン(Nick Saban)監督です。普段なら選手が失敗すれば頭に血管が浮き上がるほどに激昂し、納得いかない判定をくだされれば審判団に食ってかかかるあの姿が、この試合では見る限り一度もなかったのです。それこそ点差が離されてしまった時点で諦めてしまった感すら見て取れました。もちろんそんなことは無いのでしょうが、彼のボディーランゲージから察するにいつものような情熱的な姿を見ることはありませんでした。

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打つ手なしと言った感じのセイバン監督

ただ、彼らがそうなってしまうのもわからなくもありません。何しろクレムソン大の1年生QB、トレヴァー・ローレンス(Trevor Lawrence)に要所要所で面白いほどパスを決められてしまい、戦力をそがれてしまったのですから。セイバン監督は元々DB選手であり、普段からDB陣を指導している監督でもあります。その彼に直々教えを請うているDB陣がカベレージを間違える、タックルをし損ねる、となれば戦意も喪失してしまいそうなものです。

1stダウン数 21 23
3rdダウン成功数/実行回数 10/15 4/13
4thダウン成功数/実行回数 1/1 3/6
トータルヤード 482 443
パスヤード 347 295
パスINT 0 2
ランヤード 135 148
ペナルティ回数/罰退ヤード 1/12 6/60
攻撃時間 28:23 31:37

 

スタッツだけ見ればアラバマ大とクレムソン大はそう大差ありませんでした。むしろボールを動かすという面だけ見ればアラバマ大はランオフェンスを中心にクレムソン大を上回っていました(アラバマ大148ヤード、クレムソン大135ヤード)。しかしこの日際立って悪かったのはアラバマ大のレッドゾーンオフェンス。彼らは3度相手レッドゾーンに侵入しましたが、3つとも得点に結びつけることができなかったのです。

そしてもう一つ絶望的だったのが3rdダウンコンバージョン率。13回中4回しかコンバート出来ずドライブを維持することに非常に苦労しました。もっとも4thダウンコンバージョンも入れれば多少は成功率も上がりますが・・・。実際のところ彼らのランオフェンスは効果を発揮していたのですが、3rdダウン成功率があまりにも低かったためクレムソン大への脅威にはならなかったのです。

しかしアラバマ大がらしくなかったのはそれだけではありません。QBトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagovailoa)の2つのパスINT。6度のファールで60ヤードの罰退。PATミス。キックオフがアウトオブバウンズになる。これらは滅多にミスをしないことでしられるアラバマ大にとっては大変珍しいことです。

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クレムソン大ディフェンスに苦しめられたタガヴァイロア

アラバマ大の最後の得点となった第2QのFGですが、彼らはこの時クレムソン大1ヤードラインまで迫っていました。しかしここでOLジェドリック・ウィルス(Jedrick Wills)がフォルススタートで5ヤードの罰退を食らってしまいます。もしここでFGでなく得点できていたら流れは変わっていたかもしれませんし、3度のレッドゾーンでの攻撃をTDで終われていたらこの試合はどうなっていたかわからなかったかもしれません。それを考えるとウィルスのフォルスタートが明暗を分けたといえるのかも・・・。もちろん「たられば」で話をしても意味は無いのですが・・・。

兎にも角にも彼らは理由はどうあれ自滅したといっても過言ではないわけです。


クレムソン大の勝利

ただやはりこの試合はそんなアラバマ大を凌駕したクレムソン大が評価されるべき試合でした。

特にスーパールーキーのローレンスの働きは特筆すべきです。一年生とは思えない冷静さでポケット内に居続け、次々にクリティカルなミッド/ロングレンジのパスを決めていきました。特にすごいのは彼の3rdダウン時のパフォーマンス。このシチュエーションだけでローレンスはなんと240ヤードも稼いでファーストダウンを奪い続けたのです。その回数は15回中10回。数字で表すのは簡単ですがこれは物凄いことです。ちなみにこの3rdダウン時のヤード数はセイバン監督にとって相手QBに奪われた数字では最多のものだそうです。

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まだ1年生ながら将来有望なQBローレンス

また1年生として先発QBを任されナショナルチャンピオンになるというケースは1985年のオクラホマ大以来とのこと。この時のQBは1年生のジャメル・ホリーウェイ(Jamelle Holieway)氏でしたが、実はこの年の元々の先発QBはあのトロイ・エイクマン(Troy Aikman)氏でした。彼もまたオクラホマ大では第2次世界対戦後で初の1年生先発QBに抜擢されてシーズン開幕後4試合に出場。しかし4試合目のマイアミ大戦で足首を骨折してしまいそのままシーズンを棒に振ったのです。彼は翌年UCLAに転校。その後のプロでの活躍はここで説明する必要もありませんよね。

もっともローレンスのパスは全てが正確というわけでもありませんでした。しかしそれを補ったのはWR陣の働き。特に1年生WRジャスティン・ロス(Justyn Ross)はこの日6回のキャッチで153ヤードに1TDという数字を残し、ノートルダム大戦(6キャッチ、148ヤード、2TD)に引き続きWR陣をリードしました。特にロスのライン際でのキャッチ能力は神がかっており、ローレンスの放った50/50のボールを何度もキャッチしてクレムソン大のドライブ続行に大いに貢献したのです。まさにフットボールの神が降臨したようなパフォーマンスでした。

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この日MVP級の活躍を見せたWRロス

そしてこの日縁の下の力持ちとしてローレンスを守りきったOL陣も是非評価していただきたい。アラバマ大のクウィンエン・ウィリアムス(Quinnen Williams)ら強力なDL陣のパスラッシュをことごとく防ぐ素晴らしいパスプロテクションを見せローレンスを死守。お陰でローレンスは大したプレッシャーを受けることなくアラバマ大ディフェンスを読み切ることが出来たのです。実際アラバマ大ディフェンスはこの日奪ったQBサック数がゼロ。これはアラバマ大にとって実に131試合ぶりのことだとか。

もしこれほどのパスプロがなかったらおそらくローレンスはここまでパスを成功させることはできなかったでしょう。それを考えればこの5人の巨漢たちの働きもまたMVP級と言えます。

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完璧なパスプロを見せたクレムソン大OL陣

それにしても今回のこのクレムソン大の圧勝を見て感じたことは、いよいよクレムソン大もアラバマ大がこれまで受けてきた「全米最強」と呼ばれるにふさわしいプログラムになったのではないかと言うことです。

強いチームと強いプログラムは似ていて異なることです。強いチームはいくらでもいます。それはその年に多くのベテラン選手が揃ったとか、その年のスケジュールがチームにとって有利だったとか、様々な要素がピッタリくればチームは勝利数を重ねることが出来るはずです。しかし強いプログラムとはそれを何年も繰り返すことが出来るチームのことを言います。それには絶対的なリーダー、強力なリクルーティング力が必要になってきます。強いチームを維持できてこそそのチームは強いプログラムと認められるわけです。

その最たるチームがアラバマ大だったわけですが、今回クレムソン大が勝ったことで彼らは過去3年間に2度ナショナルタイトルを獲得したことになります。そして過去4年間で見ればアラバマ大とクレムソン大は全米制覇をそれぞれ2度ずつ交互に手に入れているのです。2015年以来の戦績を見れば両校とも勝敗数は55勝4敗、プレーオフ進出回数は4回、そして優勝回数が2回とまったく同じ道を歩んでいます。

今回の試合を見ればタレントの質でもクレムソン大はアラバマ大に勝るとも劣りません。ローレンスは1年生ですし、活躍したWRロスもまた1年生。DLクリスチャン・ウィルキンス(Christian Wilkins)は抜けますが、その他のポジションも控える選手のレベルはかなり高いのです。

これは一重に地道なダボ・スウィニー(Dabo Swinney)監督らのリクルーティングの賜物です。ローレンスはジョージア州出身でありながらジョージア大ではなくクレムソン大に進学しましたし、ロスは元々アラバマ州出身の逸材で高校時代からアラバマ大も勧誘していましたが、結局クレムソン大を選んだのです。このようにしてスウィニー監督はクレムソン大を10年かけてナショナルタイトルを争えるチームに育て上げました。その手法はまさにセイバン監督が最優先事項としているのと同じです。

ところで、セイバン監督がいかにリクルーティングに重点を置いているかを示すいい逸話があります。今年シーズン後に行われたアワード授賞式(ジョージア州アトランタ市で開催)に出席する予定だったセイバン監督ですが、彼はこの前日にリクルーティングのためにカリフォルニア州に赴いていました。そこからキャンパスのあるタスカルーサ市に戻ってきたのは式の当日の深夜1時。そして数時間後には今度はインディアナ州へ飛び別のリクルートの元へ。さらにそこからジョージア州入りするのですが、式に参加する前にアトランタ郊外にいるリクルートと会って、そこからなんとヘリコプターを使って式の会場へと向かったというのです。これぐらいリクルーティングに精を出さないとダメだということでしょうね。

そんなセイバン監督に追いつけとスウィニー監督もリクルーティングに勤しみ、結果タレントの質が桁違いのチームを作り上げることに成功したわけです。

クレムソン大とアラバマ大の違いとは?

ところで上に挙げたロスですが、なぜアラバマ州出身なのにアラバマ大ではなくクレムソン大を選んだのかと聞かれた時、彼は「クレムソン大の家族のような雰囲気が気に入ったのです。」とその理由を話したそうです。これは見逃せないポイントのような気がします。

スウィニー監督は非常にポジティブな生活で饒舌、そんな監督に今の若い選手たちは惹かれるのです。自分の監督でありながら兄貴のような存在。そのスタイルがひょっとしたら今のご時世にフィットしているのかもしれません。それがリクルーティングで成功する秘訣であったり、またウィルキンスやクレリン・フェレル(Clelin Ferrell)のように昨年プロ入りしていてもおかしくなかった選手がもう一度全米制覇をするために今年もチームに残留したのです。今のトレンドではシーズンが終わってしまえばプロ入りを目論んでいる選手は怪我してドラフトでの勝ちを下げないためにボウルゲームに出場しないという選手が大変増えました。これは言ってみれば個人主義な考え方であり、チームメートのことは二の次という風にもとれます。そんな中ウィルキンスらがチームに留まったというのは少なからずスウィニー監督の存在も影響していたのではないでしょうか。

そういった雰囲気はコーチたちにもおそらく浸透していることでしょう。過去4年間でチーム内でアシスタントコーチが入れ替わったのは実に2人のみ。コーディネーターも同一人物であり、そのような安定感がスウィニー監督の性格と相まってクレムソン大が家族のようなチームとなったのでしょう。

試合後のトロフィー授賞式ではスウィニー監督が素晴らしい演説を行っている中、ウィルキンスらは監督に悪戯をするという悪ガキぶりを見せていましたが、それをこの晴れの舞台でやれてしまうというその雰囲気がすべてを物語っています(多少無礼講なところはあったにせよ)。

一方アラバマ大といえばコーチ陣が入れ替わるのは日常茶飯事。実際過去4年間で13人ものコーチが入れ替わっています。さらにすごいのはコーディネーターもコロコロ入れ替わっていることです。それでも過去10年間で5つのナショナルタイトルを取ってきたセイバン監督はすごいのですが、クレムソン大のような安定感はあるとは思えません。実際この試合でもオフェンシブコーディネーターのマイク・ロックスリー(Mike Locksley)氏はメリーランド大の新監督としての処務をこなしながらタイトルゲームに臨んでいたのです。二足のわらじを履きながらクレムソン大ほどのディフェンスを相手にするのは容易なことではなかったでしょう。これまではなんとかなっていましたが、今回はとうとうそのボロが出てしまったと見ることも出来るかもしれません。

コーチ陣の流入出は仕方のないことです。だれも永遠と誰かのアシスタントを務めていたいとは思わないでしょうから、いずれはチャンスが有ればHCとしてチームを自分で率いてみたいと思うのは至極当然なことです。

しかしアラバマ大の場合はそのサイクルが異常なほど早いのです。それはセイバン監督が呼び寄せるコーチたちはセイバン監督の王道学を学びに来ているとう感覚が大きく、ここでアシスタントを務めることは次のステップに行くための踏み台と考えているコーチもいるのではないでしょうか。もちろんカレッジフットボール史上最高のコーチとも言われるセイバン監督の息の掛かったコーチを生き抜きたいという他大学の意図も十分わかりますが。

しかし前述の通りクレムソン大は安定感は抜群ですし、今回アラバマ大オフェンスを撹乱して全く仕事をさせなかったDCのブレント・ヴェナブルズ(Brent Venables)氏やOCのトニー・エリオット(Tony Elliott)氏は近年それぞれ最優秀アシスタントコーチに贈られるブロイルズ賞を獲得するほどの逸材。その彼らなら他の大学から引く手あまたとなるでしょうが、今のところ彼らがクレムソン大を出ていくという話を聞きません。ヴェナブルズ氏に関して言えば彼はアシスタントなのに200万ドル(1ドル100計算でおよそ2億円)の年収があります。彼ならばどこに言っても監督として十分やれる人材なのでしょうが、収入もあり家族も住み慣れているこのクレムソン大から出ていく理由はないのかもしれません。それにスウィニー監督との仕事が非常にやりやすいからだとかいう理由があったとしても決して驚きません。

このクレムソン大の家族のような安定感は、数々の素晴らしいチームを世に送り出してきたセイバン監督のアラバマ大からは感じることが出来ませんし、その流動性が仇となったと考えても言い過ぎではないでしょう。実際DCを務めているトッシュ・ルポイ(Tosh Lupoi)氏は歴代のアラバマ大DCの中でも最弱だとも言われてしまっています。彼は昨年までDCを務めていたジェレミー・プルイット(Jeremy Pruitt)氏がテネシー大の監督に就任したためその後任として選ばれた人物。遡ればプルイット氏の前任は現ジョージア大監督のカービー・スマート(Kirby Smart)氏ですから、これほどまでの前任たちの後を継ぐというのは簡単なことではありません。

まとめ

今シーズンの最終戦だったタイトルゲームでクレムソン大がアラバマ大に圧勝したことで、来季以降のシーズンのトーンが変わりそうな気がします。アラバマ大は今季のリクルーティングランキングで首位に返り咲いているため(昨年は1位から7位に陥落)、彼らが今すぐどうこうなってしまうということはないでしょうが、少なくともクレムソン大が来季「倒すべきチーム」として他チームの挑戦を受ける存在になることは間違いないでしょう。

 

クレムソン大の完全優勝で幕を閉じた2018年度のカレッジフットボール。これから暫くの間寂しくなりますね。

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