カレッジフットボールシーズンならびにNFLシーズンもオフシーズンに入り現在現地のアメフト界では今年から新たに始まったプロリーグ、アライアンス・オブ・アメリカン・フットボール(AAF)の話と来たるNFLドラフトの話題が目立ちます。
AAFは先週末2週目を終えましたが出だしは好調のようです。しかし約20年前に華々しくデビューしたXFLも良かったのは最初だけで結局1年で幕を閉じました(来年復活することになっていますが)。AAFが人々の興味を引きつけ続けることが出来るかはまだまだわかりません。
NFLドラフトに関してはカレッジフットボールシーズン中から少しずつその話はされていましたが、NFLシーズンも終わってしまった今、フットボールファンの興味をそそるネタはこれぐらいしかありませんから、そこにESPNなどのスポーツメディアは全力を注ぐわけですね。
ドラフトと言えば昨年度はQB大豊作の年でした。総合1位だったベーカー・メイフィールド(Baker Mayfield、オクラホマ大→クリーブランドブラウンズ)を皮切りにサム・ダーノルド(Sam Darnold、サザンカリフォルニア大→ニューヨーク・ジェッツ)、ジョシュ・アレン(Josh Allen、ワイオミング大→バッファロービルズ)、ジョシュ・ローゼン(Josh Rosen、UCLA→アリゾナカーディナルス)、ラマー・ジャクソン(Lamar Jackson、ルイビル大→ボルティモアレイヴンズ)らが第1巡目でドラフトされました。そして昨シーズン終了時までには今挙げたすべてのQBがそれぞれのチームで先発の座を任されたくらいです。
それに比べると今年のドラフト候補QBは見劣りしてしまうのは仕方がないことかもしれません。今のところドゥウェイン・ハスキンズ(Dwayne Haskins、オハイオ州立大)、カイラー・マレー(Kyler Murray、オクラホマ大)、ダニエル・ジョーンズ(Daniel Jones、デューク大)、ドリュー・ロック(Drew Lock)らの名前が挙げられていますが、この中で1巡目候補とされるのはハスキンズとマレーぐらいです。もちろん今後行われるNFLスカウティングコンバインやプロデーなどを経て選手たちの評価は十分に変わっていきますが、やはり昨年のQBクラスには及びません。
しかしながら第1巡目候補QBが少ないからと言って残されたカレッジフットボール界、特にQB界隈にダメージが少ないとは言い切れません。
たとえば上に挙げたハスキンズは昨年度オハイオ州立大をカンファレンス優勝に導き、FBS(フットボールボウルサブディビジョン)ではヤード数のTD数で首位を獲得。マレーはご承知の通りハイズマントロフィー受賞QB。ジョーンズ、ロック、そしてウエストバージニア大出身のウィル・グリアー(Will Grier)らはそれぞれのチームで複数年の先発経験がある選手たちです。
複数年の先発経験といえばワシントン大のジェイク・ブラウニング(Jake Browning)も忘れてはなりません。1年生時からチームを率いたブラウニングはチームレコードとなる39勝を挙げ、Pac-12カンファレンスタイトルを2度、そして2015年にはカレッジフットボールプレーオフ(CFP)出場も成し遂げました。年を追うごとに連れて彼のプロダクションは下降していき、今季ドラフトでは高評価を得ていませんが、ブラウニングが去ることはワシントン大にとっては痛手です。
またペンシルバニア州立大のトレース・マクソーリー(Trace McSorley)もチームの大黒柱として活躍したベテラン選手。3年間の先発経験で31勝を挙げ、2016年には猛者ぞろいのBig Tenカンファレンスでタイトル奪取を後押ししました。1シーズンにおけるパスヤードとTD数並びに生涯パスヤードとTD数でそれぞれチーム新記録を樹立し、確実にペンシルバニア州立大フットボール部史に名を残すQBとなりましたが、そのマクソーリーもドラフトでは中堅クラスです。しかしそれでもペンシルバニア州立大ではマクソーリーの抜けた穴をそう簡単には埋められそうもありません。
ワシントン州立大のガードナー・ミンシュー(Gardner Minshew)は昨年1シーズンだけの先発QBでしたが、昨年彼が残した記録(4776ヤード、チーム新記録となる11勝)、そして記憶は今後もファンの間で語りぐさになることでしょう。ワシントン州立大はオフェンスのマジシャン、マイク・リーチ(Mike Leach)監督が居ますから、また別のQBが育ってくることでしょうが、それでもミンシューが昨季成し遂げたことは格別であります。
「グループオブ5」カンファレンス群のボイジー州立大QBブレット・ライピエン(Brett Rypien)は4年間先発を任され続け、そのうち3シーズンで二桁勝利を確立。生涯パスヤード13578ヤードに90TDはチーム史上2番目の記録であり、ボイジー州立大でも彼の名は長く語られることになるでしょう。しかしやはり彼もドラフトでは1順候補には遠く及びません。
その他にもノースカロライナ州立大のライアン・フィンリー(Ryan Finley)、ノースウエスタン大のクレイトン・ソーソン(Clayton Thorson)、アーバン大のジャレット・スティッドハム(Jarrett Stidham)、ヴァンダービルト大のカイル・シューマー(Kyle Shurmur)、シラキュース大のエリック・ダンジー(Eric Dungey)、ミシシッピ州立大のニック・フィッツジェラルド(Nick Fitzgerald)などベテランQBが所属チームを卒業ないし早期ドラフト入りすることになっていますが、ドラフトのエキスパートたちからすれば今挙げたQBたちは良くて第4巡目が妥当だと言われています。それでも彼らが抜けた後のそれぞれのチムでのダメージは相当なものです。
ちなみに来年の2020年のドラフトではオレゴン大のジャスティン・ハーバート(Justin Herbert)、アラバマ大のトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagovailoa)、ジョージア大のジェイク・フローム(Jake Fromm)などという有能選手がNFLドラフト入りを控えますから(タガヴァイロアとフロームは早期ドラフト入りを宣言すればの話ですが)、今年無理にQBをドラフトしないで来年今挙げた選手らをドラフトしたほうが賢い選択だ言えなくもありません。
兎にも角にも今年のドラフトでのQB陣には物足りなさを感じるかもしれませんが、上に挙げたQBたちを失うカレッジチームにしてみれば彼らが抜けた穴を埋めるのはそう簡単ではありません。特に3、4年間先発を任されていたような経験豊富なQBを失うチームは、バックアップQBが即プレーできるに足りる選手でない限りは2019年は育成の年となるでしょう。それは学生アスリートが最大4年間しかプレーできないカレッジフットボールの醍醐味でもあり、それはまたコーチたちの頭痛の種でもあるのです。