今季2勝9敗という散々な結果に終わったノースカロライナ大。2017年度も3勝9敗ということで2年連続となる負け越しを喫し、しかもチームが上昇する気配も感じられないことから、大学側はラリー・フェドラ(Larry Fedora)監督を解雇することを決定しました。
ノースカロライナ大から解雇されたフェドラ監督
7年間のノースカロライナ大でのトータルレコードは45勝43敗。カンファレンスレコードも28勝28敗と宙ぶらりんな感じ。もっともフットボールよりもバスケットボールで知られているノースカロライナ大においてこの数字だけみればパニックに陥るものでもありません。しかしここ数年のチームの弱小ぶりを見れば誰が見てもフェドラ監督が適任者だとは思わないでしょう。
2015年度には海岸地区を制し、ACCタイトルこそクレムソン大に譲ったものの、11勝3敗という好成績を残してノースカロライナ大がACCの強豪チームの仲間入りを果たしたかに見えました。2016年には前年度ほどではないにしろ8勝5敗と勝ち越し、2017年シーズンが始まる前には7年の契約延長を大学側と結んでいたのです。
しかしその2017年度そして今年とその絶不調ぶりといったら酷いもので、流石に契約を延長したばかりだったとしてもフェドラ監督では将来はないと大学側も腹を決めたのでしょう。なんといっても契約途中でクビを切ることになり、そのせいでフェドラ監督には総額1200万ドル(1ドル100円計算で約12億円)を支払わなければならないからです。
また成績以外でも今シーズン開幕前に彼が残した脳震とう(Concussion)に関するコメントにも批判が集まっていました。ここ数年アメリカのスポーツ界、とくにフットボール界では脳震とうが及ぼす後遺症(CTE)の怖さが徐々に明らかになってきており、脳震とうの取り扱い方も非常にデリケートになっていました。そんなご時世でフェドラ監督はCTEなど信じない、と宣ったのです。しかもノースカロライナ大は脳震とうの研究でも全米をリードする機関。その大学のヘッドコーチがとんだ失言をしたのですから、それは油に火を注ぐようなものでした。
フィールド内外で信頼を得られなくなったフェドラ監督のクビを切ったノースカロライナ大の判断は当然のものだと思います。しかしその後任の人物はどうでしょうか・・・。
フェドラ監督解雇が決まってたったの2日後にはすでにノースカロライナ大はフェドラ監督の後任を指名。それは元テキサス大監督でここ数年はESPNの解説を務めていたマック・ブラウン(Mack Brown)氏です。
実はブラウン氏はテキサス大で指揮を執る前にノースカロライナ大で1988年から1997年までの10年間監督を務めていたという過去があり、今回でブラウン監督の第二次政権が誕生したことになります。この10年間で10勝シーズンが3度と年を追うごとにチームを成功へと導き、その手腕が認められて1997年度シーズン後にテキサス大から白羽の矢が立ったのです。
ノースカロライナ大時代のブラウン監督
テキサス大ではその類まれなるリクルーティング術でタレント選手を毎年入部させることに成功。2013年までの16年間で158勝48敗という素晴らしい数字を残し、2005年度にはQBヴィンス・ヤング(Vince Young)らを擁してナショナルタイトルも獲得しました。特に1998年から2009年までの間は128勝27敗を挙げ、9年連続二桁勝利シーズンを送るという一時代を築きました。
テキサス大で2005年度にナショナルタイトルを獲得したブラウン監督
そんなブラウン氏ですが晩年はそれまでのような勢いが衰え、2013年シーズン後には辞任という名の解雇処分に。その後は前述の通りテレビの解説者として活躍していました。
コーチとしてかつて名声を挙げたブラウン氏の功績は疑う余地もありません。現にブラウン氏は来週カレッジフットボールの殿堂入りを果たすことになっています。が、現場から5年離れた67歳のブラウン氏が再びサイドラインに立つというこの意味。今後コーチ市場が活発になっていく中、かつてチームを率いていたということでブラウン氏を復帰させたことは果たして賢い選択だったのか。
確かにブラウン氏はナショナルタイトルを獲得したことのある監督ですし、コーチ業から離れていたときもテレビ解説者として多くの試合を実際に見てきており、最近のカレッジフットボールのトレンドにも精通していることでしょう。
今年アリゾナ州立大がハーム・エドワーズ(Herm Edwards)監督を起用したように、ブラウン新監督はノースカロライナ大でCEOのような立場でチームを率いていくのでしょうか。もしそうならば彼にとって最大の仕事はレベルの高いアシスタントコーチたちを組閣することです。
そしてそれと同じくらい重要なのはリクルーティングです。テキサス大ではリクルーティング王として鳴らしたブラウン新監督ですが、リクルーティングは生き物のようなもの。その作業から5年も離れている彼がブランクを取り戻すのにどれくらい時間がかかるのか。そして一番の違いはテキサス大でリクルーティングが成功したのはブラウン監督の手腕もそうですが、やはりテキサス大というブランドも大きく影響したことでしょう。ノースカロライナ大のブランド力でどれだけの選手が集められるのか。
そしてノースカロライナ大でのブラウン新監督に望む期待値です。ノースカロライナ大でナショナルタイトルを獲れというのは大変厳しいハードルです。ブラウン新監督も口では全米制覇をめざすというかもしれませんが、それをノースカロライナ大で成すというのはどれだけ難しいかはわかっているはずです。
つまりお互い(大学側とブラウン新監督)がどれだけ本気なのか、ということに尽きます。ブラウン新監督は常日頃から現場に戻りたいと言っていたらしいので、今回でその夢はかないました。若い大学生たちをフットボールを通して育成するということに重きを置くのも素晴らしいことですから、勝つことだけが全てという傾向が強くなるこの世界でブラウン監督の持つ知識と経験と人間力でノースカロライナ大でどんなチームを構築できるのか、これから見守っていきたいと思います。