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カンファレンス拡張で損したチームたち

カンファレンス拡張で損したチームたち

カレッジフットボール界でカンファレンス拡張エクスパンション)が行われるのは珍しいことではありませんが、特に過去10年から15年間にかけて行われたエクスパンションはグループオブ5カンファレンスだけでなくパワー5カンファレンスをも巻き込んで全米の勢力図に大なり小なりの影響を及ぼして来たと言えます。特に一昔前まではメジャーカンファレンスとされていたBig Eastカンファレンスがチームの流出を防ぎきれずにフットボールカンファレンスとして消滅してしまったことに始まり、Big TenカンファレンスPac-12カンファレンスアトランティックコーストカンファレンス(ACC)、さらにはあのサウスイースタンカンファレンス(SEC)ですら新たにチームを招き入れてカンファレンスの規模を拡大させてきました。その中にはカンファレンスの鞍替えに理解を示すことができるものもあれば、何故カンファレンスを変える必要があったのか理解できないものもありました。

たとえば地理的にみてどう考えても無理があるもの、そして自身の力をわきまえずに格上のカンファレンスに飛び込んでいったものなど・・・。どちらの場合もカンファレンスの鞍替えの真の理由が大学側の経済的なものから来ているため、フットボールチームがそこで勝てるかどうかは二の次という状況です。それによりカンファレンスを移動した事がチームの成績に真逆に働いているケースも見受けられます。

今回はそのように「カンファレンスを変えて損している」チームを見てみたいと思います。

ラトガース大(Big East→Big Ten)

長いこと独立校(無所属)だったラトガース大は1991年からBig Eastに参入しますが、すでにそれ以前から彼らはフットボールでは勝てない大学だというレッテルを貼られていました。その状況は2000年代に入っても変わりませんでしたが、2001年からヘッドコーチを任されていたグレッグ・シアーノ(Greg Schiano)氏が2005年度に7勝5敗と12年ぶりに勝ち越してシーズンを終え、27年ぶりにボウルゲーム出場を成し遂げると、翌年の2006年度には11勝2敗という好成績を残しその後も2010年度の4勝8敗シーズンを除けばシアーノ氏がラトガース大を安定して上位を狙えるチームに育て上げたことは明白でした。

しかし当時彼らが所属していたBig Eastはメジャーカンファレンスとされていましたが、それまでに行われたカンファレンス拡張の余波を受け、マイアミ大バージニア工科大ボストンカレッジらが脱退するとカンファレンス全体のパワーバランスが低下。SECBig TenPac-12(当時はPac-10)らと比べると力の差は歴然でした。ですから確かにラトガース大が以前よりも強くなったのは誰の目から見ても明らかだったのですが、彼らがナショナルタイトルを狙えるような器だったのかといえばそれは・・・でした。

しかもラトガース大の急成長を支えたシアーノ氏が2011年度シーズン後にNFLタンパベイバッカニアーズの新監督就任のためにチームを脱退するとチームに暗雲が立ち込めます。後を継いだカイル・フラッド(Kyle Flood)氏の初年度となった2012年度はBig Eastタイトルを獲得するも、そのシーズン後にBig Eastは解体。それを母体とした新組織であるアメリカンアスレティックカンファレンス(AAC)に合流したラトガース大は2013年度に6勝7敗と負け越します。

そしてそんな折、ラトガース大がBig Tenに移籍するというニュースが流れたのです。これは全米中のカレッジフットボールファンを驚かせました。というのもシアーノ氏時代にチームが強くなったとはいえ、基本的にラトガース大はフットボールで知られた大学ではなく、そんなチームが歴史あるトップリーグ、Big Tenに加入することに対する違和感、そして何よりも地理的にいってニュージャージ州に位置する彼らがミシガン湖周辺を本拠地とするBig Tenに参入することが不自然だったのです。

ラトガース大にとってはBig Tenという経済的に豊かなビッグリーグに加わることでその恩恵をあやかろうと意図していたことでしょうし、Big Tenからすれば彼らを抱き込むことで東海岸でのマーケット拡大を狙っていたことでしょう。そういうビジネスの面ではこのラトガース大のBig Ten入りは一応の理解はできますが、ファンの多くはラトガース大はBig Tenでは生き残れないと危惧していました。

そしてそれはすでに結果に現れ始めています。Big Ten初年度となった2014年度シーズンは8勝5敗とまずまずの成績でしたがカンファレンス戦は3勝5敗と撃沈。さらにその翌シーズンは4勝8敗と負け越し、カンファレンス戦では1勝7敗といよいよファンたちの悪い予感が的中してしまいます。しかもこのシーズン後にフロッド氏はシーズン前に明らかになった不正行為(選手の成績改ざんを画策したこと)こともあり解雇されてしまいます。

2016年度はオハイオ州立大のオフェンシブコーディネーターだったクリス・アシュ(Chris Ash)監督に再建を託しますが、彼の初年度はトータル2勝9敗、カンファレンス戦は9戦全敗と散々。しかも11試合中完封負けが4度もあり、そのうちの一つであるミシガン大でのファイナルスコアは驚愕の78対0。いくらアシュ監督の初年度だからと言って、これを見て今後ラトガース大がこのカンファレンスの上位を狙えるのかと尋ねられれば、首を縦に振る人が一体全米中で何人いるでしょうか?AACに留まっていれば、少なくともBig Tenでタイトルをとる確率よりも高い確率でAACのトップに立つことが出来ていたでしょうに・・・。


ボストンカレッジ(Big Eastカンファレンス→ACC)

男子バスケットボールの強豪カンファレンスとして知られていたACCはフットボールでもその力を拡大させようと2000年代前半にカンファレンスのエクスパンションをアグレッシブに行いました。その結果多くのチームをBig Eastから奪い取っていったのですが(そしてそれによりBig Eastが消滅することになる)、その中の一つがボストンカレッジでした。ボストンカレッジがACC入りしたのは2005年でしたが、彼らは加入後最初の5年間は大西洋地区でも上位を維持しカンファレンス移転が間違っていなかったと誰しもが思ったものでした。

しかしそれも長くは続かず、年を追うごとに成績が低下。2015年度にはカンファレンス戦全敗、さらには男子バスケットボール部も16戦全敗と揃っていいところがありませんでした。

今でこそACCにピッツバーグ大シラキュース大が加入したことによりマサチューセッツ州に所在地を置くボストンカレッジが同カンファレンスに所属している事がそこまで不思議ではなくなりましたが、加入当初は地理的な理由でボストンカレッジのACC入りは疑問視されていました。学力の高い大学として知られ、フットボール部も知名度が高いボストンカレッジのACC入りはACCにとってはベストマッチだったのかもしれませんが、ここ5〜6年間の結果を見ると彼らのACC入りが果たして最良の選択だったのか分かりません。

ミズーリ大(Big 12→SEC)

2000年代に入って激化したエクスパンションの中でもSECはその流れに惑わされず長いこと12チームのカンファレンスを維持してきましたが、2012年に約20年ぶりにテキサスA&M大ミズーリ大をBig 12から引き抜きました。

ミズーリ大はもともとカレッジフットボールの世界では中堅的な位置に長いこと属していたチームでした。カンファレンスタイトルは合計15回獲得していますが、最後にそれを成したのは1969年のこと。また1960年度シーズンに11勝0敗としてからおよそ50年間二桁勝利をあげることも出来ずにいました。

そんなミズーリ大に転機が訪れます。2001年にトレド大からゲリー・ピンケル(Gary Pinkel)氏を監督として招聘したのです。ミッドメジャーと言われるトレド大を10年間率いたピンケル氏は通算73勝37敗3分け、1度のカンファレンスタイトルに3つの地区優勝を果たすなど安定した成績を残し、その手腕を買われメジャーカンファレンスのミズーリ大から白羽の矢がたったのです。

そして2007年、2008年、2010年にはBig 12北地区チャンピオンに輝き、2007年度にはシーズン中に1度全米ランキング1位を獲得するまでに至りました。そしてチームが2012年にSECに鞍替えした後も2013年、2014年とSEC東地区を制し、ピンケル氏率いるミズーリ大が強豪ぞろいのSECでも十分渡り合えることを世に知らしめたのです。

しかし2015年にカンファレンス戦で1勝7敗、トータルでも5勝7敗と大失速し、しかもそのシーズン後にピンケル氏が血液の癌の一種である非ホジキンリンパ腫を患いコーチングから引退。彼の後継者となったバリー・オドム(Barry Odom)氏の初年度となった2016年度はトータル4勝8敗(カンファレンス戦は2勝6敗)となり東地区で最下位。かつての強さは見る影もなくなってしまったのです。

もちろんオドム氏が今後ミズーリ大を復活させる可能性も残されているでしょうが、彼のデビューシーズンを見た限りでは彼らが同じ東地区所属であるフロリダ大ジョージア大テネシー大などと渡り合えるとは到底想像できません。

ミズーリ大がBig 12を去った当時、同カンファレンスは急速に力を失い始めており、長期的なことを考えればSECからの誘いを蹴る理由もなかったのでしょうが、今後ミズーリ大が猛者揃いのSECで最下位を争うことしかできない存在となってしまったとなれば、果たしてBig 12を抜けた彼らの決断が良かったのかどうか、疑わざるを得なくなるでしょう。

コロラド大(Big 12→Pac-12)

コロラド大もBig 12を見限って出て行ったチームの一つですが、彼らはロッキー山脈を超えて西海岸にあるPac-12カンファレンスに2011年から参入しています。

1990年にはナショナルタイトルを獲得し、それ以降も安定したチームを輩出。2001年から2005年まではゲリー・バーネット(Gary Barnett)氏指揮下1つのカンファレンスタイトルに3つの地区タイトルを奪取。Big 12でもその存在感を発揮していました。

しかしバーネット氏が自身が関わった不正行為のために2005年のレギュラーシーズン後に解雇されるとその後10年間彼らが勝ち越すことが出来なくなってしまいました。そんな感じでチームが下降の一途を辿る中、Pac-12はコロラド大を新チームとして招き入れたのです。

コロラド大と同時にPac-12入りしたユタ大はコロラド大と違って中堅リーグ(マウンテンウエストカンファレンス)出身でした。しかしPac-12でも全く結果を残せないコロラド大を横目にユタ大は大躍進。2015年度には南地区の王者になるまでに成長し、コロラド大の肩身はますます狭くなっていきます。

ただ、2016年度コロラド大は誰も予想できなかった最大級の巻き返しを成し遂げます。2015年度のカンファレンス戦績が1勝8敗だったのに対し、2016年度は8勝1敗と大躍進。南地区も制し、場合によってはカレッジフットボールプレーオフに出場できるかもしれないというシナリオまで出来たぐらいにチームは生まれ変わったのです。

ではなぜ彼らがここにリストアップされているのか・・・。それは単純にこの2016年度の「シンデレラストーリー」がマグレだったのではないかという危惧があるからです。もし2017年度以降も彼らが2016年度のような活躍を引き続きすることができれば、彼らをこのリストから外さなければなりませんが、それは来たる2017年度シーズンの彼らの出来を見てから決めることにしましょう。

ウエストバージニア大(Big East→Big 12)

ネブラスカ大コロラド大テキサスA&M大ミズーリ大と次々と所属チームが出て行ってしまったBig 12カンファレンスにとって自身を維持するには新たなるチームを補充することが最優先課題でした。そして2012年に彼らはテキサスクリスチャン大ウエストバージニア大を引き込むことに成功しました。

アメリカ中部から中南部が主戦場であるBig 12にとってテキサスクリスチャン大が同カンファレンスに加入したことはごく自然なことでした。が、地理的に全く関係性が見えてこないウエストバージニア大の加入は、いくらBig 12にとって新チームを加入させること急務であったしても、カンファレンスという概念を破棄しかねないものでした。

Big 12の分布図。一番東側(右側)がウエストバージニア州。完全に他の所属チームの州からかけ離れています。

ウエストバージニア大自体は古くから強いチームを世に送り出し続けており、特に2000年代にリッチ・ロドリゲス(Rich Rodriguez、現アリゾナ大監督)が監督を勤めていた際には彼の在任7年間中4度もBig Eastタイトルを獲得するほどのチームになっていました。その後もビル・スチュワート(Bill Stewart)氏、そして現在のダナ・ホルゴーセン(Dana Holgorsen)監督指揮下侮れないチームを輩出し続けています。

2012年から主戦場をBig 12に移したウエストバージニア大は数年の間中堅位置をさまよっていましたが、2016年度には棚ぼたがあったとはいえ、カンファレンスタイトルを狙えるところまでいきました。そしてこのサイトでも紹介しているように、2017年度も前年度の勢いを昇華させる準備は整いつつあるようです。

【関連記事】転校生で補強し続けるウエストバージニア大

ですから彼らがBig 12のタイトルを獲得する日もそう遠くないかもしれません。だとすれば彼らがこのカンファレンスに参入して損することはないはずですが・・・。

あるとすればそれはやはり前述の地理的理由によるものだと思います。やっぱり幾ら何でも他の所属チームたちから離れすぎているのです。カンファレンス戦を行う場合、移動はできれば最小限、ストレスフリーで済ませたいものです。いくらチャーター機で移動するとはいえ、移動距離が長くなれば移動時間が伸びるだけでなく移動費もかさみます。カンファレンス戦のアウェーゲームが1シーズン4試合のみだけだとしても、この負担はバカに出来ません。そしてそれと同じことがウエストバージニア大にやってくるビジターチームにも言えるわけです。

また昨年のオクラホマ大とのホームゲームではウエストバージニア大はスノーストームに襲われてしまいました。Big 12チームはその地理的理由で雪の中で試合をやることはそうありません。しかしウエストバージニア大が同じカンファレンスに所属してしまったため、そのような天候下で試合をせざるを得なくなる恐れも出てくるわけです。

(もっともオクラホマ大はこの状況下で56対28とウエストバージニア大を一蹴しているのですが)

このロケーションの問題が長い目で見てウエストバージニア大だけでなくリーグ全体に大きな負担となる可能性は拭えません。特に大学体育局全体で見ればフットボールだけでなく他のスポーツチームも同じような長距離移動を余儀なくされ、その経済的、人的、物理的ストレスは無視できないはずです。

まとめ

カンファレンスのエクスパンションはその多くが経済的理由で行われるものです。しかし、目先の利益だけを追ってチームのカンファレンスの鞍替えを敢行すれば、時としてフットボール部にとっては利益になるどころか足かせにもなりかねません。試合に勝てなければリクルーティングもうまくいきませんし、そうなればチームの育成にも遅れをとる。この悪循環が続けばチームが各カンファレンスで名を上げるのはどんどん難しくなっていきます。チームが弱ければファンは離れ、チケットは売れ残り、結局純利益が減ることだって上げられると思うのです。ただ、それを補うだけの経済的利益を移籍先のカンファレンスから望めるケースもあるのかもしれませんが。

しかしそうであったとしても、肝心の選手たちは勝つためにプレーを続けているわけで、そんな選手たちを蔑ろにするようなことがあってはならないと思うのですが・・・。

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