今季第7週目の大一番だったのは全米2位(当時)のオハイオ州立大が全米3位(当時)のオレゴン大へ乗り込んだ一戦でした。この試合ではオレゴン大が試合終了直前に逆転し、オハイオ州立大の最後の猛攻を凌義、オレゴン大がホームで金星を手に入れたという試合でした。
疑惑のプレー
この試合で話題になったのは、その最後のシークエンス。1点を追うオハイオ州立大はFGさえ決めれば逆転勝利というシーンでした。最後の攻撃権を得たのが試合時間残り2分を切った状態。QBウィル・ハワード(Will Howard)は自陣奥深くでいきなりオレゴン大のマテイヨ・ウイアンガラレイ(Matayo Uiagalelei)にサックを喰らうも、ベテランのWRエメカ・イブカ(Emeka Egbuka)やスーパーフレッシュマンWRジェレマイア・スミス(Jeremiah Smith)へのパスなどで残り時間30秒を切った時点でオレゴン大陣内へ侵入。
(ちなみにこのマテイヨ・ウイアンガラレイはクレムソン大、オレゴン州立大、そして現在フロリダ州立大に所属しているQB D.J.ウイアンガラレイの弟)
なんとかFG圏内に進みたいオハイオ州立大でしたが、残り時間22秒で相手陣内28ヤードまで進んだ彼らはQBハワードからWRスミスへの7ヤードのパスが決まり絶好の位置までボールを運んだかに見えましたが、このプレーでスミスがオフェンシブパスインターフェアレンスの反則を取られ、逆にオレゴン大陣内43ヤードまで罰退。FG圏外に押し戻されてしまいます。
次のプレーでハワードのパスは失敗。この時点でボールはオレゴン大陣内43ヤードでシチュエーションは3rdダウン&25ヤード、残り時間は10秒とオハイオ州立大は窮地に立たされます。しかし残されたタイムアウトは1つ。ミドルレンジのパスを速攻で決めてFG圏内に進み、タイムアウトを取れば長いFGを蹴るだけのチャンスは残されることが予想できました。
そして問題のプレー。ハワードは左サイドのスミスへパスを投げますがこれが相手に阻まれ失敗。これに費やされた時間は4秒。43ヤード地点から運命の4thダウンを迎える・・・かに見えました。
しかしここでイエローフラッグが。というのも、このプレーでオレゴン大はフィールドに12人を配置しており、イリーガルサブスティチューションの反則が取られ、オハイオ州立大は5ヤード前進して3rdダウン&20ヤードという「好機」を迎えました。
ただ、これはスナップ後の反則ですでに過ぎてしまった4秒を取り返すことはできず、オハイオ州立大は6秒以内で点を取らなけらばならないという厳しい状況に陥ります。結局最後のプレーはハワードがスクランブルしてフィールドにスライドしそこでタイムアップとなってオレゴン大がなんとか1点差を守って勝利するという劇的な幕切れになったのでした。
故意のイリーガルサブスティチューション?
試合後、話題となったのはオレゴン大が12人のディフェンダーをフィールドに残したイリーガルサブスティチューション。あれは故意だったのか、それともシンプルにオレゴン大側の失態だったのか、ということでした。
あの状況で何が起きたかというと、オレゴン大の反則のせいでオハイオ州立大は貴重な4秒を失い、しかも3rdダウン&25ヤードが3rdダウン&20ヤードになっただけで1stダウンを奪えたわけでむなく、事実上反則したはずのオレゴン大に有利に働いた、という状況が生まれたのです。
つまり、オレゴン大はわざと12人をフィールドに送り込んでビッグプレーを防ぎ、さらにプレークロックを削ぎ落とすことに成功した、というわけです。しかもこれは全てルール上許される範囲以内の(イリーガルサブスティチューションの反則は除いて)状況を経た上でのアウトカムだった訳です。
これはイリーガルサブスティチューションの反則がポストスナップ(スナップ後)の反則であり、クロックがリセットされないというルールが生んだ状況だと言えます。もしオレゴン大のダン・レニング(Dan Lanning)監督がこのことを知った上であの状況で12人目の選手をフィールドに残していたとしたら、ルールの穴を見事に突いた奇策だったと言えるのです。
そして実際このことを尋ねられたレニング監督はこのように語っています。
Dan Lanning can’t help but smile and admit that the 12th man on the field was intentional and something they practiced
— Unnecessary Roughness (@UnnecRoughness) October 15, 2024
pic.twitter.com/BKutmGyybs
要約すると、自分たちはさまざまなシチュエーションを考慮することに時間をかけ、その中には滅多に起きないシチュエーションもあるが、今回のシチュエーションは我々が時間をかけて準備していたことであり、それはこの結果を見てもらえれば分かってもらえるでしょう、というような内容でした。
これは暗にわざと12人目をフィールドに残したことを認めているように聞こえます。つまり故意にイリーガルサブスティチューションの反則を犯した、と取れる発言です。
NCAAが即座に対応
この反則の裏をかくループホールですが、確かにこのような状況が生まれるのはそう多くはないとはいえ、追われるチームがわざと反則を犯して追うチームの反撃のチャンスを摘むような裏技があるということが今回のことで明らかになったことは確かです。同じ状況に陥った場合、わざと12人(もしくはそれ以上)をフィールドに送り込む、なんてチームが現れないとも限りません。
そこでNCAA(全米大学体育協会)はシーズン途中ではありますが、このループホールを阻止すつためにルールの改正を行いました。この改正ルールによると、第2Qおよび第4Qの残り時間2分間の間でディフェンスのイリーガルサブスティチューションの反則が取られた場合、オフェンス側はクロックをリセットすることが出来るようになります。このことでディフェンス側は時間を削るだけのためにイリーガルサブスティシューションの反則をわざと犯すことができなくなる訳です。
NCAAがルールを改正することは珍しくありません。しかしそのほとんどはオフシーズンに行われる事例ばかりで、シーズン途中でルールが改正されるのは非常にレアです。背景にはこのループホールが悪用される可能性があるということ、そしてその事を多くのコーチたちがすでに懸念する声が上がっていることが、今回NCAAがルール改正に踏み切る後押しをしたと考えられています。
本当に故意だったのか?
ということで今回のオレゴン大の奇策はNCAAの素早い対応により今回のみのプレーとなりそうです。ただこの事でレニング監督の策士ぶりやあざとさが際立ち、また2位のオハイオ州立大に勝利して結果的にオレゴン大が2位に上昇したことで若干38歳のレニング監督の株は上がったと思われます。
ただ、今回の策が本当に故意だったのか?という声も実はあります。
例えば12人を投入してビッグプレーを阻止することが目的だとされていますが、あの状況でビッグプレーを呼びよこすことが出来るのはナンバーワンターゲットであるWRスミスだったはずです。だとすればオレゴン大はスミスをダブルでカバーするというような方法と取るべきだったと思います。しかし見る限り彼らがそういう策をとっているようには見えませんでした。
また先に紹介したインタビューですが、よくよく聞いてみればハッキリとこの反則のループホールを使ってこの策に打って出た、とは言っていません。さらに彼が出演した「ダン・パトリック・ショー(Dan Patrick Show)」でもこの話題が振られた際にはのらりくらりと話し続けて実際に「故意にやった」とは言いませんでした。
そんなこともあり、あのシークエンスはやっぱりただのオレゴン大の落ち度であり、それがたまたま功を奏したのを棚ぼた的に手柄にしたんじゃないのか、という風に話している声も聞かれました。レニング監督としてはコーチ陣の失態がたまたま結果オーライ的なことになった、というのは格好がつかないと考えたから敢えて奇策という流れに乗ったとか・・・。
とは言っても、今になってはどうだったかなんてわかりません。ひょっとしたら後年レニング監督が回想録なんかを出して真相を語ってくれるかもしれませんが・・・。どちらにしてもオレゴン大のルールを掻い潜ったループホールは彼らに金星をもたらし、NCAAのルール改正があったことで今後2度と同じシチュエーションを拝むことはできなくなるでしょう。
ただルールの穴をついてくるコーチは昔からたくさんいましたし、今後も別のルールのループホールを見つけて活用してくるコーチは出てくるでしょうね。