2017年度シーズン全米17位で出発したフロリダ大は開幕戦でミシガン大に33対17で敗れます。この時はそれなりに戦えるチームだという感じを受けましたがそれは大間違いでした。テネシー大戦では土壇場のヘイルマリーパスが決まって勝利しますが、今季のテネシー大の出来を考えるとこの勝利をひょうかすること評価することはできませんし、その次のケンタッキー大戦は28対27と辛勝。ヴァンダービルト大戦でも38対24と決して相手をねじ伏せるような戦い振りを見せることなく5戦目のルイジアナ州立大戦を迎えます。この試合では16対17と惜しくも敗戦して今季2敗目を喫すると翌週のテキサスA&M大戦も17対19と僅差のゲームを落とし2連敗。すると続くライバル・ジョージア大戦で42対7とコテンパンにやられ、さらにミズーリ大にも45対16とまさかの大敗。4連敗となったフロリダ大はついにジム・マクエルウェイン(Jim McElwein)監督を解雇。臨時監督にディフェンシブコーディネーターだったランディ・シャノン(Randy Shannon、元マイアミ大監督)を据えて残りの3試合に挑みますがこのうち2試合を落とし結果的に4勝7敗で2013年以来となるボウルゲーム不出場となってしまったのでした。
マクエルウェイン元監督
マクエルウェイン監督は2008年から2011年までアラバマ大のオフェンシブコーディネーターを務めその手腕を買われて2012年にコロラド州立大の監督に就任。2014年度シーズンにはコロラド州立大を10勝3敗に導き、当時空きができていたフロリダ大のHCに抜擢されてSECに戻ってきたのです。
就任直後から2年連続SEC東地区を制して10勝4敗(2015年度)、9勝4敗(2016年度)とそれなりの数字を残しはしましたが、西地区のアラバマ大には歯が立たず、また東地区を制することができたのも「三強」と言われてきたうちの他の2校(ジョージア大とテネシー大)が苦戦していたからであり、むしろ棚ぼたで彼らが地区制覇を成し得たと言っても過言ではありませんでした
フロリダ大は未だに1990年代に栄華を誇ったスティーブ・スパリアー(Steve Supurier)元監督、そして2000年代に全米制覇を2度も達成したアーバン・マイヤー(Urban Meyer、現オハイオ州立大HC)監督以降これといった成功を収めることができずに居ます。
スパリアー氏はパスに突出したハイパワーオフェンス、そしてマイヤー監督は巧みなリクルーティングで多くのタレント選手を有して常勝フロリダ大を確立させました。そんな前任者たちと比べるとマクエルウェイン氏は少々物足りない人物でした。もっと言えば2014年シーズン後に彼が次期監督に就任すると決まった時点から、スパリアー氏やマイヤー監督が持っていたカリスマ性というかオーラみたいなものをマクエルウェイン氏に感じることができず、フロリダ大の監督としてイマイチしっくりこない感じが強かったのです。
2017年度シーズンはチームが下降線をたどるだけでなく、マクエルウェイン氏がアンバサダーとなっていたスパリアー氏の助言に耳を貸さないだとか、チームやコーチそしてその家族らが脅迫を受けていると会見で口にし、しかしそれを裏付ける証拠が出てこず体育局長の不信を買うなどフィールド外でもコントロールを失い、遂に大学側はマクエルウェイン氏との関係を絶って方向転換することに決めたわけです 。
圧倒的なオフェンスを擁して強豪校として知られるようになったフロリダ大にとって次期監督にはそのような攻撃スタイルをモットーとする人物を探し出すことが絶対条件でした。そこで真っ先に名前が挙がったのがセントラルフロリダ大のスコット・フロスト(Scott Frost)監督。その卓越したオフェンス眼力で同じフロリダ州内で今季無敗街道まっしぐらだったフロスト監督はフロリダ大のナンバーワンターゲットであったと言われていますが、当時すでに水面下でフロスト監督は母校のネブラスカ大の新監督就任が噂されており、それもあってか彼自身がフロリダ大側との面接を断ったという話にもなりました。
そんな折フロリダ大の体育局長であるスコット・ストリクリン氏はミシシッピ州立大HCのダン・マレン(Dan Mullen)監督に白羽の矢を立てます。
ミシシッピ州立大時代のマレン監督
マレン監督は2005年から2008年までマイヤー監督の下オフェンシブコーディネーターを務め2006年度と2008年度の全米制覇に大きく貢献。またQBティム・ティーボ(Tim Tebow)のハイズマントロフィー獲得の手助けをし、さらに遡ればユタ大時代にはアレックス・スミス(Alex Smith、現カンザスシティチーフス)、そしてミシシッピ州立大時代にはダーク・プレスコット(Dak Prescott、現ダラスカウボーイズ)を指導するなどQB育成に非常に長けた人物でした。
フロリダ大でOCを務めて居た頃のマレン監督
ミシシッピ州立大ではSECで鳴かず飛ばずだったチームを常に戦えるチームに育て上げ、9シーズン中初年度以外で全て勝ち越しシーズンを送り、2014年度には10勝3敗でオレンジボウルにも出場。またこの年は前述のプレスコットを擁して開幕後9連勝を飾り、10月にはチーム史上初となる全米1位にランクされるまでに至りました 。強豪ひしめくSEC、特に西地区においてこれをやってのけたマレン監督のコーチング力を疑う人は居ないでしょう。
全米中で監督の席に空きができるたびマレン監督の名前が飛び交ってきましたが、彼はミシシッピ州立大を9シーズンも率いることになります。何もなかったこのチームを地道なリクルーティングでここまで育て上げたマレン監督にとってミシシッピ州立大は居心地が良かったに違いありません。全米中どこを探してもミシシッピ州立大がナショナルチャンピオンになるとは思っていない(チーム関係者を除いて)でしょうから、その他の大御所チームのように巨大なプレッシャーを受けながらコーチングすることもなかったのです。彼が望むのならばおそらく長期政権を築きミシシッピ州立大のレジェンドになれる可能性だってあったことでしょう。
しかしその安寧の日々を棄て、敢えて茨の道を進む決断をしたわけです。
HC就任会見時のマレン監督
マレン監督が2009年にフロリダ大を出てミシシッピ州立大の監督に就任したのは、HCという職につくためだけではなく当時のフロリダ大体育局長ジェレミー・フォリー氏との関係がうまくいかなかったからだとも言われています。しかし現在のフロリダ大体育局長、ストリクリン氏は実は2010年から2016年までミシシッピ州立大の体育局長だった人物。つまり彼はマレン監督の元上司だったわけです。その彼から誘われたということ、そしてかつての強いフロリダ大を知る男としてマレン監督がフロリダ大の監督に就任することは至って自然な流れだったとも言えます。
SEC東地区はここ数年下火で西地区チームに押され気味でした。しかしご存知の通り2年目のカービー・スマート(Kirby Smart)監督率いるジョージア大は今年プレーオフ進出を決めるまでに成長し、テネシー大もつい先日アラバマ大のディフェンシブコーディネーター、ジェレミー・プルイット(Jeremy Pruitt)氏を新監督に任命しました。マレン監督率いるフロリダ大が復活するのも時間の問題でしょうし、東地区の覇権争いが大変面白くなりそうです。