毎年4月に行われるドラフト会議では各プロチームが未来ある若い選手をチームに補充するチャンスを与えてくれます。その中でもルーキーとして一年目からチームに貢献する選手やそうでない選手、中には飛んだ期待外れとなる「バスト」たちと様々です。そんなギャンブル的な側面をもつドラフトで、それぞれのチームが自身の威信をかけて第1巡目から7巡目まで相手チームと競いながら選手を指名していくのです。
ドラフトの形式はNFLチームの数及びスポーツとしての認知度が増えていく中で変化してきました。花形スターに成長する事を期待してカレッジを卒業したルーキーを指名したり、指名権のトレードを行ったりする過程でドラフト自体のルールもリーグ全体のバランスを保つために様相を変えてきました。
どのチームが真っ先にナンバーワン選手を指名できるのか?どの選手がドラフト入りすることができるのか?指名の順番が回ってきてから指名権を行使するまでどれだけ時間があるのか?ドラフトにも様々なルールが設けられています。
ドラフト入り資格
選手がドラフト入りするには高校を出てから少なくとも3年間は経っていなければいけません。そして大学生選手は大学でのプレー資格を使い切らなければドラフト入りする事は出来ません。そうでない選手、例えば大学3年生で卒業はしていないが高校卒業以来3年間という規定は満たしている選手、もしくは単位は全て取得して学位を取得(=卒業)したもののプレー資格はまだ残っている選手のなかで、早期ドラフト入り(アーリーエントリー)したい選手らはリーグからの許可が得られればドラフト入りすることが出来ます。
そしてドラフト入り出来るのは大学でのプレー資格を終えた直後の年のドラフトのみとなります。つまりその年にドラフトされなかったからと言ってその後も毎年ドラフト入りする事は出来ないのです。
ドラフトまでにリーグ側は候補選手達全てのドラフト入り資格を確認しなければなりません。2016年度のドラフトでは候補者が3000人もいたといいますから、これを調べ上げるのはかなりの時間がかかります。リーグは大学の母体であるNCAAと協力してこの作業を進めます。
アーリーエントリーの締め切りは1月中旬となっています。早期ドラフト入りを考えている選手はこの日までに正式にドラフト入りするかどうか決定しなければなりません。2016年のドラフトでは107選手のアーリーエントリーが確認されましたがこのうち96人は卒業を待たずにドラフト入りを宣言。残りの11人はプレー資格はまだ残っているものの既に卒業して学位を取得した選手達でした。
ドラフト入りするかどうかは当人がどれだけの評価を得ているかによって簡単な決断だったり非常に難しい決断であったりします。例えば誰の目からも明らかにドラフトされるようなスタープレーヤーならば安心してドラフト入りを表明出来ますが、そうでない選手はドラフトされなかった事も視野に入れなければならなくなります。なぜならドラフト入りを正式に表明してしまえばその時点でカレッジでのプレー資格は失われ、そうなるとドラフト入りを表明してもどのチームからも指名を受けなかった場合、その選手は大学にも戻れずその時点で路頭に迷ってしまうからです。
ドラフト入りしたのにドラフトされないと言う悲劇を回避するため、選手は自分がドラフト入りした場合どのぐらいの確率でドラフトされるかをリーグに相談することが出来るようになりました。これはドラフト入りしてもボーダーラインにいる選手にドラフト入りを思いとどませるきっかけを与えてくれるようになったのです。ドラフトされずにカレッジでのプレー資格も失うよりは、もう1年大学に留まりさらに腕を磨いてドラフト入りしたほうが指名される確率が増える場合も大いにあります。
ドラフト入りを正式に表明すれば晴れて選手はエージェントを雇うことが出来ます。リーグは大学チームやエージェントらと連絡を密にして選手のドラフトに際しての指導を行い、後に行われるプロデー(Pro Day=スカウトが大学施設に赴いて選手の査定を行う事)やチーム独自のセッションを行う上でのルールを説明していきます。
下準備をしっかりと行う事でドラフトがスムースに行くようにリーグ側は選手のドラフト入り資格を事細かに調べ尽くすのです。
ドラフトの順番
2017年現在、基本的に全32チームには7つの指名権が設けられています。これを第1巡目から第7巡目までに行使していくわけです。かつては多い時で第30巡目まで存在したこともありましたが、現在は7ラウンドで落ち着いています。
ドラフトの順番は簡単で前年度の総合順位の最下位チームから徐々に選手を指名していくことになります。トレードなどで順番を取り替えるなどしない限り、前年度の最弱チームが一番最初に目玉選手を指名できることになるのです。そして一番最後の32番目は当然前年度のスーパーボウルの覇者チームになります。
まずプレーオフに進出が叶わなかったチームで1番から20番を決定します。前述の通りこの順番は前年度のレギュラーシーズン終了時の順位を元にして決められます。最下位が第1巡目、そしてこの20チームの中でベストレコードを持つチームが20番目ということになります。
そしてプレーオフに進出した12チームが残りの21番目から32番目を決めますが、この順番はレギュラーシーズンの結果ではなくプレーオフの成績順になります。
ワイルドカードで敗退した4チームが21番目から24番目の指名権を得ますが、この順番はこの4チーム内のレギュラーシーズン中の戦績を元に決められます。そして同じようにディビジョンタイトルゲームで敗退したチームがレギュラーシーズンの成績順に25番目から28番目を埋めていきます。残りの4チームも決め方は同様です。スーパーボウルでの敗者が31番目、そして勝者が32番目となります。
もし順番を決める上で同じ成績のチームが複数いたとすれば、タイブレーカーとして「ストレングスオブスケジュール」、つまりどっちのチームのスケジュールが厳しかったかで順番を決定します。これは各々のチームの対戦相手の勝率を元に換算されますが、この数字が低いチームの方が先に指名権を与えられることになります。
そしてさらにこの「ストレングスオブスケジュール」の数字も全く同じな場合には、両チームが対戦したチームの中で被っているチームとの勝敗が用いられます。この場合は勝敗数で劣っている方が先に指名権を与えられます。
それでもタイブレークが必要となった場合は最終的にコイントスで決定されます。
ドラフト当日の流れ
現行(2017年現在)のドラフトは4月の中盤から後半に掛けて3日間(木曜日、金曜日、土曜日)に渡り行われます。
木曜日は開幕日として第1巡目のみ、プライムタイムである米東部時間夜8時から開始されます。この日だけ各チームに与えられた指名権行使の時間は10分。第2巡目と3巡目は金曜日に行われ、残りのラウンドは全て土曜日に行われます。第2巡目の指名権行使の制限時間は7分、第3巡目から6巡目までは5分、そして最後の第7巡目の制限時間は4分に定められています。もし順番が回ってきたにもかかわらず時間内に指名権を行使出来なかった場合には後回しにされますが、もちろんその場合には自分が指名しようとしていた選手を後続のチームに奪われる可能性が出る訳で、間違ってもそんなミスは犯してはいけないわけです(とはいえ実際にそんなことをしてしまったチームが過去にはあったのですが)。
ドラフト会場では各チームがそれぞれブースに分かれて最前線を張ります。ここを拠点に別の部屋に陣取っている上役勢と常時コンタクトをとり作戦を練るのです。そして自分たちの順番が回ってきてどの選手を指名するかを決めると会場のブースにて選手の名前、出身校、ポジションをカードに記名し「ランナー」と呼ばれるリーグ関係者に渡します(おそらく各チームのブースとステージを行ったり来たりする為に「ランナー」と呼ばれるのでしょう)。
この「ランナー」にカードが手渡された時点でそのチームの指名はファイナルとなり、指名選手を変更する事は許されません。そしてカードが渡された時点から次のチームの指名権の持ち時間がスタートします。「ランナー」はカードを渡された後にすぐに指名された選手を確認するとその情報をトランシーバーでリーグの関係者に通達。その一方で次の順番のチームには別の「ランナー」がすぐさま誰が指名されたかを連絡。間髪入れずに次の指名選手の調整に入ります。そしてリーグ関係者に渡された情報はすぐさまデータベースにインプットされ、残りのチームはどの選手が指名されたかを知ることができます。
テレビを見ているとカードがリーグ側に渡されてからステージに選手が表れるまでは結構な時間がありますが、実際はカードが「ランナー」に渡された瞬間に前のチームがどの選手を選択したのかという情報はすぐさま各チームに行き届きます。つまりテレビで発表されるより前に既にどのチームが誰を指名されたのか分かっていることになります。
リーグ関係者が指名選手をデータベースに入力し終わるとその情報はコミッショナー、テレビ中継しているメディア、その他の情報ソースに伝達されます。そして我々ファンはテレビやその他のメディアを通してチームがどの選手を指名したのか知ることになるのです。
トレード
それぞれのチームに指名権の順番がやってくると、それをドラフト候補選手の指名に使用するか、ドラフト指名権のトレード(チーム間の交渉でドラフト指名順を取り替えること)に使用するかどうかは各チームの判断に任されます。トレードの話し合いは自分たちの制限時間内だけでなくその以前から(ドラフト日以前でも)行うことができます。
指名権のトレードの交渉がうまくいった場合、その事実を関係チームはリーグ関係者に正式に申請しなければなりません。現場にはそれ専用の電話が設置されています。当然ながら両チームが同一情報を伝えないとこのトレードは不成立となります。
補填ドラフト権
NFLと選手組合間で交わされた包括的労働協約(Collective Bargaining Agreement)によるとリーグ側は最大32選手を「補填ドラフト(Compensatory Draft Pick)」として指名することができます。これは有能な選手をフリーエージェントで失ったチームに与えられるドラフト指名権で第3巡から第7巡の間に与えられる権利です。
どのフリーエージェント選手が補填ドラフトの対象になるかはその選手のサラリー、試合出場時間、プロボウルに選ばれたかどうか、などを加味した特別な算出方法があるらしいのですが、実際の方法は口外されていません。
流失したフリーエージェント選手と新たに加えられたフリーエージェント選手のそれぞれの価値を計算し、補填が必要と認められればそのチームに補填ドラフト権が与えられます(最大4つまで)。ただオフシーズンに失ったフリーエージェントの数よりも多くフリーエージェント選手を獲得した場合には補填ドラフト権は与えられません。そして補填ドラフト権はトレードに使用することはできません。
例えば、年収400万ドルの選手をチームがフリーエージェントで失うとすると、このチームには第3巡目か4巡目の補填ドラフト権が与えられ、年収100万ドルの選手をチームが失えば第6巡目か7巡目の補填ドラフト権を与えられる。分かりやすく言うとこんな感じです(分かりやすいかな?)。
サプリメンタルドラフト
サプリメンタルドラフトとは、何らかの理由でドラフト入りの宣言が締め切り日までに間に合わなかった選手や、フィールド内外での問題で大学チームを追われた選手、もしくはドラフト入りを表明していなかったものの、ドラフト後に自分のステータスが変わってドラフト資格を後日手に入れた選手などを対象にして行われるものです。サプリメント(補足)という言葉からも分かるようにあくまでもメインのドラフトに漏れた特別な理由を持った選手のみがこの資格を与えられる為、サプリメンタルドラフト入りする為にわざと本番のドラフトをスキップする事はできません。
サプリメンタルドラフトには必ずしも全チームが参加しなければならない訳ではありません。7月に行われるこのサプリメンタルドラフトですが、この候補選手達(大抵一人か二人です)をドラフトしたいチームはその選手を何巡目で指名するかをリーグに指定します。もし他に誰もこの選手に興味を示さない場合にはそのチームがこの選手を獲得出来ますが、次年のドラフトで指定したラウンドでの指名権を失うことになります。もし複数チームが興味を示した場合にはその中でも最も高いラウンドを指定したチームが獲得することになります。
1977年から導入されたこのサプリメントドラフトではこれまで43選手が選ばれましたが、この中でプロボウラーとなったのは全部で8人、さらに殿堂入りを果たしたのはクリス・カーター(Chris Carter:1987年フィラデルフィアイーグルス、オハイオ州立大出身)氏のただ一人のみ。最近では2012年に元ベイラー大のWR、ジョシュ・ゴードン(Josh Gordon:クリーブランドブラウンズ)がプロボウラーとして活躍しているのが記憶に新しいです。因みに2016年には6選手がサプリメントドラフト入りを表明していましたが、誰一人としてドラフト指名されることはありませんでした(そのうち二人は後日フリーエージェントとして契約)。
まとめ
1936年以来大学からプロ入りする為のプロセスは大きく変わりました。スポーツとしてのフットボールが大きなビジネスとして成功する中、リーグ内の公平性を保つため様々なルールが制定され、エンターテイメントとしてもしっかりと確立したスポーツとなるよう全32チームに平等に選手が行き届くように考慮されています(理論的には)。
ドラフトで成功すればそれは将来への投資としてフランチャイズが飛躍する土壌となります。もちろんどのチームも自分たちのニーズに合わせてその時点で最高の選手を指名するよう試行錯誤するのですが、それがバッチリ当たりその選手が殿堂入りすることもあれば、大金と労力をはたいてトップ順位で指名した選手が鳴かず飛ばずだったというケースも多いです(むしろこっちの方が常だったりする)。
リーグの規模が大きくなりドラフトへの需要もこれまで以上に高まる中、今後もドラフトのルールが変わっていく可能性は十分あると思われます。