今年のドラフトも3日間の工程を無事終了。1巡目から7巡目までの指名合戦が幕を閉じまずは一息といったところですが、7巡目が終わって間髪入れず今度はドラフトに漏れた選手たちのドラフト外フリーエージェント(UDFA)契約の動きが始まっています。
ドラフトされたからと言ってすべての選手たちが実際に最終的な53人ロースター入り出来るまで生き残れるかと言ったらそんな保証は何処にもありません。UDFAで契約にこぎつけた選手にしてみればチームの一員として無事にシーズンを迎えられる確率というのはさらに減るわけです。
それでも子供の頃から夢にまで見たNFLの大舞台に立つべく、ドラフトされた選手もUDFAで僅かな望みを手にしようとしている選手たちもこれからの数ヶ月を過ごしていくわけです。
そんな様々な人達の思いが詰まったドラフトでしたが、今回は今年のドラフトをカレッジフットボールファンの目線で振り返ってみたいと思います。
目次
今年の総合ドライチ選手は・・・
ドラフトで最も注目されるのはやはり第1巡目総合第1番目に指名を受ける「ドライチ」選手だと思います。その輝かしい称号を今年手に入れたのはアラバマ大のQBブライス・ヤング(Bryce Young)でした。
アラバマ大出身選手が総合ドライチで指名を受けるのは史上3人目。ヤングの前にドライチとなったアラバマ大出身選手は1965年のドラフトでニューヨークジェッツから指名を受けた、かの有名なQBジョー・ネイマス(Joe Namath)氏でした。ということでヤングはそのネイマス氏以来58年ぶりの快挙を成し遂げたわけです。
ちなみに過去9年のドラフトでドライチとなった選手のうち、実に7人の選手がカレッジ時代にプレーオフに進出しているのだとか。
- ブライス・ヤング(アラバマ大)
- トレヴォン・ウォーカー(ジョージア大)
- トレヴァー・ローレンス(クレムソン大)
- ジョー・バロウ(ルイジアナ州立大)
- カイラー・マレー(オクラホマ大)
- ベーカー・メイフィールド(オクラホマ大)
- ジェーミス・ウィンストン(フロリダ州立大)
このようにドライチ選手のプレーオフ進出の確率が高いのですが、これを逆手に取ると来年ドライチでプロ入りしそうな選手が所属している大学がプレーオフに進出する可能性が高いともいえそうです・・・。
3日間の全行程を終えて・・・
出身大学別ドラフト選手数
今ドラフトでは3日間で259人もの選手が夢への切符を手に入れたわけですが、まずは出身大学ごとの指名選手数をちょっと見てみましょう。
No. | チーム | R1 | R2 | R3 | R4 | R5 | R6 | R7 | 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
T1 | アラバマ大 | 3 | 1 | 4 | 0 | 1 | 0 | 1 | 10 | |
T1 | ジョージア大 | 3 | 0 | 1 | 2 | 3 | 0 | 1 | 10 | |
3 | ミシガン大 | 1 | 2 | 1 | 0 | 2 | 1 | 2 | 9 | |
4 | TCU | 1 | 1 | 1 | 2 | 0 | 2 | 1 | 8 | |
T5 | ペンシルバニア州立大 | 0 | 3 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 6 | |
T5 | クレムソン大 | 2 | 0 | 1 | 0 | 3 | 0 | 0 | 6 | |
T5 | オハイオ州立大 | 3 | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 | 6 | |
T5 | フロリダ大 | 1 | 2 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | 6 | |
T5 | ルイジアナ州立大 | 0 | 1 | 0 | 2 | 1 | 2 | 0 | 6 | |
T5 | ピッツバーグ大 | 1 | 0 | 0 | 1 | 2 | 1 | 1 | 6 | |
T5 | オレゴン大 | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | 2 | 6 | |
T12 | テネシー大 | 1 | 0 | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 | |
T12 | アーバン大 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 5 | |
T12 | サウスカロライナ大 | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 | 2 | 5 | |
T12 | オクラホマ大 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 5 | |
T12 | テキサス大 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 | 5 | |
T12 | メリーランド大 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 1 | 1 | 5 | |
T12 | パデュー大 | 0 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 2 | 5 | |
T12 | スタンフォード大 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 2 | 1 | 5 |
トップを飾ったのはアラバマ大とジョージア大で10選手となりました。
2022年のNFLドラフトで史上最多となる15人をプロへ輩出したジョージア大は5人減となりましたが、2年間のスパンで見ると同一チームから合計25人というのはこれまたドラフト最多記録。つまり2021年度にナショナルタイトルを獲得したジョージア大には将来のプロ選手が25人も揃っていたことになります。
またアラバマ大は総合ドラフト1位でQBのブライス・ヤング、さらには総合3位でEdgeのウィル・アンダーソン・Jr(Will Anderson Jr)が指名を受けて行きました。これによりアラバマ大は15年連続で最低でも1人を第1巡目にてドラフト経由でプロの世界へ送り出していることになりましたが、この連続記録はドラフト史上最長連続記録となります。(それまでのトップはマイアミ大で14年連続)。
このように常勝チームであるためには、選手層の厚さを絶やさないために弛まぬリクルーティングの努力が必要不可欠となってくるわけです。アラバマ大やジョージア大のようなダイナスティ(王朝)を築くためにはNFLに選手が巣立っていったとしても次に控える選手の層が厚いことが求められます。そうなればどんなに多くの選手がドラフトで抜けたとしても次期シーズンにゼロからチームを作り直す必要がなくなるわけです。
ジョージア大とアラバマ大は共にここ数年リクルーティングでも成功していますが、今回のドラフトでそれぞれ10人が抜ける穴をどのように埋めることができるかによって彼らのリクルーティングが本当の意味で機能しているのかどうかが明らかになってくるでしょう。特にアラバマ大は目ぼしい選手が残っているとは言えず、近年稀に見るリビルドな年となるかもしれません。
一方、9人のドラフト選手を生み出したミシガン大ですが、昨年5人だったことを考えるとかなりの成功を見せたということになります。過去2年間ミシガン大は最大のライバル・オハイオ州立大から連勝を奪い、2年連続でCFP(カレッジフットボールプレーオフ)に出場していることを考えると、ロースターの質が確実に上がっていることが如実に浮き出てきます。
そして驚きはテキサスクリスチャン大(TCU)。昨年自身初となるCFP進出を成し遂げたわけですが、開幕時にランクすらされていなかった彼らがそのシンデレラストーリーを演じ続けられたのも、チームに8人ものドラフト選手が所属していたことと無関係ではないはずです。2022年のNFLドラフトで誰一人指名を受けなかったことを考えると尚更のことです。
また、上記のジョージア大、ミシガン大、TCUに加え、6人を輩出したオハイオ州立大の4チームはそれぞれ昨年度のCFPに出場したチームたち。やはりトップを狙えるチームには最上級の選手たちが揃っていることを裏付けていると言えます。
カンファレンス別ドラフト選手数
サウスイースタンカンファレンス(SEC) | 62 | |
Big Tenカンファレンス | 55 | |
アトランティックコーストカンファレンス | 31 | |
Big 12カンファレンス | 31 | |
Pac-12カンファレンス | 27 | |
フットボールチャンピオンシップサブディビジョン(FCS) | 11 | |
アメリカンアスレティックカンファレンス(AAC) | 9 | |
サンベルトカンファレンス | 9 | |
独立校/無所属 | 7 | |
ミッドアメリカンカンファレンス(MAC) | 5 | |
マウンテンウエストカンファレンス(MWC) | 3 | |
カンファレンスUSA | 3 | |
ディビジョン2部 | 1 | |
アイビーリーグ | 1 |
まあここまで読んでいただければこの数字を見ても驚かれないとは思いますが、SEC(サウスイースタンカンファレンス)がここでもトップとなりました。昨年に自身が記録した最多レコード(65)には及びませんでしたが、これでSECが17年連続で最多選手をNFLに輩出したカンファレンスとなったのです。
また前述の通りアラバマ大のヤングが総合ドライチで指名を受けたことにより、SEC出身選手で総合ドライチの称号を手に入れた選手が合計で14人になりましたが、これはカンファレンスごとの記録で見ると最多新記録となりました(次点はPac-12カンファレンスで13人)。こんなところにもSECの凄さが表れています。
2位に甘んじたのがBig Tenカンファレンス。もう長いこと彼らはSECの牙城を崩せずにいますが、ただそれでも昨年17人差あったのが今年は7人と急激にそのギャップを縮めており、この2つのカンファレンスのタレント力の差は一昔前と比べるとさほど変わりがなくなってきていると言えるのかもしれません。
ただ、FBS(フットボールボウルサブディビジョン)の中でも上位カンファレンス群とされる「パワー5」(ACC、Big 12、Big Ten、Pac-12、SEC、ノートルダム大)とそれ以外の「グループオブ5」(AAC、C-USA、MAC、MWC、Sun Belt)の差はやはり著しいです。「パワー5」の合計が209人に対して「グループオブ5」の合計が48人と圧倒的。同じFBS所属でもこの2つのグループの差は比較にもなりません。それだけタレントのレベルが偏っているということです。
名門じゃなくても!
ただそんな中FBSの下部組織とされるFCS(フットボールチャンピオンシップサブディビジョン、旧NCAA1部AA)からは11人、アイビーリーグから1人、さらにNCAA1部よりも下の2部から1人の選手が見事ドラフトを経てプロ入りを果たすことが出来ました。
またその中でも主に黒人学生を受け入れてきた、いわゆるHBCU(Historically Black Colleges and Universities)の一員であるジャクソン州立大からも1人(アイゼア・ボールデン/Isaiah Bolden)が7巡目でニューイングランドペイトリオッツから指名を受けています。
腕さえあれば所属するカンファレンスの強さなど関係ないところも「アメリカンドリーム」を地で行くようで嬉しいですし、下部リーグから参戦する選手には肩入れしてしまいますよね。
実際のところFBS出身でなくてもNFLで大成する選手は少なくありません。例えば・・・
フィル・シムス(Phil Simms):モアヘッド州立大
→ 1979年ドラフト第1巡7番目
カート・ワーナー(Kurt Warner):ノーザンアイオワ大
→ 1994年ドラフト外フリーエージェント
スティーヴ・マクネアー(Steve McNair):アルコーン州立大
→ 1995年ドラフト第1巡3番目
リッチ・ガノン(Rich Gannon):デラウェア大
→ 1987年ドラフト第4巡98番目
トニー・ロモ(Tony Romo):イースタンイリノイ大
→ 2003年ドラフト外フリーエージェント
ロドニー・ハリソン(Rodney Harrison):ウエスタンイリノイ大
→ 1994年ドラフト第5巡145番目
ジェリー・ライス(Jerry Rice):ミシシッピバレー州立大
→ 1985年第1巡16番目
テレル・オーウェンズ(Terrell Owens):テネシー大チャタヌーガ校
→ 1996年第3巡89番目
シャノン・シャープ(Shannon Sharpe)サヴァンナ州立大
→ 1990年ドラフト第7巡192番目
マイケル・ストレイハン(Michael Strahan)テキサスサザン大
→ 1993年第2巡40番目
とこのようにマイナー(失礼!)な大学出身でもやってやれないことはないわけです。ですからランスにしろその他のFBS以外のカンファレンス出身選手たちにはぜひとも周囲をギャフンと言わす活躍をしていただきたいものです。
今年の「Mr. Irrelevant」
今年の総合ドライチ選手は前述の通りアラバマ大のブライス・ヤングでした。そこから順番に各チームが7巡かけて選手を指名していったわけですが、始まりがあれば終あり・・・。今年も最後の最後でギリギリ「拾われた」 選手もいたわけです。
NFLドラフトではその年の最後に指名を受けた選手を「Mr. Irrelevant」と名付けています。「最も注目の薄い選手」とか「最も影響力のない選手」とでも和訳できるでしょうか。
ドラフトされたのにもかかわらずこんな言われようになるのもまた一興ですが、今年の「Mr. Irrelevant」はトレド大出身のDTデシャウン・ジョンソン(Desjuan Johnson)で選択したのはロサンゼルスラムズでした。
1巡目から指名される順番が下がるたびに一般的な評価は落ちていくわけで、極稀に7巡目で指名された選手でも大成する選手はいますが、基本的には7巡目の選手のほうが上の選手よりも生き残る可能性は低くなっていきます。
その7巡目の中でも更に一番最後に滑り込みで選ばれたのが「Mr. Irrelevant」なわけですが、過去最近6年間の「Mr. Irrelevant」が今どうしているかを見てみると・・・。
2017年
チャド・ケリー(Chad Kelly)
ミシシッピ大QB→デンバーブロンコス
クレムソン大を経てミシシッピ大に流れ着いたケリーはここで名を挙げますが2017年度のドラフトでは「Mr. Irrelevant」に。初年度はシーズン前に負った手首の怪我のせいでIR入り。翌年となる2018年にはケイス・キーナム(Case Keenum、元ヒューストン大)のバックアップに指名され、第6週目に試合終了時のスナップを受ける形でNFLデビュー。しかし2019年に不法侵入の疑いが浮上してチームを解雇さてしまいます。その後インディアナポリスコルツに拾われてましたが2020年度シーズン後にリリースされました。
2018年
トレイ・クウィン(Trey Quinn)
サザンメソディスト大WR→ワシントンレッドスキンズ
全米の高校で最多レシーブヤード(6566ヤード)という記録を持っている元サザンメソディスト大のクウィンは「Mr. Irrelevant」としてワシントンレッドスキンズ入り。初年度にはファイナルロースター入りし開幕を迎えるも怪我に悩まされますが、ルーキーとして3試合に出場を果たします。2019年にはさらに試合出場数を伸ばし(12試合)、開幕戦となったフィラデルフィアイーグルス戦でNFLキャリア初となるTDを記録。昨年9月にリリースされるとジャクソンビルジャガーズと契約するもシーズン終盤には練習選手に格下げされ今年初めに解雇。その後デンバーブロンコスと契約を結びますが、現在はNFLではなくUSFL(別のプロリーグ)のミシガンパンサーズに所属しています。
2019年
ケイレブ・ウィルソン(Caleb Wilson)
UCLA TE→アリゾナカーディナルズ
2019年ドラフトの「Mr. Irrelevant」となったウィルソンはその年のファイナルロースターには惜しくも残れず一度リリースされますが練習選手として残留。その年の12月にワシントンレッドスキンズ(元ワシントンフットボールチーム)と契約を結びますが翌年のキャンプ中でロースターに入れず解雇。同じ年にフィラデルフィアイーグルスに拾われ同じように一度解雇されて練習生として復帰。その後もアクティブロースターと練習生を行ったり来たり。現在はフリーエージェント中です。
2020年
テイ・クラウダー(Tae Crowder)
ジョージア大LB→ニューヨークジャイアンツ
2021年のアクティブロースターに生き残ったクラウダーは初戦を怪我で欠場したものの、第6戦目のワシントンフットボールチーム戦ではファンブルリカバーをTDに繋げる活躍。途中再び同じ怪我に悩まされるも第13戦目のシアトルシーホークス戦でQBラッセル・ウィルソン(Russell Wilson、元ウィスコンシン大)にQBサックを食らわし、2022年には8試合に出場してそれなりの数字を残しました。残念ながら終盤に練習生に降格されましたが、のちにピッツバーグスティーラーズと契約して現在もアクティブロースターに名を連ねています。
2021年
グラント・スチュワード(Grant Stuard)
ヒューストン大LB→タンパベイバッカニアーズ
昨年の「Mr. Irrelevant」であるスチュワートは昨年しっかりとルーキー契約4年間を締結するも昨年はインディアナポリスコルツへ移籍。主にスペシャリストとしてプレーしている模様です。
2022年
ブロック・パーディ(Brock Purdy)
アイオワ州立大QB→サンフランシスコ49ers
昨年の「Mr. Irrelevant」であるパーディが所属するサンフランシスコでは開幕当初に先発QBトレイ・ランス(Trey Lance、元ノースダコタ州立大)が怪我で戦線離脱し、彼に取って代わって先発を任されたジミー・ガロポロ(Jimmy Garoppolo、元イースタンイリノイ大)も第13週目に怪我で負傷したことでパーディに出番が回ってきますが、ここでパーディが予想外の活躍を見せチームをプレーオフまで牽引。結局NFC優勝決定戦まで進出しますが、ここで肘を怪我して目立った活躍ができず敗退。試合後には肘の手術を行い現在復帰に向けてリハビリ中です。
結果的に今の所このパーディが「Mr. Irrelevant」の中で最も注目を浴び、チームの勝敗を左右するほどの活躍を見せている選手ということができます。
ちなみに上記の選手のほかに2021年現在で未だに現役を続けている「Mr. Irrelevant」は2009年にドラフトされたキッカーのライアン・スコップ(Ryan Succop、元サウスカロライナ大、タンパベイバッカニアーズ→FA中)のみです。
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