オフェンス
2018年度に向けて最大の焦点となるのは「誰がQBとなるか」ということに尽きると思います。
2016年度と2017年度の絶対的先発QBはジェイレン・ハーツ(Jalen Hurts)でした。2016年度には1年生ながら開幕戦で先発の座を奪うとそこからナショナルタイトルゲームまでチームを引っ張り、最終戦ではクレムソン大に敗れてしまいますが、アラバマ大オフェンスに欠かせない選手であったことは間違いありません。しかし一方で優れた機動力の影で彼のパス能力には疑問符がついていました。
それが2017年度シーズンにも随所に現れ、彼のパサーとしての才能がそれほどでもないレベルであることは周知の事実となっていました。それでもチームは彼の指揮下で勝ち続け、結局先発QBとして26勝2敗という戦績を引っさげて2年連続(チームとしては3年連続)ナショナルタイトルゲームに進出しました。
しかし決勝戦ではジョージア大相手にハーツは何も出来ず、13対0で前半を折り返します。このままではアラバマ大に正気はないと思われたハーフタイムにコーチ人は大きな賭けに出て、1年生のQBトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagovailoa)を投入。ハーツよりもパサーとしての能力に長けたタガヴァイロアによりアラバマ大オフェンスが息を吹き返し、結果オーバータイムの末にジョージア大を倒してナショナルチャンプに輝いたのです。
この試合だけ見てもタガヴァイロアの方がハーツよりもボールを動かせることは明らかで、ジョージア大戦でタガヴァイロアが投入された瞬間からすでに次期シーズンの先発レースが熾烈になることは目に見えていました。春季トレーニングで何か答えが出るかと思われましたが、タガヴァイロアが指を骨折してロクに練習に参加できずハーツとの先発争いはプレシーズンキャンプに持ち越しとなりました。
もっともニック・セイバン(Nick Saban)監督が2018年度シーズンにハーツかタガヴァイロアかどちらか1人のQBに先発を任せるとは限りません。以前にも彼は二人のQBが共存できる可能性もあると話していましたから。しかし同時にこれは非常にセンシティブな状況ともいえます。
過去2年先発の座を守ってきたハーツはいかにパス能力が高くないとしても、彼の機動力とリーダーシップでチームを率いてきたという事実はあります。そして昨シーズン後には彼の父親がもしハーツが先発の座を誰かに譲ることになるならば彼を転校させるとまで発言していました。それが現実のものになるかはわかりませんが、仮にタガヴァイロアで行くと決めたとしても、ハーツほどの選手を他チームに放出するのももったいない話です。
一方でタガヴァイロアは、もしジョージア大との優勝決定戦で出場する機会を与えてもらえなかったら彼もまたシーズン後にアラバマ大から転向していただろうと明かしています。つまりもしこの二人のどちらかを絶対唯一の先発QBに任命した場合、それを逃したほうがアラバマ大を去る可能性があるということなのです。
コーチ陣からしてみればなんとかふたりともチームに残したいところでしょうから、ひょっとしたら今年はアラバマ大では余り見ることのできなかった「ローテーションシステム」を起用する可能性もありそうです。
QBがどうなるかわからない状況ですが、今季のアラバマ大オフェンスの強みは何と言ってもRBです。「今季の」と言いましたが、どちらかというと「今季も」の方が正しい言い方かもしれませんが、ラインを制して地上戦力で物を言わすのが得意のアラバマ大においてRB陣はオフェンスの大黒柱でありますから、ここが強いというのは連覇を目指す彼らにとっては朗報です。
NFL早期ドラフトでボ・スカーボロー(Bo Scarbrough)を失いましたが、4年生のダミアン・ハリス(Damien Harris)、3年生のジョシュ・ジェコブス(Josh Jacobs)、そして2年生となるナジー・ハリス(Najee Harris)が健在。経験豊富なA・ハリス、俊足のジェコブス、そして昨年のチャンピオンシップゲームでサプライズな活躍をしたN・ハリスという層の厚さは全米随一でもあります。
ディフェンス
昨年度の優勝チームからは多くのディフェンス選手がNFLへと巣立っていきました。LBラシャーン・イヴァンズ(Rashaan Evans)、DBロニー・ハリソン(Ronnie Harrison)、DLダショーン・ハンド(Da’Shawn Hand)、DLダロン・ペイン(Da’Ron Payne)、DBリーヴァイ・ワレス(Levi Wallace)という主力が抜けたことになります。これだけ見れば次期シーズンのアラバマ大ディフェンスは穴だらけと予想するのが普通ですが・・・。
しかしアラバマ大のチームづくりは地道なリクルーティングのお陰で毎年「再建(Rebuild)」するのではなく「充填(Reload)」するとよく言われるように、層が厚く次に控える選手たちのレベルが非常に高いのです。
DLリーコン・デーヴィス(Raekwon Davis)、LBアンフェニー・ジェニングス(Anfernee Jennings)、LBマック・ウィルソン(Mack Wilson)、DBデオンテ・トンプソン(Deionte Thompson)といった次世代の選手が自分の出番が来るのを待っています。つい先日LBテレル・ルイス(Terrell Lewis)が膝の前十字靭帯を断裂し再建施術を受けたらしく、彼の今シーズン絶望は確実と見られており、この怪我がどうチームに影響するかは気になるところですが、それでもアラバマ大ディフェンスのレベルが急激に落ちるということはまず考えられません。セイバン監督がディフェンシブコーチであることもこのユニットをトップレベルに維持できている所以ともいえ、彼が健在であれば守備陣がチームの足を引っ張るということはなさそうです。
スケジュール
開幕戦はルイビル大ですが、昨年までこのチームを率いたQBラマー・ジャクソン(Lamar Jackson)がNFL入りを果たしたため、アラバマ大にとってルイビル大は敵ではないでしょう。
そうなると最初の試練は4戦目のテキサスA&M大でしょう。ジンボ・フィッシャー(Jimbo Fisher)監督の初年度となる今年、今のところ彼らがどんなチームに仕上がってくるかは分かりませんが、油断は出来ません。またフィシャー監督はかつてセイバン監督がルイジアナ州立大で指揮を執っていた時のオフェンシブコーディネーターでもあり、ある程度手の内が解っている・・・かもしれません。
注目はライバル・テネシー大との対決。今季からテネシー大は元アラバマ大ディフェンシブコーディネーターのジェレミー・プルイット(Jeremy Pruitt)氏が率いることになっており、フィッシャー監督との対決に続くセイバン監督の「師弟対決」となります。
アウェーのテネシー大戦後には1週間のバイウィーク(試合の無い週)を挟んでルイジアナ州立大と再びアウェーゲーム。そしてその次の週はミシシッピ州立大とのホームゲームを控えます。ミシシッピ州立大は今年から元ペンシルバニア州立大OCジョー・モアヘッド(Joe Morehead)監督が指揮を取りますが、ルイジアナ州立大と合わせてこの2連戦は不確定要素があるとしてもアラバマ大が難なく彼らを仕留めるのではないでしょうか。
そして最終戦はもちろん永遠のライバル・アーバン大との「アイロンボウル」です。昨年はアーバン大戦まで全勝だったアラバマ大がまさかの白星を食らったということもあり、今季はその雪辱を晴らすべく全力を持ってアーバン大をホームで迎え撃つでしょう。
総評
過去10年間で5度も全米制覇を成し遂げているアラバマ大は、他のチームが倒すべき的であることは間違いありません。彼らが凄いのは優勝出来なかったシーズンも最低でもシーズン終盤までは必ずと行っていいほどタイトルレースに絡んできています。
毎年優勝するなんてことは普通なら不可能です。それでもアラバマ大が背負うハードルはいつでも全米制覇であり、それが成し遂げられなければいかにタイトルゲームに進出したとしてもそれは残念なシーズンとみなされてしまう。それが普通となっているところが末恐ろしいです。
多くのスポーツサイトがすでにアラバマ大を優勝候補に挙げています。少なくとも開幕の時点では彼らが全米トップチームであるというのはほぼ全会一致の意見のようです。しかしそれを彼らがシーズンフィナーレまで維持できるのか。2連覇はあり得るのか。そこが焦点になることは確かです。
- 試合予定
*太文字はホームゲーム
- 2017年度戦績
- チーム情報
所在地
アラバマ州タスカルーサ市
所属カンファレンス
SEC(西地区)
ホームスタジアム
ブライアントデニースタジアム
通算戦績
891勝328敗43分け
通算ボウルゲーム戦績
40勝25敗3分け
ヘッドコーチ
ニック・セイバン
127勝20敗(12年目)
218勝62敗1分け(生涯通算)
前回全米優勝年度
2017年度
前回SEC優勝年度
2017年度
前回ボウルゲーム出場年度
2017年度(CFP)
- 最近10年間の戦績