セントラルフロリダ大ミルトンの復帰への道

2017年度、そして2018年度シーズンにて「パワー5」カンファレンス群の弟分とも言える「グループオブ5」カンファレンス群にて名を馳せたのがアメリカンアスレティックカンファレンス(AAC)所属のセントラルフロリダ大です。2017年度は現ネブラスカ大監督のスコット・フロスト(Scott Frost)監督指揮下で完全無敗のパーフェクトシーズンを送り、自称「ナショナルチャンピオン」を語りました。そして昨年度は新監督にジョシュ・ハイペル(Josh Heupel)氏を迎え、再び連勝街道まっしぐら。ボウルゲームではフィエスタボウルで強豪ルイジアナ州立大と対戦し惜しくも黒星を喫して連勝記録を25でストップさせてしまいましたが、彼らがここ2年間でカレッジフットボール界に大いに話題を提供してくれたことは言うまでもありません。

UCFの顔となったミルトン

この強さを生み出したのはフロスト監督の手腕によるところが大きいですが、実際にプレーするのは選手なわけで、彼らの活躍があってこそ現実となった快進撃であったことは確かです。2017年度のチームには片腕のLBシャキーム・グリフィン(Shaquem Griffin)という精神的支えとなる選手もいましたが、ここ2年間のチームの躍進を振り返る時、どうしても外せない選手がいます。QBマッケンジー・ミルトン(McKenzie Milton)です。

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セントラルフロリダ大QBマッケンジー・ミルトン

ハワイ州出身のミルトンは1年生時の2016年度にセントラルフロリダ大の先発QBに任命されるとフロスト監督の操るオフェンスをリーダーとして牽引。2年生時の2017年度には先にも述べたような素晴らしい戦績を残したちチームに大いに貢献。フロスト監督が去った後に危惧されていたオフェンス力の低下もミルトンの活躍でなんとか補い、その年の最優秀選手に送られるハイズマントロフィー候補にも名前が上がったほどでした。

大怪我

そんな中、同じフロリダ州内にありカンファレンスでもライバル関係にあるサウスフロリダ大との試合が行われた昨年11月。相手ディフェンダーからのタックルをくらいフィールド上に倒れ込んだミルトンでしたが、この際膝に重傷を負い医療チームの手ほどきを受けてストレッチャーに固定され近くの病院へと直行するというアクシデントに見舞われました。

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メディカルスタッフに囲まれるミルトン

ビデオで見ただけでもこれは普通じゃないという怪我を膝に受けたミルトン。搬送先の病院で緊急手術を受けましたが、後に彼の怪我が膝の脱臼と膝周辺の血液循環及び神経組織に多大なるダメージを受けたということでした。

場合によっては膝より下を失うかもしれないという危機的状況の中、手術は成功し、膝周りの血液循環も確保されたということで最悪の事態は回避されました。しかしこの時点で彼がアスリートとして再びフィールドに立てるかどうかは誰にもわかりませんでした。

どうにか歩けるようになり、怪我から8日後に病院を退院したミルトンは、先にも述べたフィエスタボウルに出場したチームに同行。元気な姿を見せはしましたが、1月には2ヶ月間で5度目となる膝の手術を受けるなど、まだまだ治療が必要な状況が続いていました。

それから治療そしてリハビリを続けてきたミルトンですが、4月の時点で2019年度シーズンの復帰はないにしても2020年度シーズンでの復帰を視野に入れて日々を過ごしているとメディアとのインタビューで明らかにしました。

実際怪我の度合いからして彼の選手生命が絶たれたと考えても不思議ではありません。普通の生活がおくれるようになることと、フットボールをプレーすることは全く次元の異なる話です。このインタビューの時点で彼は怪我を負った右膝に75パウンドしか体重をかけられないという状況でしたから。

「2020年に再びフィールドに立つのが目標ですが、その時になって自分のコンディションがベストでなければその時は無理をするつもりはありません。どちらにしてもいつの日かまたハイレベルなフットボールをプレーできると信じています。その日が来るまでじっくりと怪我を治していきたい。もし完璧でない状態で戻ってきたとしたらそれは賢い選択とはいえませんから。」とミルトンは話しました。

ミルトンが復帰を諦めないのはもちろん選手としてフットボールを愛しているから、そして夢でもあるNFLの土を踏みたいからにほかありませんが、おそらく彼自身もこの怪我が選手生命を脅かすものだということもわかっていることでしょう。「絶対にフィールドに戻る」という気持ちが長く辛い復帰への道のりを支えているに違いありません。

実際ミルトンは「フットボーラーとしてのキャリアにはいつか終わりが来るものです。自分にとってそれがあのサウスフロリダ大との試合だったのか、もしくはこれから10年後に訪れるものなのかわかりませんが、どちらにしても私が私であることはこの怪我によって変わることはありません。」という発言もしています。

ウィルキンスとの絆

スター選手であろうがなかろうが、ミルトンほどの大怪我を負うことはその当該選手の人生を大きく変えかねません。レアであるにしてもフットボールで首に大怪我を負い下半身不随になってしまう選手もこれまで何人かいましたし、当然そういった選手の生活は永遠にそれまでの「通常」とはかけ離れたものになってしまいます。

そしてそういった怪我につきものなのが、その怪我を誘発してしまった選手の存在です。それが敵であれ味方であれ、大怪我を追わせてしまったという言いようもない罪悪感に長い間悩まされることになるでしょう。

ミルトンの怪我は当然不幸な出来事であり、故意なプレーだったわけではありません。サウスフロリダ大のDBマジィー・ウィルキンス(Mazzi Wilkins)はミルトンにタックルした後うずくまる彼、そしてその膝を見てすぐにミルトンの怪我が普通ではないことを察知し、その場で頭を抱えました。

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激突するミルトンとウィルキンス

ミルトン自身もそのプレーを「ただのフットボールのプレー」だったと回想していますが、それでもセントラフロリダ大のミラクルシーズンに黄色信号が灯ったのは事実で、ミルトンというスタープレーヤーの長期離脱が容易に想像できました。試合後ウィルキンスがロッカールームに戻りソーシャルメディアを覗くとすでに彼に向けられた誹謗中傷の言葉がインターネットに溢れていました。それには人種差別の言葉や殺害予告で溢れていたといいます。

そんな時ウィルキンスにアプローチしてきたのは他でもないミルトン本人だったのです。

ミルトンはウィルキンスにインスタグラムを使ってこうメッセージを送りました。

Hey Mazzi

I have no ill will toward you. Don’t listen to that noise, it’s just stupid. Between you and I, as long as we’re good, it doesn’t matter what other people say.

KZ

「俺は君を恨むような気持ちを持ってはいないよ。周囲の雑音に耳を貸す必要はない。そんなバカげたことはない。君と俺の間に問題がなければ、外野の言うことなんて何も関係ないのだから。」

ウィルキンスは自分のせいでミルトンの選手生命を奪ってしまったのではないかという気持ちと、周りからの誹謗中傷でかなり滅入っていたことでしょう。だから「ミルトンのメッセージは何よりも代えがたいものでした。」とウィルキンスはミルトンに感謝したのです。

それから4ヶ月後、ミルトンはあるイベントのゲストとして招待されました。このイベントでは、様々な分野で活躍する男性をゲストに招き、男を磨くための講演が行われるということで、この時は元プロボクサーのイベンダー・ホリフィールド(Evander Holyfied)もスピーチする予定だったそうです。

そしてこのイベントではミルトンの個人的なサプライズゲストとしてウィルキンスが招待されていたのです。

この日たまたまウィルキンスにテキスト(ショートメール)を送ったミルトンでしたが、ウィルキンスは「今UCFアリーナ(セントラルフロリダ大の所有するアリーナ、このイベントの開催場所)の舞台裏に居るよ」と返信したといいます。実はこの二人、舞台裏の控室で隣同士だったのだそうです。二人が実際に顔を合わせたのは昨年11月の試合以来初めて事でした。

その時のことをウィルキンスはこう回想しています。

「プレーしていると相手選手のことはよくわからないものです。しかしヘルメットを取って見ると相手のことがよく見えてきます。あの時控室で出会った時、私たちはまるで昔からの友達同士のようでした。家族のことや釣りのことなどフットボール以外のことをたくさん語り合いました。」

実はこの日、ミルトンは術後初めて松葉杖なしで歩くことが出来たのです。それをウィルキンスが居る場所で披露できたというのはなんとも神様の粋なはからいと思えて仕方ありません。

復帰への道

ただ現実問題として、最近ようやく松葉杖なしで歩くことが出来た(しかも数歩だけですが)という状況から察することができるように、ミルトンの復帰への道は長く険しいです。というか本当にそれが可能なのかどうかも現時点では正直疑わしいと言わざるを得ません。彼に近い人達の中には復帰を望んでいない人もいます。

驚くべきことにこの規模の怪我を負ったにも関わらず、前十字靭帯(ACL)並びに半月板は無傷だったのだそうです。断裂した内側側副靭帯および後十字靭帯は手術で再建でき、また負傷した膝の動脈もなんとか再建して血液循環を確保したのですが、一番の問題は神経組織の怪我。断裂した神経がもとに戻るには1年以上の時間を要するからです。感覚が戻ってきて初めて本格的なリハビリを始められるとなると、2020年復帰というのも奇跡が起きない限りはスケジュール的にかなりタイトです。

ミルトンの頭のなかでは膝周辺の神経が2020年の1月ごろまでに戻ればリハビリを経て2020年秋のシーズンに復帰出来るかもしれないと考えているようですが、一方で回復の具合は「神のみぞ知る(ミルトン談)」と話しているように、ある程度現実を見据えているミルトンの姿も垣間見
えます。

2019年に4年生となるミルトンは今シーズンにレッドシャツ制度を活用してプレー資格を温存し、そしてもし2020年度シーズンにも間に合わなければNCAAにメディカルレッドシャツの特例を申請する予定だとか。もし2021年に復帰するとなれば、その時ミルトンは24歳になっています。

少なくとも来る2019年度ミルトンの勇姿を見ることは出来ませんが、来年ないし再来年に再びセントラルフロリダ大の背番号「10」がフィールドを暴れまわる姿を見てみたいものです。

参考記事(外部英語リンク)How UCF QB McKenzie Milton Is Shaking Off a Gruesome, Career-Threatening Injury

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