ハイズマントロフィーへの道【Vol.9】

カレッジフットボール界で最も栄誉ある賞とされるハイズマントロフィー。そのシーズンの最高のパフォーマーに贈られる賞ですが、今年度はその最終候補にオクラホマ大QBカイラー・マレー(Kyler Murray)、アラバマ大QBトゥア・タガヴァイロア(Tua Tagovailoa)、オハイオ州立大QBドゥウェイン・ハスキンズ(Dwayne Haskins)の3人が選ばれました。そして本日(12月8日土曜日)にニューヨークで行われる授賞式で栄えある第82代目のハイズマントロフィー受賞者が決定することになります。

このサイトでも毎週トロフィーレースで争う候補者たちを紹介してきましたが、実質今年のレースはマレーとタガヴァイロアの一騎打ちとされています。今回は授賞式を明日に控え、ここまでの彼らの活躍とどちらがトロフィーを手にすることになるかを探ってみたいと思います。

シーズン前半〜中盤まで

シーズン開幕から最有力候補と言われていたのはタガヴァイロアです。当初彼が候補リストに挙がっていることに驚いたことをまだ覚えています。というのも今年2年目のタガヴァイロアは先シーズンはジェイレン・ハーツ(Jalen Hurts)のバックアップQBとして先発出場したことは一度もなかったからです。

昨年度のアラバマ大は多くの試合で前半終了時に試合が決まってしまった展開を送り、途中からタガヴァイロアが出場するということはありました。もちろんその場面で彼の非凡な才能を見ることは出来ましたが、それでも昨年のアラバマ大はハーツのチームでした。

しかしアラバマ大がジョージア大と戦った全米タイトルゲームでハーツが前半絶不調でジョージア大に抑えられると、ニック・セイバン(Nick Saban)監督はこの大舞台でなんと絶対的先発選手だったハーツをベンチに下げ、タガヴァイロアを投入。そして彼のお陰で逆転勝利して全米制覇を成し遂げたのでした。

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その才能は確かなものでしたが、昨年のタガヴァイロアの絶対的なサンプルサイズが小さすぎて、彼が本当にハイズマントロフィー最有力候補たる選手なのか、と疑ったものでした。しかしその疑いの目はすぐに驚きの目に変わっていきます。

アラバマ大所属のQBらしからぬパス能力を持ち、才能あるWRたちのポテンシャルを最大限に活かす事のできるプレーは瞬く間に彼を全米の表舞台へ押し上げていきます。そしてシーズン序盤から「タガヴァイロアvsその他の選手」という構図が出来上がり、シーズンを通して彼が絶対的な最有力候補と言われ続けてきたのです。

そんな中タガヴァイロアと同じく昨年までバックアップQBだったマレーがオクラホマ大で活躍し続けました。彼は昨年のトロフィー受賞者、ベイカー・メイフィールド(Baker Mayfield、現クリーブランドブラウンズ)の後継者として登場し、メイフィールドが抜けたあとのオクラホマ大オフェンスをどう率いていくのかとファンは不安と期待の入り混じった気持ちでシーズンを迎えたことでしょう。

しかしファンの不安などは一瞬で吹き飛びました。マレーもタガヴァイロアと同じくパス能力に秀でたQBですが、タガヴァイロアと違うのは機動力がマレーの方に軍配が上がるということです。タガヴァイロアも人並み以上の機動力を持っていますが、マレーのそれはさらにその上を行くもの。投げても走ってもスコアを量産できるマレーは序盤からタガヴァイロアの対抗馬として注目されてきました。

シーズン終盤

タガヴァイロアの勢いが止まらない中、唯一の不安材料は彼の健康状態でしたが、その予感が的中し、彼はミズーリ大戦で膝を負傷。そしてルイジアナ州立大戦ではその膝を悪化させてしまいます。アラバマ大はその後も勝ち進みますが、彼の膝の具合はその後常につきまとう問題となっていきます。それは毎週強豪ひしめくサウスイースタンカンファレンス(SEC)で勝負していかなければならないアラバマ大のQBとしての宿命だったのかもしれません。

一方のマレーはテキサス大との試合に敗れてチームは1敗を喫しはしますが、個人としては引き続き試合ごとに素晴らしい数字を残しタガヴァイロアとの差を縮めていきます。チームのディフェンスが相手に大量失点を許し続ける中、マレーがその失点以上の得点を重ねて虎の子の1敗を守り続けます。

そして先週のカンファレンスタイトル戦。オクラホマ大は宿敵・テキサス大との再戦となりましたが、この試合でもマレーはパスヤードに3TDという数字を残し見事にリベンジを果たし、Big 12カンファレンスのタイトル4連覇に大きく貢献しました。

対するアラバマ大はジョージア大と対戦。昨年度のナショナルタイトルゲームと同じ顔合わせとなりましたが、この試合でタガヴァイロアは大苦戦。しかも足首を序盤で捻ってパスの精度が落ち、それに加えてジョージア大ディフェンスの激しいチェックに合いこの日彼らしくない2つものINTパスを献上してしまいます。この試合までINTパスの総数が2つだったことを考えるといかに彼がこの試合で手こずっていたかがわかります。

そしてチームがリードを許したまま第4Qには再び足首を負傷し、今度は正真正銘ノックダウン。そのまま負傷退場を余儀なくされました。試合の方はタガヴァイロアのバックアップを務めていたハーツが同点そして逆転のTDを決めて見事にチームを救いアラバマ大が優勝しました。

ハーツの活躍は今季のカレッジフットボールの中でも記憶に残るドラマ仕立てのストーリーとなりましたが、ハイズマントロフィー候補のタガヴァイロアとしてはなんとも痛いシーズンの幕切れとなりました。

ハイズマントロフィーの投票者にとっては先週末のカンファレンス戦が2人を吟味する最後の機会であり、それは2人にとっては最後のオーディションのようなものでした。その舞台で一方は素晴らしいパフォーマンスでライバルに雪辱を果たし、もう一方は怪我だったにせよ途中退場を余儀なくされバックアップに取って代わられる・・・。明暗が別れた週末、そして形勢逆転となった週末となったのです。

二人のプロファイル

カイラー・マレー

今季世間を席巻しているマレーですが、実は彼は開幕前に行われていたMLB(大リーグ)のドラフトでオークランドアスレティクスから第1巡目にドラフトされた野球選手でもあります。そして彼は開幕前からこのシーズンが終わったあとにはアスレチックスに合流するためにフットボールからは引退すると話していました。

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野球部では外野手を務めるマレーですが、そのせいもあり肩の投力は人並み外れています。針に糸を通すような正確なパス、そして走りながらでもレシーバーにボールを届けることが出来る肩力。MLBのドラフトで指名されるわけです。

それは数字にも現れています。全米3位となる年間パスヤード(4053)、40パスTDにたったの7度のINTパス。そしてマレーの武器はそれだけでなく、892ヤードに11TDというランアタックも健在。足でもディフェンスを掻き乱せるというのが他の候補選手と決定的に違うところです。

パスとランを合わせた4945トータルオフェンスヤードは全米最高数。まさに完璧なパッケージと言えるマレーですが、もし彼がトロフィーを獲得することが出来れば、昨年のメイフィールドに続き2年連続オクラホマ大出身の選手が栄えあるトロフィーを手にすることになります。それは2004年にQBマット・ライナート(Matt Leinart)、2005年にRBレジー・ブッシュ(Reggie Bush)という二人のウィナーを輩出したサザンカリフォルニア大以来の偉業となります。

トゥア・タガヴァイロア

開幕から常に注目を浴び、全米1位チームを牽引してきたタガヴァイロア。それをシーズンぶっ通しで維持するのは並大抵のことではありません。そんな中シーズン後半にかけて怪我のことばかりが取り上げられてしまったことがマレーとの勢いと反比例して映ってしまったことは否めません。

しかし注目したいのはシーズン全体での彼のプレー時間です。というのもアラバマ大は強すぎて前半には既に大差がついて試合が決定してしまっているという展開が開幕からシーズン終盤まで続き、そのせいでタガヴァイロアは既に第4Qが始まる前にはバックアップQBに実戦を積ませるという理由でベンチに退いていたのです。その時間を換算すると約9クォーター分。つまり2試合以上分プレー時間が他よりも少ないという計算になります。

これがどのようなことなのかもう少しわかりやすく説明すると、今シーズンタガヴァイロアが第4Qに投げたパスの数はなんとたったの8回。それに比べ彼のバックアップのハーツは第4Qトータルで26度のパスを投げています。

少ないプレー機会についてはタガヴァイロアに何の落ち度もありませんし、強すぎるアラバマ大ならではの現象と言えます。ですからパスヤードの数字やTD数がマレーと比べて少ない(3353パスヤードに37パスTD)のはしょうがないですし、むしろ「もしタガヴァイロアが全シーズン通して全てのクォーターでプレーしていたら・・・」と想像したほうが彼の凄さがもう少しわかるかもしれません。

確かにSEC優勝決定戦でのタガヴァイロアのプレーは際立って並以下でした。しかしシーズン通してみれば彼は特別なプレーヤーでした。特にエフィシェンシー(効率の良さ)という面ではSEC優勝決定戦の前のアーバン大戦までで36TDを奪った傍ら犯したINTパスはたったの2つだったことからもわかります。もっと言えば彼は第9戦目のルイジアナ州立大戦まで一度もINTパスを放らなかったのです。

ポケットが崩れてもあせらずにプレーを決めることが出来る冷静さ、どんなにディフェンスに圧倒されようとビッグプレーを連発できる能力はマレーとくらべても遜色ないものです。

どちらが受賞するのか?

さて、ここまで読んでいただければお分かりいただけると思いますが、大まかにいえば今年のハイズマントロフィーレースは最初から飛ばしたタガヴァイロアが最後の最後でコケたところ、マレーがシーズン通してコンスタントに素晴らしいプレーを見せ続け、最後にタガヴァイロアに追いついた、もしくは追い越した、という構図になっています。

投票者は人間ですから、やはり印象深さというのは大きな比重を占めていると思います。確かにシーズン開幕時から11月に入るまでは世間の声は「タガヴァイロアで決まり」というものでしが。しかし最後の試合で怪我だったにせよジョージア大ディフェンスに翻弄されたタガヴァイロアを見て、同日にテキサス大戦でいつもどおりの肩と足を使ったパフォーマンスで素晴らしい数字を残したマレーでは投票者の印象深さは変わってきてしまいます。やはり昔のことよりも最近のことのほうが覚えているものですし。また勝負どころで力を発揮できたか出来ないのか、というところも選考の理由の一つに考えられるでしょうね。

タガヴァイロアを押したい理由を挙げるとすれば、全米1位のチームのQBとして全勝シーズンの原動力となり、レギュラーシーズン中で見せた正確なパス能力、ポケットでも我慢できる冷静さ、ポケットが崩れてもそこから何かを生み出すことが出来る瞬発力、そういったところが彼の魅力でした。

そして先にも挙げましたが、タガヴァイロアは9クォーター分も試合に出場していません。もし彼がマレーや他の先発QBのようにほぼ全試合で全クォーター出場していればおそらくヤード数やTD数はもっと増えていたことでしょう。総想像することで彼よりも優れた数字を残したマレーと比較することは出来ます。

さらに言えることはタガヴァイロアが対峙してきた多くのSECチームのディフェンスは全米のトップレベルであったということ。そういったチームと毎週やりあって来たことは考慮に入れていいと思います。

タガヴァイロアを押せない理由を挙げるとすればやはり最後のSEC優勝決定戦での出来です。この試合では明らかにジョージア大のディフェンスに悩まされ、判断ミスでボールを手元に持ちすぎてサックされるというシーンが何度も見られましたし、怪我のせいもあったにせよパスの精度は落ちていました。もっともこの試合ではチーム全体がいまいちシャキッとせず、WR陣がボールを取りこぼすという場面が結構見られましたが。それもこれもテキサス大を蹴散らしたマレーの活躍とは正反対の印象を残してしまったことです。

マレーを推す理由は彼のダイナミックなプレースタイル、そしてどんな相手からも点を取り続けるという爆発的な攻撃力です。投力も抜群、またランナーとしてもRB並のヤード数を稼ぎ、まさに完全無欠のQBといえます。

またオクラホマ大のディフェンスが全米全体で見ても全く冴えず(パスディフェンスは130チーム中129位)、毎試合大量失点を続ける中でそれでもオクラホマ大が勝ち続けることが出来たのはひとえにマレーが失点以上の得点を毎回奪うことが出来たからです。その点で言えばマレーのチームへの貢献度は他の追随を許さないものです。普通ならディフェンスありきのチャンピオン獲りが常套手段なのですから。マレーでなかったら今年のオクラホマ大はここまで勝ち星を残せなかったでしょう。

その一方でマレーを押せない理由もあることはあります。それはズバリ彼が対戦してきた相手のディフェンスがタガヴァイロアが対戦してきたディフェンスと比べると格段レベルが下がるということです。オクラホマ大が所属するBig 12カンファレンスはここ最近ディフェンスを無視したオフェンス重視の傾向にあります。それはオクラホマ大自身が証明できると思いますが、その他のチームも決して全米トップクラスのディフェンスとはお世辞にもいえません。

そんなディフェンスをもつチームを切り刻んだとしてもそれは当然のことだ、もしタガヴァイロアが同じ相手と対戦すればおそらくマレー並みの数字を残せたはずだ、という分析もできなくもありません。つまり単純にマレーの数字とタガヴァイロアの数字を比べることは出来ないということです。

今年のハイズマントロフィーレースはいつもよりもさらに僅差のレースとなっています。どちらに転んでもおかしくはありませんが、投票者が生身の人間であることから、その投票者個人にどちらの選手のほうがインパクトを残したのかというのは重要になってくるでしょうね。

投票者は全米中にいる870人のスポーツライター。それに加えて過去のトロフィー受賞者(現在57人。彼らは投票しなくても構いません)。そしてオンラインでのファンの投票。これはオンライン投票でトップに選ばれた選手に1票が入るという仕組みになっています。

果たして今年度のトロフィーは誰の手に・・・?

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