レンフローの「シンデレラストーリー」

クレムソン大の小さなヒーロー、WRハンター・レンフロー(Hunter Renfrow)の「伝説」は約2年前、熱気あふれるカレッジフットボールの世界から遥か遠く離れた場所から始まりました。

当時彼はクレムソン大のスカウトチーム、所謂一軍チームディフェンスの練習相手として日々を過ごしていたのです。

シンデレラストーリーの始まり

その当時レンフローはスカウトチームに甘んじていましたが、彼は持ち前のクイックネスとタフネスで一軍ディフェンスを苦しめたものでした。当時のレンフローをLBベン・ボウルウェア(Ben Boulware)は「奴は次々にパスをキャッチするから俺たちディフェンスがまるでしょぼく見えてしまうんだ」と回想しています。

レンフローの公式メディア記録では身長は5フィート11インチ(約180cm)となっていますが、実際は5フィート9インチ(約175cm)ぐらいだそうです。体重も180パウンド(約81kg)と記されていますが、よっぽどご飯をお腹いっぱい食べでもしなければ180パウンドにも届かないということ。

またフィールド上ではトップスピードが物凄い早いというわけではありません。DBたちを足の速さでまくるとか、タックルをかわすとか、そういう素質を持っているわけでもありませんでした。

しかしそれでも彼はカレッジフットボール界の小さなヒーローになりました。それを不動にしたのは彼のチームが2年連続で出場を果たした2度のナショナルチャンピオンシップゲームです。2015年度と2016年度両シーズンでの頂上決戦でレンフローは小さい体ながらオールアメリカン級の働きを見せたのです。

今年はじめに行われたナショナルチャンピオンシップで彼が試合終了間際に奪ったTDでクレムソン大がアラバマ大から逆転勝利を納めて35年ぶりにナショナルタイトルを獲得したのは記憶に新しいところです。以来レンフローはソーシャルメディアの真っ只中に立たされることになりました。

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当初は名も無い選手だったレンフロー

ハイスクール時代には何処にでもいるような、父親がコーチを務める一介のフットボール部でオプションQBとして活躍したレンフロー。ナショナルタイトルを争うような強豪チームから入部の誘いなど来ることはありませんでした。

そんなレンフローはクレムソン大にウォークオン(非奨学金選手)として入部し、努力の末スカラシップ(スポーツ奨学金)を大学から授与され、そして2015年にチームのスターWRマイク・ウィリアムス(Mike Williams)が怪我で戦線を離脱することでレンフローにチャンスが回ってきます。そしてそれを見事にモノにしてゆくゆくは2015年度のタイトルゲームで自身は大活躍して名前を売ると、2016年度にはチームを勝利に導くTDパスキャッチをやってのけたのです。

自力で入部してきた一介のWRが卒業までにはチームになくてはならない選手になっていた・・・。こんな「シンデレラストーリー」をソーシャルメディアが放っておくわけがないわけです。

「まさか自分でも全てがこんな風になるとは予想だにしませんでした。」とレンフロー自身も昨季のナショナルタイトルの試合後のセンセーションに驚いていますが、驚いているのは彼だけではありません。

レンフローがクレムソン大に入部してきたとき、彼はベンチプレスすらろくに出来ないほどの選手でした。しかしそこから血の滲むような努力を重ねフィジカル的にも強くなり、そして元々持っていたフットボール選手としての本能を持ってして2015年に彼のポテンシャルが花開きます。それを驚きながら間近で見てきたチームメイト達、そしてさらには当時試合に勝ったものの彼に手を焼いたアラバマ大もレンフローの働きに驚かされたものです。そしてもちろん2016年度のリマッチでも最後の最後でアラバマ大はレンフローに泣かされてしまいました。

そしてこれらの活躍をNFLが見逃すわけがありません。

「来る日も来る日も練習に明け暮れて自分の選手としての価値を昇華することに努め、全ての試合で自分の持っているもの全てを出し切る選手。そんな選手がこのリーグでは好まれるのです。」と話すのはあるNFLのスカウトマン。

「アラバマ大ディフェンスには多くのNFL級選手が揃っていますが、その彼らを相手にしてレンフローはあれだけの活躍をして見せました。しかも2年連続でです。彼の活躍は確実にNFLチームの関心を集めました。」と同じスカウトマンは続けます。

自らの力で周囲の評価を変えていったレンフロー

これだけの注目を浴び、クレムソン大では英雄となったレンフローですが、本当の意味でこの凄さを理解できるのはひょっとしたら彼の恩師であるダボ・スウィニー(Dabo Swinney)監督ただ一人かもしれません。スウィニー監督は彼の出身校であるアラバマ大にウォークオンWRとして入部。そして1992年にはチームの一員としてナショナルチャンピオンに輝いているのです。スウィニー監督の恩師・ジーン・スターリングス(Gene Stallings)氏がスウィニー監督にポテンシャルを見出したように、スウィニー監督もまたレンフローに可能性を感じたわけです。それが勝者の直感なのかもしれません。

ただやはりチームメイトにしてみればレンフローのここまでの成長は誰も予測できなかったようです。

彼が入部してきた頃、クレムソン大はすでにスウィニー監督の指揮下強豪の仲間入りを果たしており、彼の周りには全米から集められた精鋭選手ばかりがロッカールームに溢れていました。そんなところに半ば場違い気味にレンフローは飛び込んで行ったのです。

オールアメリカンWRのウィリアムスは当時のレンフローのことを回想して、「こんな奴がチームにいるなんて冗談だろ!って最初は思ったんです。でも一旦練習場に出てみると別人のようだったのを覚えています。奴は本物だと。」と話しました。

劇的な幕切れとなった2016年度のナショナルチャンピオンシップゲーム直後、ロッカールムでウィリアムスは「なぜチームはオールアメリカンでNFL級の君にボールを託さなかったのだろう?」と質問されました。すると彼は迷わずこう答えました。

「あのシチュエーションでベストなプレーヤーを使ったまでです。あのプレーではハンター(レンフロー)がベストオプションだったのです。」と将来を約束されたウィリアムスに言わしめたのです。

ナショナルタイトルゲームで開花した才能

4年前、レンフローはサウスカロライナ州にあるソカスティー(Socastee)高校のトリプルオプションQBとして2年連続全勝レギュラーシーズンを飾りますが、州内のプレーオフで3回戦負けを喫し高校でのプレー生活を終えます。ほどなくFCSレベルのワフォード大シタデル大ファーマン大といったサウスカロライナ州の大学からスカラシップのオファーを受けます。もしQBとしてカレッジでもプレーしたいのであればそれらの大学に進むことも十分あり得たシナリオだったわけです。

しかし元々QBが第1志望ではなかったレンフロー。本当はWRとしてプレーしたかったらしいのですが、高校チームにQBがいなかったためチームのためにQBに徹していた、と彼の父親で高校チームの監督だったティム・レンフロー氏は語っています。

そしてクレムソン大で満を持してWRとしてプレーできるようになったレンフローはまるで水を得た魚のようにメキメキと頭角を表していったのです。特にショートヤードの場面では彼のクイックネスとキャッチ能力がいかんなく発揮され、チームでも欠かせないターゲットになったというわけです。

そして迎えた昨年度のナショナルタイトルゲーム。残り時間は6秒。ボールはアラバマ大陣内2ヤードライン。スウィニー監督就任8年目にして掴んだ2度目のナショナルタイトルの夢はこの元ウォークオンのもやしっ子WRに託されたのです。

「オレンジクラッシュ」とのちに命名されたそのプレー、QBデショーン・ワトソン(Deshaun Watson)が右にロールアウトしながらわずかにフリーとなったレンフローへ放たれたボールは確実に彼の両手に吸い込まれそのままゴールラインを割り、その次の瞬間スタジアムに集まったクレムソン大ファンの大歓声に包まれたのです。

「挑戦者としての私が活躍できたことに多くの人が共感してくれているのは非常にありがたいことです。そしてそういう風に思われることで私はさらに上を目指したいと思えるのです。私がクレムソン大にやってきた時、ウォークオンでいいから入部させてくれと頼みました。サイズがどうこういう人もいますが、自分がプレーできるということを証明できるチャンスが欲しかったのです。」とレンフローは話しました。

実話として、まだレンフローがスカウトチームの一員だった時、練習台であるにもかかわらず一軍ディフェンスが彼にやられまくってしまう状況を見て(スカウトチームはある程度一軍チームにやられなければならないのです)、スカウトチームからレンフローを外すようにスウィニー監督に直訴したという話があります。

「ハンターがすごい選手になるというのは疑問の余地はなかったのです。ただ彼はもっとフィジカルの面で強くならなければならなかった。そしてそれが成された今、彼がどれだけプレーできるかはもう彼の働きを見てくれればわかると思います。」とはQBワトソン。

クレムソン大で必要不可欠な選手に成長

2015年夏、チームが開幕に向けキャンプで汗を流している頃、チームのイベントでサウスカロライナ州にあるキオウィー湖にチーム全体で繰り出しました。そしてチームの全体ミーティングでスウィニー監督はレンフローを呼び出し、そこでレンフローにスカラシップが授与されることが発表されました。

当時、彼は選手として正式に試合に出たことはありませんでしたが、そこから2度のナショナルタイトルゲームでトータル17回の捕球で180レシーブヤード、4つのTD獲得という大活躍をするまでに至ったのです。

「見た目で判断するべきではない、ということをハンターは身をもって証明してくれたのです。」とはスウィニー監督。

もし見た目で判断し続ければきっと相手ディフェンダーは後で彼に痛い目にあうことになるでしょう。といっても、今後もし彼がNFLに進むことができたとしたら、誰も彼を小さいからといってナメるようなことはしないとは思いますが。

彼ならかつてニューイングランドペイトリオッツデンバーブロンコスで活躍したウェス・ウェルカー(Wes Welker)、現ペイトリオッツのダニー・アメンドラ(Danny Amendola)やジュリアン・エデルマン(Julian Edelman)のような小柄ながらそのポテンシャルを最大限に生かして活躍できるWRとなる可能性を秘めている・・・かもしれません。