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カレッジフットボールの光と陰〜早期ドラフト入り選手たちの賭け〜

カレッジフットボールの光と陰〜早期ドラフト入り選手たちの賭け〜

2019年のドラフトも無事終わり、現在はドラフト外フリーエージェント(UDFA)の動向やら、すでに始まったルーキーたちのミニキャンプなどに話は移っており、今ドラフトの分析などもメディアでは一段落ついているように感じます。カレッジフットボール界も春季トレーニングを終え、大学では期末試験やら卒業式やらで大忙し。今後はしばらく静寂の日々が流れそうです。

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ベースボール・マガジン社 (編集)

華やかなドラフトの影で・・・

今回のNFLドラフトでは3日間に渡る盛大なドラフトによって254人のカレッジフットボーラーたちがNFLへの夢の切符を手に入れました。もっともドラフトされたからと言って試合に出れるわけではなく、プレシーズンキャンプのファイナルロースターに残らなければクビを切られる運命にあり、厳しい現実が待ち受けているのも事実。しかしそれでも一生に一度しかないドラフトの余韻に浸るのもまた一興でしょう。

ただ華やかなドラフトの影で期待に胸を抱かせながらどのチームからも指名されずに落ち込んでいる選手たちもまたいるのも事実。特に大学を卒業せずに早期ドラフト入りしたにも関わらずどこからも声がかからなかった選手たちの絶望感といったら想像を絶するものです。

現行のルールでは高校卒業から3年経っていれば大学の学位を取得しなくてもNFLドラフト入りを宣言できます。この制度を利用して毎年多くの2年生並びに3年生達がプロへのドアを叩くわけですが、もし早期ドラフト入りを宣言した場合彼らはその時点で大学でのプレー資格を失ってしまいます。ですから早期ドラフト入りするにはそれなりの実力、そしてそれなりの覚悟が必要なわけです。

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早期ドラフト入りする選手の人数は年々増すばかりです。今年は史上最多となる135人がカレッジでのプレー資格を放棄してプロ入りする早期ドラフト入り宣言をしました。そのうち学位を修得するすることなくドラフト入りした選手は103人にも登ります。この103人のうち、ドラフトに引っかからなかった選手はプロ選手にもなれず、大学に戻ってプレーすることも許されず、おまけに大学の学位も持っていないという非常に宙ぶらりんで不透明な将来だけが待っていることになります。

もしそのような選手がスポーツ奨学金(スカラシップ)に頼らなければ大学の学費を支払えないような家庭出身の場合、チームを退部してしまったためそのような待遇を受けられなくなり、ひょっとしたら大学に戻って学位を修得することも出来なくなるかもしれません。まさにお先真っ暗なわけです。そのような選手たちに一体どんな未来が待っているというのでしょうか。

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なぜ早期ドラフト入りしたがるのか?

早期ドラフト入りを決断させる理由は様々でしょう。例えば今年の総合ドライチ選手となったオクラホマ大出身のカイラー・マレー(Kyler Murray、アリゾナカーディナルズ)や即戦力としての実力ナンバーワンと言われるオハイオ州立大出身のDEニック・ボーサ(Nick Bosa、サンフランシスコ49ers)などの目玉選手はカレッジでやり残したことはないと悟りドラフト入りを決意したのでしょう。ドラフトされればほぼロースター入りを保証されていますから、ドラフトされないという心配をすることもほぼありません。

また家庭の事情で一刻も早くプロで収入を得たいという選手もいるでしょう。今年で言えばルイジアナ州立大出身CBグリーディ・ウィリアムス(Greedy Williams、クリーブランドブラウンズ)は家族を養うために早期ドラフト入りしたと明言していました。

これはよく分かる話です。すでにプロでやれると査定された選手ならばもう1年(ないし2年)カレッジに残ってプレーした結果、とんでもない怪我を負ってしまってドラフトの株を下げればそれだけで契約金の額も下がりますし、選手の将来にも関わってくる可能性があるからです。それを防ぐために「旬」な時期にプロ入りしてしまおうという魂胆です。

上記の理由で早期ドラフト入りするというのはよく理解できる話ですし、何も目新しい理由ではありません。しかし早まってドラフト入りしてしまう理由が他にも挙げられます。

まずは周囲の誤ったアドバイス。リーグに詳しくない人物、または噂に惑わされて「俺はプロでやれる」と誤解もしくは勘違いしてしまう選手がフライング気味に早期プロ入りを決めてしまうというケース。

これに関してはNFLがドラフト入り前にある程度選手を評価してドラフトされるか、されたとしてどのぐらいのラウンドで指名されるかをコンサルトしてくれるというサービスもあります。これにしっかり耳を貸せばある程度正しい決断も下せるのでしょうが、一方で大学に思いとどまるようなアドバイスを受けてもプロ入り思考が強い選手はそれを聞き入れないというケースも多いと予想されます。

そしてその強すぎるプロ入りへの夢が冷静な判断を妨げているんだと思います。高校の時からスーパースターともてはやされ、その頃からプロ入りが運命だと刷り込まれた選手ならば何が何でもプロ入りしなければならないと焦り、それが誤った決断に繋がるというわけです。

さらにはプロ選手の露出が増えてセレブリティー化し、さらには一昔前ならば考えられないような巨額な契約をトッププレーヤーたちが結ぶのを見れば「俺も!」と考える若い選手は増えるに決まっています。当然ながらプロ選手には誰でもなれるわけではなく、カレッジフットボール界でも一握りの選ばれた選手にしか与えられない「特権」だということをちょっと他より優れているという程度の選手は忘れてしまうのです。「自分だってあれぐらいはできる」と過信する選手が増えるという寸法です。

そういった選手のなかで実際に実力が伴っていない選手たちが時期早々に早期ドラフト入りし、結果ドラフトされずに路頭に迷うというケースが増えているというのが考えられる現状です。

今年の場合に関して言えば前述の通り学位を修得せずに早期ドラフト入りした103人のうち32名の選手がどのチームからも声を賭けてもらうことが出来ませんでした。

早期ドラフト入りすべきか否か?

大学でのプレー資格を残したまま早期ドラフト入りする選手の数は増える一方です。2015年には84人だったのが2018年には当時新記録となった119人に、そして今年はそれを遥かに上回る135人にまで増えました。NFLのデータによると2014年から2018年の5年間で早期ドラフト入りした選手の数は459人、そしてそのうちドラフトされなかったのは136人にまで登ります(全体の28.9%)。

プロフットボール選手になることに全身全霊をかけて全てをつぎ込んできた選手がその夢を叶えられず、学位も持っていなかったとしたら彼らにどんな人生が待っていることでしょう。叶わぬ夢を追い求めてカナディアンフットボールリーグ(CFL)やアリーナフットボールリーグ、さらには今年発足して瞬く間に経営破綻に陥ったアライアンスオブアメリカンフットボール(AAF)などを渡り歩く選手もいるでしょう。そうやって夢を見続けて(決して悪いことではありませんが)肉体的にもう続けられないと悟ったときに、ではこのあとどうやって生計を立てるかとなったときにどうしていいかわからないという選手が居ないとは否定できません。

今年で言えばジョージア大のRBイライジャ・ホリフィールド(Elijah Holyfield)がいい例でしょう。あの名ボクサー、イベンダー・ホリフィールド(Evander Holyfield)氏を父に持つイライジャ・ホリフィールドは昨シーズン3年生時にチームメートのデアンドレ・スウィフト(D’Andre Swift)とツートップを組みつつも1018ヤードを足で稼ぎました。その数字は素晴らしいものでしたが、活躍したのは昨年のみという状況でプロ入りを宣言。しかしスカウティングコンバインでの40ヤードダッシュは4.78秒とRBとしては超スロータイムで株を落とし、結果彼はどのチームからも声をかけてもらえませんでした(ドラフト後にドラフト外フリーエージェントとしてカロライナパンサーズと契約を結びはしましたが)。彼はカレッジにもう一年残っていれば経験を積んで来年のドラフトで指名されされ、それなりの契約金を手に入れられていたかもしれません。

逆に4年生シーズンに一気にブレークしてドラフトの株を上げた選手もいます。今年で言えば元ケンタッキー大のLB/DEジョシュ・アレン(Josh Allen、ジャクソンビルジャガーズ)がいい例です。彼は昨季どこからともなく現れ、チームの快進撃とともに彼の名前はドラフトでも一気に急上昇。結果第1巡目、総合7位という好順位でプロ入りを果たしたのです。

とはいえ、早期ドラフトをしておいたほうが良かった選手も確かにいます。その多くは怪我によるものですが、例えばスタンフォード大のRBブライス・ラブ(Byrce Love)。彼は2017年度シーズンに2118ランヤードに18TDと大活躍し、その年のハイズマントロフィーレースでは2位につけるなど健闘しました(獲得したのは元オクラホマ大QBで現クリーブランドブラウンズのベーカー・メイフィールド)。その実力さえあれば2018年のドラフトでかなりいい順位で指名されることも予想されましたが、早期ドラフト入りを回避して2018年度シーズンもスタンフォード大に残留を決意。同じドラフトで目玉とされていた元ペンシルバニア州立大RBセイクワン・バークリー(Saquon Barkley、現ニューヨークジャイアンツ)との競合を避けたかったのかもしれません。

しかし昨年度は絶不調で2017年度シーズンの勇姿は見る影もなく、おまけに最終戦となるカリフォルニア大戦で膝を負傷。後にこれが前十字靭帯(ACL)断裂という大怪我だったことが明らかになり、ドラフトでは第4巡目まで指名を待たなければならなくなりました(ワシントンレッドスキンズが指名)。彼の場合は「旬」だった2017年度シーズン後に早期ドラフト入りしていたほうが良かったといえるかもしれません。結果論でしかありませんが。

セイバン監督の憂い

アラバマ大ニック・セイバン(Nick Saban)監督は増え続ける早期ドラフト入りの傾向に警鐘を鳴らすコメントを最近残しています。

「最近のトレンドではドラフト迎えるにあたり、7巡目程度の評価、ドラフト外(UDFA)という評価、しいてはドラフトで評価すらされていないような選手たちが早期ドラフト入りしています。これによりしっぺ返しを食らうのは他の誰でもない選手自身なのです。例えば早期ドラフト入りした選手が3巡目でドラフトされたとしてその選手がキャンプを生き延びて試合に出場できたとします。しかし3巡目選手のサラリーは決して高額とはいえません。そんな選手がもしもう1年カレッジでプレーして経験と技術を積み結果を残こし、1巡目に指名されることがあれば1500万ドルから1800万ドル(1ドル100円計算で約15億から18億円)の契約金を手にすることも可能なのです。ですからそのような選手が3巡目という格安価格でチームに入団することは選手のエージェント、そしてチームにとっては非常にいいディールなのです。」

かつてマイアミドルフィンズで監督を務めたことのある人物ならではのコメントですが、これが実際にそうなのかどうかは別として彼が言いたかった内容には一理あります。

予防策は?

早まった判断で迂闊にドラフト入りしてしまい思わぬ結果を招く・・・。これを防ぐ手段はあるのでしょうか?

一旦ドラフト入りを宣言した選手の大学でのプレー資格が剥奪されてしまうのは、だれでもかれでもホイホイとドラフト入りしてしまうのを防ぐためであります。今まではこれが抑止力となって確実にドラフトされる保証がない選手たちは早期ドラフト入りを思いとどまってきましたから、それは長い間機能してきたことになります。

しかしこれまで述べてきたようにドラフト入りするタレントの底辺層が広がり、「プレー資格がなくなっても構わない」、もしくは「俺ならドラフトされるはずだ」と高を括る選手が増え結果的にこの抑止力に効力がなくなって来たわけです。

おそらく今後も夢見る若人(古っ!)たちの数は増える一方でしょうから、情報が錯乱するこの時代に冷静に自分のことを判断するのが難しくなっていくことでしょう。

そこで興味深いのはNBA(全米プロバスケットボール)のケースです。NBAではドラフトのプロセスにおいて早期ドラフト入りを宣言した選手がコンバインのあとにドラフト入りを取り消すことができるのです。実際に自分がその年のドラフトでどれくらいの評価を受けているのかを知りその評価に満足しなければ大学に戻ることができ、なおかつプレー資格も取り戻すことが出来ます。

確かにこれならばドラフトのプロセス上で自分が思っていたほどの評価を得られなかったと感じた選手は心変わりをして所属している大学チームに戻り再びプレーをすることも出来ますし、それで更に腕を磨いて次のドラフトに備えることもできるでしょう。また大学に戻ることで学位を習得し卒業することで進路に幅もできることでしょう。

ただこれをフットボールに導入するとなると問題となりそうな可能性として、早期ドラフト入りを宣言する選手の数がおそらく倍増するということです。ドラフト入り宣言することに対するリスクが大幅に減るからです。そしてバスケットボール選手の数に比べてフットボール選手の数は5倍以上あるため、全ての宣言選手に目が行き届かなくなるということも大いに考えられます。

またドラフト入りを宣言するということは戻ってこれたとしても一旦は所属チームを離れると宣言することと同意です。苦楽をともにしてきたチームメートを置き去りにしてプロ入りを宣言しながらやっぱりやめたと戻ってきた選手をすんなり受け入れられない在校選手もいないとも限りません。「一度はチームを裏切って去っていった奴」というレッテルを貼られかねないのです。

どちらにしても絶対的にドラフトされると世間から認知されていない選手たちにとって早期ドラフト入りすることは大きな賭けといえます。その賭けに勝つか負けるか・・・それはやってみないとわかりませんが、負けた場合のリスクが考えようによっては大きすぎるようにも思えます。特にその数が年々増えていくことには多少の危惧を感じずにはいられません。

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