カレッジバスケのスキャンダルに想うこと

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今週アメリカのスポーツニュースのヘッドラインを飾っているのはNCAA男子バスケットボールのコーチらによるスキャンダルです。その中でも衝撃を与えているのは男子バスケの強豪・ルイビル大を率いているリック・ピティーノ(Rick Pitino)監督がその職を解かれた(形式上はまだ解雇されていませんが、事実上の解雇)というニュースです。そのほかにも全米で複数の大学バスケ部のアシスタントコーチが摘発されるという事態になっています。

コーチらによる汚職事件

この事件の重大さはNCAAの調査の結果ではなく、連邦捜査局(FBI)が実際に動いたということに現れています。つまりNCAAのルールを破ったとかそういった次元の問題ではなく、上記のアシスタントコーチたちが「犯罪」を犯したということです。ピティーノ監督は逮捕された訳ではありませんが、今後の状況次第ではどうなるかはわかりません。

逮捕されたアシスタントコーチらの罪状はリクルーティング上の違反ということになるでしょうが、もっと大きな側面には大企業、エージェント、コーチ、リクルート及びその家族を含めたマネーロンダリング(資金洗浄)という背景があります。

今回の大企業というのはスポーツブランドの大手「アディダス」です。プロバスケットボールにおいて、スター選手がどのブランドのシューズを履くかはそのブランドの行く末に大きく影響するとまで言われています。例えば昨年のNBA覇者であるゴールデンステートウォーリアーズのスター、ステファン・カリー(Stephen Curry)は2013年にナイキからアンダーアーマーに乗り換えましたが、それ以降彼がブレークするとそのおかげでアンダーアーマーの株価が急上昇したという話もあるくらいです。

今回アディダスが行っていたのは、将来有望な高校生バスケプレーヤーに早くから目をつけ彼らが将来的にプロ入りした時にアディダスと専属契約するように仕向けるために、アディダスと用具契約している大学チームのコーチに賄賂を贈りそのプレーヤーをチームに入部させルよう働きかけ、早い段階で青田買いしようとしていたこと。またエージェントも同じように将来有望な選手がプロ入りの際に自分たちと契約するように仕向けるためにチームのコーチに賄賂を贈っていたという事実も判明しています。

ルイビル大とアディダスは共謀してあるトップ選手をチームに入部させるために彼と彼の家族に10万ドル(約1000万円)を極秘に支払ったという疑いがかかっています。考えられない額です。FBIは捜査を継続していくということですから今後もっと似たような犯罪が明らかになってきてもおかしくはありません。

激化するリクルーティングの副産物

大学バスケも大学アメフトと並び全米で注目度が高いスポーツです。と言ってもとどのつまりどちらもアマチュアスポーツであることに変わりはないのですが、ビジネス面での成功と過度に求められる結果ゆえにそれぞれのチームが背負う期待とプレッシャーは年々大きくなるばかりです。チームが成功しなければ大学の収益は下がる、だからチームはそんな監督をすぐにクビにします。そしてクビにされたくないコーチ陣はチームを勝利に導くためにどんな手を使ってでも使うようになる・・・。これがリクルーティングにおける違反の温床です。

大学チームが良いリクルートをチームに加入させるためにルール違反、またはルール違反スレスレのことを行ってきたのは何も最近だけの話ではありません。それはある意味それだけチームの育成にリクルーティングが大きな比重を占めていることを裏付けているのですが、大学バスケの方がアメフトよりもさらにリクルーティングがチームの良し悪しに大きく影響すると言われています。それはなぜか?

簡単に言えばアメフトチームには100人以上の選手が在籍するのに対し、バスケ部にはせいぜい20人程度しか在籍しておらず、プレーできる選手も一度に5人しかいないということだと思います。つまり一人一人がゲームに与える影響力がアメフトチームよりバスケチームの方が格段に大きいということです。

それだけにバスケチームにおいて将来プロで通用するような選手を確保できるか否かはチームが成功する上で最重要課題な訳で、それはカレッジフットボールにおける重要さと比べたらさらに上をいくものです。だからどんな手を使ってでもそのようなレベルの選手を勧誘しようというコーチやチームが現れるわけです。さらに今回のケースで言えばそれに便乗してビジネスにしようとする企業やエージェントがコーチをそそのかしたという構図になっています。

またカレッジフットボールとカレッジバスケの違う面として、フットボール選手は大抵プロ入りするには早くても3年生まで待たなければならないのに対し、バスケ選手は1年生終了時にNBAのドラフト入り出来ると言うことが挙げられます。

カレッジフットボールではどんなにプロで通用すると言われていたとしても、2年から3年間は大学チームに所属しなければなりません。またフィジカルがモノを言うNFLでは若すぎる選手はリーグで活躍できないと言う事実もあります。それはアメフトがコンタクト(ぶつかり合い)が許されているスポーツだからです。

一方バスケットボールは多少のコンタクトはあったとしても相手と相手がフルスピードでぶつかり合うことはまずありません。多少のタフネスがなくても技術がモノを言うスポーツだとも言えます。だから元ロサンゼルスレイカーズの名選手であるコビー・ブライアント(Koby Bryant)氏や現クリーブランドブラウンズレブロン・ジェームス(LeBron James)らは高卒でプロ入りしたにもかかわらずすぐにプロで活躍できました。つまり技術があればたとえ大学に進学しても1年で退部してプロ入りすることが可能なわけです。

カレッジバスケ界において「プロ入り出来る選手は大学4年間を全うすることはまずない」と言う事実を踏まえ、大学バスケのコーチたちは1年だけでもいいからチームに来てくれる有望選手を多く掻き集めようと必死になります。それが加熱するリクルーティングに拍車をかけるわけです。

カレッジフットボール界は?

先にも述べたようにリクルーティング選手に金銭を渡していたとか、新車を与えていたとか、そう言ったNCAAの規則違反を犯していたチームはカレッジフットボールでも多くありましたし、形を変えつつも何らかの方法で似たようなリクルーティングにおけるルール違反は今でも行われていることでしょう。しかし今回カレッジバスケ界で逮捕者が出たのはそれを利用しようとしたビジネスマンと賄賂を受け取ってしまったコーチたちの存在が明るみになったからです。

カレッジバスケがNBAの「ファーム」的存在であるように、カレッジフットボールも「NFL予備軍」と捉えられることは多くあります。そしてこのサイトでもリクルーティングがカレッジフットボール界で非常に重要な位置を占めていることはなんども紹介しています。

ただカレッジフットボールの場合はバスケットボールと違い個人数人の能力だけで勝敗が変わると言うことは非常に稀です。5つ星リクルートが多くいれば有利になるとは言え、たとえいなくてもチームはそれなりに強くなると言う側面があるため、そう言った全米でも随一のリクルートをどんな手を使ってでも引き寄せようと言うモチベーションはカレッジバスケチームよりも過激ではないと言えます。

「今回と同じことがカレッジフットボールでも行われているか?」と尋ねられたら100%の自信を持って「ノーだ!」と言い切れませんが、少なくともバスケ界と比べたらその可能性は少ないのではないでしょうか。ただ一つ言えるのは今回の男子バスケ界のスキャンダルで戦々恐々となっている全米中のカレッジバスケチーム並びにフットボールチームが存在するのは確かでしょう。そして今回FBIが立ち上がり「見せしめ」として逮捕者を出したことが、毎年過激度に歯止めがかからないリクルーティング合戦に多少のブレーキをかけてくれることを祈りたいです。リクルーティングがチームを強くする上で必須事項なのはわかりますが、そこばかり注目されていたら実際のゲームを楽しむと言う本質が失われてしまうのではないかと心配してしまうからです。