Coaching Carousel 2017 – テキサスA&M大の場合

テキサス州といえばフラッグシップスクールであるテキサス大がまず最初に頭に浮かぶと思いますが、同州にはその他にもたくさんの強豪校がひしめいています。その中の一つがテキサスA&M大です。

テキサスA&M大は過去に3度全米制覇を成し遂げていますが、最後にタイトルを奪取したのは1939年という事で大分それからは遠ざかっています。それでもカンファレンスタイトルは計18回獲得し、ジャッキー・シェリル(Jackie Sherrill)氏指揮下の80年代に3度(サウスウエストカンファレンス)、 R.C.スロカム(R. C. Slocum)氏指揮下の90年代に4度(1998年はBig 12カンファレンス)リーグチャンピオンに輝いており、その歴史も合わせてテキサス大に負けじと劣らないブランド力を秘めています。

Embed from Getty Images

R.C.スロカム元監督

しかし13年間チームを率いたスロカム氏が2001年シーズン後に引退するとその後10年程際立った活躍を見せることが出来なくなりました。そしてその再建を託されたのが、それまで同じテキサス州内にあるヒューストン大のHCを務めていたケヴィン・サムリン(Kevin Sumlin)氏でした。

テキサスA&M大とオクラホマ大でアシスタントを務め、2008年にヒューストン大監督に抜擢されたサムリン氏は4年目に同チームで12勝1敗という素晴らしい成績を収め、その実績が認められてテキサスA&M大に凱旋してきました。

Embed from Getty Images

ケヴィン・サムリン監督

テキサスA&M大フットボール部史上初の黒人監督となったサムリン氏ですが、彼の初年度となった2012年は奇しくもテキサスA&M大がBig 12カンファレンスからサウスイースタンカンファレンス(SEC)に移籍してから初めてのシーズンでした。この年のテキサスA&M大は旋風を巻き起こし、SEC初年度にも関わらずいきなり史上初めて7000ヤード以上というトータルオフェンスでリーグ新記録を達成。

またこの年先発QBを任された1年生(レッドシャツ)のジョニー・マンゼル(Johnny Manziel)が型破りなパフォーマンスで次々と強敵を倒し、当時全米1位だったアラバマ大をホームで倒す大金星を挙げるにまで至りました。その結果マンゼルは1年生として史上初めてハイズマントロフィーを受賞するまでに至ったのです。

そうやって11勝2敗と華々しくデビューしたサムリン監督は翌年の2013年も同じくマンゼルを率いて9勝4敗と活躍。しかしこのシーズン後マンゼルら主力選手がNFL入りを表明してチームを去ると徐々にオフェンスのプロダクションが下がっていきます。数字の上では2014年から16年まで8勝5敗と決して悪い数字ではなかったものの、カンファレンスではアラバマ大アーバン大ルイジアナ州立大ミシシッピ大といった強豪ぞろいの西地区で存在感が埋もれていき、2012年のようなシーズンを再現することができずにいました。

そうして背水の陣で挑んだ2017年度シーズンは開幕戦のUCLA戦で前半終了時に35点差あったのをひっくり返されて奇跡の逆転負けを喫してしまうという嫌な立ち上がりでしたが、その後4連勝して4勝1敗でホームに全米1位のアラバマ大を迎えました。この試合では彼らは善戦するも27対19で惜しくも敗退。次戦のフロリダ大戦で勝利(と言ってもこの時のフロリダ大は決して強敵という訳ではありませんでしたが)するもその後は6試合中5試合を落とし、7勝5敗でレギュラーシーズンを終えました。

そして噂通り6年間で下降線の一途をたどるサムリン監督に見切りをつけた大学側はレギュラーシーズン後に彼を解雇することを決定。華々しく始まったサムリン体制は初年度を超えることなく終劇となったのでした。

サムリン監督のテキサスA&M大の総合成績は51勝26敗と決して悪い数字ではありませんでしたが、SEC内で全く存在感を出すことができず(最初の2シーズン以外は)リーグ戦績は25勝23敗。もっともこれは大学側が金に目が眩んで(言い過ぎか?)SECという強豪ひしめくカンファレンスに安易に移籍したことにも問題があるような気はしますが。

どちらにしても全米の桧舞台にチームを送り出したい大学側や後援者側にすれば、サムリン監督に任せておいてはそれが達成できないと踏んだ上での決断だったのでしょう。

注目したいのはサムリン監督の右腕として活躍してきたクリフ・キングスバリー(Kliff Kingsbury、現テキサス工科大監督)氏の存在です。ヒューストン大でサムリン監督が名を挙げたのもオフェンシブコーディネーターであったキングスバリー氏の功績に寄るところが大きかったですし、テキサスA&M大1年目の大成功もヒューストン大からサムリン監督に付いてきたキングスバリー氏の手柄と言っても言い過ぎではないかもしれません。

Embed from Getty Images

2012年のハイズマントロフィー授賞式にて。左からキングスバリー氏、マンゼル、サムリン監督

そんなキングスバリー氏は2013年度から母校であるテキサス工科大の監督に就任。以来テキサスA&M大のオフェンスは同じものではなくなってしまったのでした。

兎にも角にもサムリン体制崩壊後早急に新監督を指名したいテキサスA&M大でしたが、シーズンが終わる前からすでにサムリン監督の後任者の名前が世間では出回っていました。それが当時フロリダ州立大で監督を務めていたジンボ・フィッシャー(Jimbo Fisher)監督です。

監督としては2010年から、オフェンシブコーディネーター時代を含めれば2007年度シーズンからフロリダ州立大で過ごしてきたフィッシャー監督。チームのレジェンドであるボビー・バウデン(Bobby Bowden)前監督が現役時代から時期監督の座を約束されていたフィッシャー監督でしたが、フロリダ州立大という大御所の監督に就任したからには解雇でもされない限り自らこのチームを去るなどと誰も予想すらしませんでした。

2013年度シーズンにはハイズマントロフィー受賞QBジェーミス・ウィンストン(Jameis Winston、現タンパベイバッカニアーズ)を擁してナショナルチャンピオンにも輝き、その前後の2012年と2014年合わせて所属するアトランティックコーストカンファレンス(ACC)で三連覇。バウデン体制末期に勢いが落ちかけていたフロリダ州立大を見事復活させたのです。

Embed from Getty Images

2013年度シーズンに全米制覇を成し遂げたフィッシャー監督率いるフロリダ州立大

しかし2015年と2016年は共に10勝を飾るもACCの覇権をクレムソン大に奪われ、そして開幕時に全米3位発進した昨年は先発QBデオンドレ・フランソワ(Deondre Francois)が初戦のアラバマ大戦でシーズンを棒にふる大怪我を負うと彼らの歯車が狂い始めます。結果的にレギュラーシーズン終了時に6勝6敗とバウデン元監督最後の年となった2009年以来の惨敗シーズンとなってしまったのです。

ただこの6勝6敗(最終的にはボウルゲームに勝利して7勝6敗でシーズンを終えます)という期待を大きく裏切った結果があったとしても、これだけでフィッシャー監督がフロリダ州立大から解雇されるとは誰も思ってはいませんでした。しかしフロリダ大とのライバリーゲームが終了した直後にフィッシャー監督は自ら辞任する決断を下したのです。しかもこの時点でレギュラーシーズンはまだ終わっていなかったのにも関わらずです(ハリケーン「イルマ」の影響で延期されていたルイジアナ大モンロー校との試合が翌週に組まれていた)。

フロリダ州立大とフィッシャー監督がうまくいっていなかったという噂はちらほら聞かれました。それはフィッシャー監督の大学側への不満という形で現れていたのですが、要約するとフロリダ州立大が本気でチームを強化しようと思っていないとフィッシャー監督は感じていたということです。特に金銭面で。その影響で近年ではリクルーティングバトルでACCではクレムソン大に破れ、それが徐々にチーム力に現れ始めていたのです。

フロリダ州立大ほどのチームがフットボール部強化のための経済的な支援を渋っているなどということは信じられませんが、そんな折に潤沢な資金源を有しフロリダ州立大よりも歴史的ブランドが高いテキサスA&M大がサムリン監督と決別しフィッシャー監督に触手を伸ばすのではないかという情報がメディアで流れ始めました。

まだシーズンが終わっていないのにも関わらずこのような話が世間を出回り、それがチームの結束や運営に支障をきたすほどまでに至ったことが原因でフィッシャー監督がシーズンが終わっていないのにも関わらずフロリダ州立大を去る決意をしたのだと思われます。フィッシャー監督がフロリダ州立大監督の職から辞任したのが11月26日、そしてその5日後の12月1日にはテキサスA&M大の監督就任が決まったことを考えるとサムリン監督解雇(11月26日)そしてフィッシャー監督起用はほぼ出来レースであったとみて間違い無いでしょう。フロリダ州立大としては解雇ではなく監督が自身の意志でチームを出て行くなんてことは想像もしていなかったことでしょうが、テキサスA&M大としてはこれ以上ない人材をヘッドハントすることに成功したと言えます。

フィッシャー監督のコーチとしての手腕は、ナショナルタイトルを1度獲得したこと、そしてリクルーティングにおいても非常に秀でていることを考えれば、疑う余地はありません。テキサスA&M大にとってSECで勝ち抜くのは簡単ではありませんが、フィッシャー監督というスロカム氏以来のビッグネームを招聘することに成功した未来は明るいと見て間違いありません。テキサス州という土壌、勝ちに飢えている大学関係者、ファン、学生、卒業生、その他諸々のプレッシャーをフィッシャー監督は背負わなければなりませんが、それはフロリダ州立大ですでに経験済みなはずです。

あえてフロリダ州立大という名門を飛び出してテキサスA&M大の監督に就任することを選んだのですから、フィッシャー監督にとってフロリダ州立大での成績を超えなければ全ては失敗とみなされてしまいます。が、もしテキサスA&M大をカンファレンスチャンピオン、さらにはプレーオフ進出まで導くことができれば、フィッシャー監督の名は今後永劫カレッジフットボール界に刻まれることになるでしょうね。