Coaching Carousel 2017 – テネシー大の場合

今季もっとも期待を裏切ったチームにテネシー大が挙げられます。かつては常にナショナルタイトルを争えたチームでしたが、2000年台後半にかけて徐々に失速。2008年には30年近くテネシー大一筋でチームに関わってきたフィリップ・フルマー(Phillip Fulmer)監督を解雇。以来レーン・キフィン(Lane Kiffin、2009年)氏、デレク・ドゥーリー(Derek Dooley、2010年-2012年)を経て2013年に当時シンシナティ大を急速に強くしてカンファレンス覇者に育て上げたブッチ・ジョーンズ(Butch Jones)監督を器用。

しかしリクルーターとして名を馳せていたジョーンズ氏でしたがテネシー大ではそれが結果として現れず、カンファレンスタイトルはおろかSEC東地区を制することもままならない状態でした。そして今季彼が率いたチームはテネシー大の歴史上でも類を見ないほどの低迷をみせ、ついにはケンタッキー大に過去30年間でたったの2度目となる敗戦を喫するなど落ちるところまで落ち、10試合目の対ミズーリ大戦で50対17と大敗すると、とうとう体育局長のジョン・カリー(John Currie)氏はジョーンズ監督解雇という苦渋の決断を下すことになりました。

しかしおそらくこの決断はもっと早い段階で行われるべきでしたが、それがなされなかったのはアドバイザーを務める前述のフルマー氏の「シーズン途中で解雇するな」という助言をカリー氏が守ってきたからに他ありません。いずれにしてもカリー氏はチームを立て直すために早急に腕の立つ監督を探し出さなければなりませんでした。

しかしこのプロセスが本当に酷かった。それこそ2017年度のカレッジフットボールを代表するようなドラマを生み出すくらいのドタバタ劇をテネシー大は演じてしまったのです。そんなテネシー大の新監督任命までの軌跡を辿ってみたいと思います。

ターゲット#1:ジョン・グルーデン氏

まず最初に噂が立ったのは元NFLオークランドレイダース及びタンパベイバッカニアーズの監督で現在NFLのマンデーナイトフットボールの専属解説を務めるジョン・グルーデン(Jon Gruden)氏でした。実は1980年代にグルーデン氏は学生コーチとしてテネシー大に在籍していた過去があり、しかも彼の奥様であるシンディーさんもテネシー大のチアリーダーだったというバックグラウンドもあったため、テネシー大のパイプがあるということでファンはグルーデン氏が新監督に就任することを熱望したのです。

グルーデン氏はコーチングの現場から9年、カレッジフットボール界からは1991年以来25年以上離れており、いかに彼にネームバリューがあるといえどもこれが本当に正しい選択なのかを疑問視するメディアの声は少なくありませんでした。

しかし悪いことにグルーデン氏はマンデーナイトフットボールという唯一無二の天職から離れる気はないと言いながら、一方で「never say never」と万が一の可能性を含むような発言をしてもったいぶったのです。それを真に受けたのかどうかわかりませんが、体育局長のカリー氏は実際グルーデン氏が住むフロリダ州タンパに足を運んだという報道もありました。一方でテネシー大のあるノックスビル市にあるレストランで同大学のレジェンドである元QBペイトン・マニング(Payton Manning)氏とグルーデン氏が一緒に食事をしていたというデマが流れるほど、グルーデン氏がテネシー大の次期監督になるのではないかという報道が加熱していったのです。

ターゲット#2:グレッグ・シアーノ氏

カリー氏が本気でグルーデン氏を現場に復帰させようとしてたのかどうかはわかりませんが、この噂は数日で沈静化します。そしてそのあと関係者の話として現在オハイオ州立大でディフェンシブコーディネーターを務めるグレッグ・シアーノ(Greg Schiano)氏との契約がほぼ済みそうだという情報が流失します。するとこのチョイスを嫌ったテネシー大のファンがヒステリックを起こし出したのです。

シアーノ氏はコーチングの道に足を踏み入れた早期(1990年頃)にペンシルバニア州立大で学生コーチを勤めたことがあったのですが、これに関連して2011年に明るみになった「サンダスキー事件(ペンステートのアシスタントコーチだったジェリー・サンダスキー氏が幼児虐待を行なっていたという事実を隠蔽していたのではないかというスキャンダル)」の関係者であるシアーノ氏はテネシー大監督には相応しくない、というプロテスト(反対運動)が即座に起き、またそれがソーシャルメディアを通じて一気に大ごとになってしまいました。事の大きさにビビったカリー氏はすでにシアーノ氏と契約していたと言われていたののも関わらず契約を破棄してシアーノ氏起用を諦めたという出来事が起きたのです。しかも情報が流れてから1日以内での顛末です。

しかし実際のところシアーノ氏はこのサンダスキー事件を告発した人物とペンステートで一緒にいた時間はなく、彼自身もこの事件への関与を真っ向から否定しており、これはシアーノ氏とサンダスキー事件を結びつけて彼の監督就任を阻止ししようとしたファンの行き過ぎた愚行だったと言わざるを得ません。実際オハイオ州立大もこの疑惑に関するシアーノ氏の身の潔白を慎重な身辺調査で確認したからこそ彼をディフェンシブコーディネーターとして雇用したわけです。それもこれもこの時期コーチング市場でもっともホットだったミシシッピ州立大ダン・マレン(Dan Mullen)監督がライバルであるフロリダ大に掠め取られてしまい、その二番煎じとしてシアーノ氏では物足りないと感じたファンが声を荒げたという見方が濃厚です。

この出来事がすごいのは体育局長であるカリー氏の決断をファンがソーシャルメディアを使って曲げさせたという事実です。カリー氏は後日シアーノ氏のバックグラウンドチェックは十分に行い、自信を持って彼を次期監督に任命する心算であったと話しています。だとしたらたとえファンが反対するような声をあげたとしても体育局の長として断固とした気持ちで自分が決めた人物を監督に起用するべきでした。またカリー氏は彼のボスである大学長にシアーノ氏雇用の許可を得ずに彼と契約書にサインをしたという話も出ています。これでカリー氏のリーダーとしての資質に疑問符がつくようになります。

しかもとばっちりを受けたのはシアーノ氏です。彼はこの事件でさも彼がサンダスキー事件に関わった幼児虐待の犯罪者のように扱われてしまい、彼のブランドはガタ落ち。その後の報道でシアーノ氏への疑惑の目は晴れたように思えますが、少なくとも今後すぐに彼をヘッドコーチに迎え入れようと考える大学はまずいないでしょう。テネシー大の行き過ぎたファンの行動により、シアーノ氏のキャリアに傷がついてしまったわけです。

ターゲット#3:デヴィッド・カットクリフ氏

シアーノ氏を巡る騒動で思わぬ批判を受けて彼との契約に漕ぎ着けることができなかったカリー氏はここから「下手な鉄砲も数打てば当たる」とばかりに様々なビッグネームに手当たり次第声をかけ始めます。

まず彼がコンタクトを取ったのはデューク大デヴィッド・カットクリフ(David Cutcliffe)監督。カットクリフ監督は1982年からフルマー氏の下でテネシー大のアシスタントコーチを長年勤め、1993年からはオフェンシブコーディネーターに昇格してフルマー氏の全盛期を支えてきた名アシスタントコーチでした。その後1998年にミシシッピ大の監督に抜擢され、現ニューヨークジャイアンツで前出のペイトン・マニングの弟であるイーライ・マニング(Eli Manning)を指導するなど活躍。2004年度シーズン後にミシシッピ大を解雇されると2006年から2年間テネシー大に凱旋してオフェンシブコーディネーターを勤めます。そして2008年にデューク大のHCをオファーされ、2度目の監督職につくことになりました。

強き良き時代のテネシー大を知るカットクリフ氏に目をつけるのは至極当然のことでしたが、この時にはすでにテネシー大の監督を巡る騒動はかなり大きくなっており、多くの人物が「こんなチームで監督をしたい人物がいるだろうか?」と疑問を持つようになっていました。おそらくカットクリフ監督もそのうちの一人で、テネシー大のような不安定なチームで毎日必要以上のプレッシャーを受け続けながらコーチングするよりも、今の居心地のいいデューク大での監督業の方が魅力的だとして古巣からのオファーを蹴ったのでしょう。

ターゲット#4:マイク・ガンディ氏

カットクリフ氏から振られたカリー氏はここから遠く離れたオクラホマ州立大マイク・ガンディ(Mike Gundy)氏に触手を伸ばします。とりあえずガンディ氏は話を聞いてくれましたが、結果的に彼はこうツイートしてテネシー大の候補リストから手を引きました。


”私は永遠にカウボーイです” (オクラホマ州立大のマスコットにあやかって)

ターゲット#4:ジェフ・ブローム氏

どんどんオプションが削られていく中、カリー氏が次に目をかけたのがパデュー大ジェフ・ブローム(Jeff Brohm)監督です。2014年から2016年までウエスタンケンタッキー大で監督を務めた30勝10敗という成績を残し、2015年と2016年にはカンファレンスタイトルを獲得しました。その功績が認められて今季からBig Tenカンファレンスのパデュー大を率いています。前監督であるダレル・ヘイゼル(Darrell Hazell)氏が4シーズンで9勝29敗と散々だったところ、ブローム監督は初年度に6勝6敗とし今月末に出場するフォスターファームスボウルアリゾナ大に勝利できれば2011年以来の勝ち越しシーズンも可能であり、その手腕は確かです。

そんな彼に触手を伸ばしたテネシー大でしたが、ブローム監督にも振られてしまいます。おそらくここまでの経緯を見たブローム監督が騒動に巻き込まれまいと手を引いたと見るのが無難ではないでしょうか。

ターゲット#5:ジム・ボブ・クーター氏

ここまでくるとやけくそ感も否めませんが、カリー氏が次にアプローチをかけようとしたのがNFLデトロイトライオンズのオフェンシブコーディネーターで元テネシー大選手であるジム・ボブ・クーター(Jim Bob Cooter)氏に話を持ちかけようとしますが、クーター氏はカリー氏と話し合いのテーブルに着くことすら拒否。ここまでくるとテネシー大のポジションはみんなが触りたがらない腫れ物扱いになってきます。

ターゲット#6:デイヴ・ドーレン氏

次に名前が挙げられたのは今季周囲を驚かす活躍を続けたノースカロライナ州立大デイヴ・ドーレン(Dave Doeren)監督。しかし今度はシアーノ氏の時と同じようにもしドーレン氏を時期監督に決定するならばシーズンチケットをキャンセルするというファンの声がソーシャルメディアで高まり、この結果かどうかわかりませんが、ドーレン監督とのインタビューの話もおじゃんになりました。

ターゲット#7:マイク・リーチ氏

この時にはすでにテネシー大の監督探しは全米中のヘッドラインを飾る恥話になっていましたが、だからと言ってサーチをやめるわけにはいかず、カリー氏の目は遠く東海岸へ向きワシントン州立大マイク・リーチ(Mike Leach)監督をロックオンします。実際カリー氏は東海岸まで飛び実際にリーチ監督と話を交わしたそうですが、実はこの時水面下ですでに大学側では別の動きが。大学の上層部からリーチ監督と契約を結ばずに帰ってこいと言われたカリー氏に待っていたのが・・・。

カリー氏解雇

ワシントン州立大のリーチ監督とあと少しで契約というところで帰還命令を受けたカリー氏はキャンパスに戻ってきたその日のうちに体育局長の職を解かれてしまいます。シアーノ氏との騒動からあっというまに体育局のトップのクビが飛ぶというとんでもない展開を迎えたのでした。そして就任してまだ1年も経たないカリー氏の後を継いだのが他でもないフルマー氏でした。

ターゲット#8:SECの3DC

先週(12月5日)ニューヨークでナショナルフットボールファンデーションのレセプションがありました。これは全米中のヘッドコーチや体育局長、さらにはかつてのレジェンドなどが勢ぞろいする、豪華絢爛な集まりですが、フルマー氏もこのパーティーに参戦。その目的は次期監督候補と面接を行うためです。ここで会合したとされるのは、アラバマ大のディフェンシブコーディネーター、ジェレミー・プルイット(Jeremy Pruitt)氏、ジョージア大
DC、メル・タッカー(Mel Tucker)氏、そしてアーバン大のDCケヴィン・スティール(Kevin Steele)氏の3人です。

そしてようやく・・・

ニューヨークから帰ったフルマー氏は意中の人物にHCのポジションにオファーします。その人物はアラバマ大のプルイット氏でした。プルイット氏は自身初のHC職となるこのオファーを受諾。11月26日に起こったシアーノ氏起用をめぐるドタバタ劇から12日後、幾多の候補者、そして体育局長のカリー氏解雇を経てようやくテネシー大は新監督を射止めたのでした。ちなみに今回はファンからの不満の声は上がってきませんでしたが、それはテネシー大で未だ最大級の尊敬を集めるフルマー氏の決定だったからなのでしょう。

ちなみにプルイット氏は現在DCを務めるアラバマ大がカレッジフットボールプレーオフに出場することになっていますので、アラバマ大のシーズンが完全に終わるまではチームに帯同する予定です。もちろんその間もテネシー大の監督としてコーチ組閣やリクルーティングも兼務する二足のわらじ状態を維持するようです。アラバマ大は2年前に当時DCだったカービー・スマート(Kirby Smart)氏、去年はOCのレーン・キフィン(Lane Kiffin)氏と、今回のプルイット氏のようにシーズン終了前に他チームのHCにヘッドハントされたという歴史があります。果たしてプルイット氏はテネシー大の監督を兼任しながらアラバマ大を再び全米の頂点に立たせることができるでしょうか?

それにしてもテネシー大の最大のライバルであるアラバマ大から新たなヘッドコーチを引き抜くとはなんとも皮肉なものですが、それだけニック・セイバン(Nick Saban)監督が組織してきたコーチングの体系が高く評価されているということでしょうね。

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