Coaching Carousel 2017 – アリゾナ州立大の場合

Coaching Carousel 2017 – アリゾナ州立大の場合

 

これまで数々の監督交代劇をご紹介してきましたが、おそらく2017年度シーズン後のこのニュースで一番興味深かったのがアリゾナ州立大のケースと言えるでしょう。

アリゾナ州立大といえば1969年代から1970年代にタフネスで知られるフランク・クッシュ(Frank Kush)監督に率いられて多くのカンファレンスタイトル(ウエスタンアスレティックカンファレンス=WAC)を獲得しました。精神的・肉体的に選手達を追い込むクッシュ監督の手法はおそらく今のご時世とても受け容れられるものではないでしょうが(苦笑)、この間確実に結果を残したクッシュ監督のおかげでアリゾナ州立大の名を世に知らしめる事ができたのです。

しかしその後は1978年以来カンファレンスタイトルを獲得できたのはたったの3度(1986年、1996年、2007年)のみ。その間ジョン・クーパー(John Cooper)氏、ブルース・シュナイダー(Bruce Snyder)氏、デニス・エリクソン(Dennis Erickson)氏と名将たちに率いられましたが大きな結果を残せないシーズンが長いこと続きました。

エリクソン氏が就任した2007年度こそ10勝3敗で久しぶりにカンファレンスタイトルを獲得し、いよいよアリゾナ州立大も皮を破ってコンスタントにタイトル争いに絡めるようになるかと思われましたが、エリクソンマジックが効いたのは初年度のみで次の2シーズンは連続して負け越し、4年目の2010年はなんとか6勝6敗で負け越しを逃れたものの、3年連続ボウルゲーム出場を逃し、エリクソン政権はたったの4年で終わりを告げます。

その後釜についたのはトッド・グラハム(Todd Graham)氏でした。グラハム氏は前年までピッツバーグ大で監督を務めていましたが、たったの1年でアリゾナ州立大に鞍替え。その際にはこの決断を選手たちにテキスト(ショートメール)で一斉送信して伝えただけで実際に面と向かって選手たちと話さずにピッツバーグを去ったせいで大バッシングを食らっていました。同じようなことを2006年にライス大でも行なっており、グラハム氏がアリゾナ州立大にどれだけ居続けるかも疑問だったのですが・・・。

【参考記事】歴代ワースト15ヘッドコーチ:パート2

グラハム氏の最初の3年間は予想以上にチームは善戦。2年目には10勝4敗でPac-12カンファレンス南地区を制するなどし、その翌年にもカンファレンスタイトルゲームに出場はできませんでしたが10勝3敗と言う成績を残すなどある程度の結果を残してきました。しかし2015年から2017年までの3年間はトータルで18勝20敗と負けが先行してしまい、昨年度シーズン末に大学側はグラハム氏に見切りをつけたのでした。

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2017年までアリゾナ州立大を率いたトッド・グラハム監督

そしてその後釜に選んだのがハーム・エドワーズ(Herm Edwards)氏でした。

エドワーズ氏といえば主にニューヨークジェッツカンザスシティチーフスで監督を務めたようにプロの世界でのキャリアで有名ですが、2008年にカンザスシティを解雇になると以降9年間は米スポーツ専門局ESPNの専属アナリストとしてコーチ業から離れてメディアの世界にその活躍の場を移していました。つまり9年間も現場を離れていた人物をアリゾナ州立大は次期監督に指名したのです。

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カンザスシティチーフス時代のエドワーズ監督

確かにエドワーズ氏のパーソナリティはエネルギッシュであり、もちろん顔も知れた有名人ですからリクルーティングなどで威力を発揮するでしょう。しかしやはり現場に9年も不在であったこと、そしてNFLでの監督としての戦績が54勝74敗と決してHCとして腕が立っていたとはいえないこと、そしてカレッジレベルでのコーチ履歴は1987年から1989年にサンノゼ州立大でDBコーチを務めたきり皆無であること、これらを事実をして多くの人々がエドワーズ氏を雇ったこのアリゾナ州立大の決断に首をかしげたものでした。

一番大きいのはやはりリクルーティングでしょう。いかに戦術を理解した人物だといえどもカレッジレベルのリクルーティングはそれなりの「技術」が必要となります。果たしてエドワーズ氏は今のリクルーティングの手法やルールをどこまで知っているのか疑問だったわけです。そしてリクルーティングは今の時代チーム育成の上で最重要課題な訳ですから、いかに有名人であるエドワーズ氏が監督になったからといってそれを手放しで喜べるとも思えません。実際エドワーズ氏本人もリクルーティングの現場に立って見て改めてそのプロセスの大変さを実感したといっているほどです。

しかし雇った大学側はエドワーズ氏がフットボール部のCEO(経営最高責任者)としてリソースを駆使しながらチームを運営するのは大いに可能で、それはたとえ現場での経験がここ数年欠如していたとしても彼ならやってのけられると踏んでこのポジションをオファーしたようです。

果たしてこの「実験」はうまくいくのでしょうか?

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