Big 12メディアデー:リキャップ

サウスイースタンカンファンス(SEC)、アトランティックコーストカンファレンス(ACC)についで3番目にメディアデーを開催したのがBig 12カンファレンス。NFLダラスカウボーイズの施設内にあるフォードセンターで行われたこのイベントですが、今回はこの中から数チームに絞って監督たちの発言を紹介したいと思います。

ベイラー大

昨年明らかになった、選手たちが起こした数々の性的暴力事件やチーム関係者がそれを隠屏しようとしたスキャンダルによって、ベイラー大というブランドは地に落ちました。チームは再建に向け今年からはマット・ルール(Matt Rhule)新監督が指揮を執ることになりますが、やはり2017年度を迎えるにあたり、過去の問題からどう立ち直るかということはメディアにとってもファンにとっても最大の関心事であることは変わりません。ルール監督はこれに関しこう述べました。

「我々は過去から逃げることをせず、その失敗から何かを学ぼうとしています。起きてしまったことを抹消することはできません。将来のリクルートたちも、一体ベイラー大で何が起こったのかという真実、そして現在我々がどのようにチームを立て直しているかを知りたいでしょう。我々は過去の過失を正すことに最大限の力を注ぐつもりです。私がチームに合流して以来選手たちに説いているのは『真の男、人間とはなんぞや』ということです。」

ルール監督は過去4年間中堅チームのテンプル大でその手腕を振るってきました。ベイラー大では強豪ひしめくBig 12カンファレンスで勝ち星をあげるだけでなく、彼が引き継いだスキャンダルの後始末も背負わなければならず、ルール監督にとっては仕事が山積みでしょうね。

そのルール監督のベイラー大での処女航海となる2017年度シーズンですが、昨年のリーディングラッシャーなしで迎えなければならないという苦しい出だしになりそうです。というのもRBテレンス・ウィリアムス(Terence Williams)がかなり深刻な肩の怪我を負ってしまい、チーム復帰は早くても4試合目まで待たなければならないという事です。

「我々の医師団は慎重にテレンスの経過を見守ってきました。彼はNFLでも活躍出来る逸材ですから、彼の怪我が完治するまで無理をさせる訳にはいきません。」

ベイラー大の4試合目の対戦相手は強豪オクラホマ大。チームとしては昨年11TDを含む1048ランヤードを叩き出した彼の戦力はこの大一番で喉から手が出るほど欲しいはずですから、この試合にウィリアムスが間に合えば良いのですが、例えば出場できる目処がたってもその試合が実戦復帰試合となれば、病み上がりのウィリアムスがどれほどの力を発揮できるかは未知数でもあります。


カンザス州立大

オフシーズンに咽頭がんを発症しその治療に当たっていたカンザス州立大ビル・シュナイダー(Bill Snyder)監督。春季トレーニングには職場復帰し元気な姿を見せていましたが、その後の体調も良好なようです。

「ご覧の通り私は元気です。もちろん今も治療を受け回復中という状態ですが、今の所日々の生活に支障はありません。2017年度シーズンを迎えるにあたりいかにチームを育成するかということを考えること以外に問題は何もありません。もっともこれは1年365日休まず考えさせられる問題ですけれどね。」

今年78歳となるシュナイダー監督は今季でカンザス州立大で26シーズン目を迎えようとしています。実際彼がどこまで戦術面でチームに関わっているのかはもう外部からはわかるものではありませんが、彼ほどまでになるといるだけでチームが引き締まるというカリスマ性だけで十分なのかもしれません。お年を召していますが、今では珍しくなりつつある「質実剛健」さを地で行くシュナイダー監督には健康に気をつけて1年でも長くカレッジフットボール界に存在していてほしいものです。

テキサス大

今年から名門テキサス大を率いることになったトム・ハーマン(Tom Herman)監督ですが、現在チームにはスカラシップ(スポーツ奨学金)QBはたったの二人(ショーン・ビューシェルサム・エリンガー)しか所属していません。そこでハーマン監督はもしこのQB二人とも怪我で戦線離脱しなければならなくなるような緊急時の際の奥の手を考えているようです。それはWRのジェロッド・ハード(Jerrod Heard)を軸としたパッケージを用意することだそうです。ハードは2015年度にQBとしてプレーしましたが、昨年はWRにコンバートされていました。その彼を起用しようというわけです。もちろんそんな状況は最悪のケースとしてとっておきたいものでしょうが。

先発QBに関しては昨年の先発QBであるビューシェルが一歩リード・・・と思われましたが、ハーマン監督はそれを明言することはありませんでした。オフシーズンのトレーニングを見ただけでQBの素質はわからない、と実際にプレシーズンキャンプで実践トレーニングが始まらないとも話しました。ビューシェルがスターティングQBに最も近いと思われますが、1年生のエリンガーとの先発争いレースでハーマン監督から太鼓判を押されなければその座を確保することはできないようです。

オクラホマ大

オクラホマ大はつい先ごろ電撃的にボブ・ストゥープス(Bob Stoops)氏がコーチングから引退を表明。そしてそれと時を同じくしてオフェンシブコーディネーターだったリンカーン・ライリー(Lincoln Riley)氏が新監督に任命されました。これがライリー監督初のヘッドコーチ職となるのですが、それが名門オクラホマ大というだけでなく、18年間チームを率いたストゥープス氏の後を引き継ぐということで、彼には未だかつてない期待という重圧がのしかかることでしょう。しかしライリー監督はストゥープス氏を引き継ぐのではなく、自分が新しい船長として船出することに徹したいと述べました。

「私がこのポジションに就いてからよく言われることは、『ストゥープス監督の功績を真似しようとするという落とし穴に落ちるな』、ということです。私にとっての最大のチャレンジは、彼や周囲からのアドバイスに耳を傾けながらもいかに自分らしさを保つことができるか、です。それは挑戦ではありますが、それをやってのける自信はありますし、私らしくいることにとても安らぎを感じます。

私が監督になったからといって『全てを変えてやろう』などというエゴは持ち合わせていません。それに『ボブ・ストゥープス2号』を演じようとも思いません。私がこれだと思うことを試し、そして自分に見合うような変化、もしくはチームにとって吉となる変化があれば受け入れていきたいと思っています。」

ただだからと言ってストゥープス氏からの助言に耳を傾けない訳ではないともいっています。

「もちろん彼の助言を求めていくと思います。ボブ、そして(バリー)スウィッツアー監督という、最高レベルを知る人物たちからのものとなれば、それはありがたく耳を傾けていきたいと思います。」

現在パワー5カンファレンスの中で最年少コーチ(33歳)であるライリー監督は、オクラホマ大という超名門での初年度シーズンを慎重に一歩一歩進んで行こうとしているようです。

テキサス工科大

母校のヘッドコーチになって5年目を迎えるクリフ・キングスバリー(Kliff Kingsbury)監督は就任当初はかつてのスターQBが凱旋したと(しかもそのイケメンぶりも合間って)歓迎ムード一色でしたが、思ったほどの戦果を残すことができず次第にファンのフラストレーションも溜まりつつあります。QB出身ということもありオフェンス力はピカイチですが、その足を引っ張っているのは力不足のディフェンス陣にあります。もともとテキサス工科大はマイク・リーチ(Mike Leach、現ワシントン州立大監督)時代から攻撃力重視のチームでしたが、それだけでは真のチャンピオンにはなれないことはファンの目から見ても明らか。過去3年間のトータルディフェンスは全米でも下から数えた方が早く、平均失点数も約42点という体たらく。

キングスバリー監督はそんな穴だらけのディフェンス陣の問題に関してメディアデーでは多くの質問がされました。いかがその質疑応答の一部です。

記者:「はっきりいってチームのディフェンスは最悪ですが、あなたはこれをどのように立て直すつもりですか?」

キ:「まずコーチとしてこれは私の責任であることはいうまでもありません。私の監督2年目途中にディフェンスシステムを変えたのですが、それがこの転落の始まりだと言えます。そして我々はコーチ・ギブソン(ディフェンシブコーディネーター)を招聘しました。状況としては最悪でしたが、彼は今も懸命にユニット再建のために仕事に打ち込んでいます。

2017年度に向け、我々は同じDCがようやく2年以上という長期間在籍するという状況を作り出すことができました。それにより彼(ギブソン氏)の戦略にあった選手をリクルートすることに成功し、また彼のディフェンスを理解するアシスタントコーチを連れてくることもできました。ですから私は今年のディフェンスは昨年とは違うものになると信じています。春季トレーニングで見せたディフェンス陣はよかったですし、また昨年ディフェンス側でプレーした多くの若手選手が一回りも成長してくれることを願っています。」

記者:「テキサス州では1年間にトータル約5000人の4年生ディフェンダーがプレーするという計算ができますが、あなたはテキサス州外からリクルートを獲得しています。なぜあなたは平均失点数を30以下に抑えることができるようなリクルートを10人、20人、30人と獲得できないのですか?」

キ:「それはとても良い質問ですが、私にも答えはわかりません(笑)。このことは我々が現在も取り組んでいることです。これまでチームはディフェンス力において十分な力を発揮してこれませんでした。今後も我々の戦術にあった選手をリクルートして育成していくことに全力を尽くすのみです。」

テキサス工科大は昨年までのスターQBパトリック・マホームス(Patrick Mahomes)を失いました。ということは彼らの強みである強力オフェンスもそのパワー低下を余儀無くされることでしょう。そうなれば否が応でもディフェンス陣に一肌も二肌も脱いでもらわないといけなくなります。もしそれが実現しなければいよいよキングスバリー監督のクビも危うくなるというものです。

テキサスクリスチャン大

昨年のファイナル全米ランキングではなんとテキサス州出身チームがただの1チームもランクされないという異常事態が発生しました。フットボール王国とされるテキサス州においてこれは許されることではありませんが、テキサスクリスチャン大ゲリー・パターソン(Gary Patterson)監督はテキサス州出身チームとしてこれは「大恥だ」と表現しました。

「テキサス州内でのリクルーティングはテキサスA&M大がSECに移籍して以来さらに厳しくなりました。それにより我々テキサス州のチームが州外から選手を獲得する傾向が増えました。Big 12カンファレスはそれをいいことだと思っているようですが、純粋なテキサス州出身のチームがトップ25に1チームも名を連ねていないこの現状は恥じることだと思うべきです。テキサス州チームにはたくさんの素晴らしいプレーヤーが存在し、その多くがトップレベルでプレーできる逸材ばかりです。我々はもっといい結果を残さなければならないのです。」

テキサスA&M大がSECに移ったことでテキサス州内でのリクルーティング戦争にSECチームがより介入するようになり、テキサス州の優良なリクルートたちがテキサス州外に流れているというわけです。これが原因でBig 12カンファレンス自体のレベルが低下し、結果同カンファレンスの主戦場でもあるテキサス州にキャンパスをもつチームたちがランキング外に振り落とされてしまったのでした。

ただこのテキサス州内のリクルーティング戦争に関しては新たな局面を迎えることになりそうです。というのもテキサス大にはハーマン監督、ベイラー大にはルール監督とリクルーティングにおいて凄腕で知られる二人のコーチが新たに監督に就任したからです。そしてテキサスクリスチャン大でも長期政権を担うパターソン監督もまた変化が著しいリクルーティングにおいて上手く適応しチームに勝利を導いていくことでしょう。

ところでパターソン監督は前述の通り引退した元オクラホマ大監督のストゥープス監督についても触れました。

「私は彼がもう2度とこの業界に戻ってこないとは聞いていません。」

これまで両監督は7度直接対決しており、対戦成績は7勝2敗でストゥープス氏に軍配が上がっています。しかしテキサスクリスチャン大がBig 12に移籍して以来両チームは常に接戦を演じてきました。そんな「好敵手」がいなくなってパターソン監督は寂しがっているのかもしれません。それにまだ56歳と若いストゥープス氏ですから数年の休養後に現場復帰したとしてもおかしくありませんし、そうなれば彼を欲しがるチームは星の数ほど現れることでしょう。

ちなみにストゥープス氏が引退したことによってパターソン監督がBig 12カンファレンスの最多勝率(73.8%)監督に繰り上げになりました。

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