セイバン監督 vs ブライアント監督:どっちが凄い?

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過去30年から40年間でトップに上げられるコーチとしてニック・セイバン監督と同じくアラバマ大のレジェンド、ポール・「ベアー」・ブライアント監督が挙げられます。

ニック・セイバン監督はカレッジフットボール史上2人目となる5度目のナショナルチャンピオンを獲得(アラバマ大で4つ、ルイジアナ州立大で1つ)。ブライアント監督は1961年から1979年の間に6度の全米制覇を成し遂げました。セイバン監督は今季のタイトルでブライアント監督にあと1つと迫った訳ですが、この事によりブライアント監督とセイバン監督を比較するような話もちらほら聞かれます。

今でこそアラバマ大フットボール最強の所以はセイバン監督に起しているのは確かですが、アラバマ大をアラバマ大たらしめたのはやはりベアー・ブライアント監督の偉業があったからに他ありません。今監督業をしているようなコーチ達はブライアント監督率いるアラバマ大を少年時代に目の当たりにしていたはずです。セイバン監督ですらブライアント監督と自分自身を比較される事すら恐れ多いと感じているほどの人物なのです。

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その功績からカレッジフットボール界にベアー・ブライアントあり、と言われ彼の偉業には誰にも触れる事すら出来ないと長年思われてきました。それほどまでの人物にいよいよ比較されるコーチが現れたのです。それが言わずもがな、セイバン監督です。

ブライアント監督とセイバン監督を比べる、といいますが、これまで絶対的だったブライアント監督と誰かを比べてみるという事すらあり得なかった事なので、そういう話題になる事自体がセイバン監督の凄さを物語っているといえます。

ただブライアント監督がアラバマ大を率いた時代とセイバン監督がアラバマ大等を率いているこの時代は単純に比較することが出来ないくらい状況は異なります。

まず一つ大きな違いはブライアント監督が指揮したアラバマ大の初期はまだ人種隔離政策が横行していた時ということです。タブーのような事実で実はあまり語られる事はありませんが、そういう状況であったのは事実です。要は黒人選手がまだ受け入れられない頃、チームが白人だけで形成されていた頃と言う事です。白人選手、黒人選手でどちらにも長所短所があるのは当然ですが、やはりダイナミックでアスレティックな黒人選手が多いと言うのは見逃せない点です。そういった選手がいなかった時代にアラバマ大を常勝チームにそだてたブライアント監督の功績は語られるべき点であると思います。

しかし現在の勢力図を見てみると明らかに現在のSECの方がブライアント監督時代のものとは比較にならないくらい強豪ぞろいのカンファレンスになっています。それの証拠に過去20年間でアラバマ大を含め5つのSECチームがナショナルチャンピオンに輝いています(アラバマ大4、フロリダ大3、テネシー大1、ルイジアナ州立大2、アーバン大1)。

もっと言えば、セイバン監督がアラバマ大に来て9年経ちますが、その内4度はアラバマ大がナショナルチャンプになり、残りの5年のうち3年はSECチームがナショナルチャンピオンを奪っているのです(ルイジアナ州立大、フロリダ大、アーバン大)。つまりその9年間のうち実に7度のナショナルチャンピオンがSECチームによって獲得されていると言うわけです。それだけ現在のSECは強豪ぞろいでそれを勝ち抜くのは非常に難しい事だという事です。

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ちなみにブライアン監督はアラバマ大を25年間指揮し、その間6度の全米制覇を成し遂げました。その25年間でアラバマ大以外のSECチームがナショナルチャンピオンに輝いたのはたったの2チームしかありません(ルイジアナ州立大:1958年、ジョージア大:1980年)。つまりブライアント監督が現役だった時代、SECのレベルは現在のレベルには到底及ばなかったのです。

このようにカレッジフットボール界で最強のカンファレンスに属し、その中で過去7年間のうちに4度もアラバマ大で全米制覇を成し遂げたと言うセイバン監督の手腕もまた常人離れしていると言えます。2004年のルイジアナ州立大でのタイトルを含めるならば11年間で5つという計算もできます。ちなみに7年間で4つものタイトルを獲得したヘッドコーチはセイバン監督以外にはノートルダム大のフランク・ラヒー監督のみです(1943年、1946年、1947年、1949年)。

ルイジアナ州立大(LSU)でのことを少し掘り下げれば、セイバン監督がLSUのヘッドコーチに就任する以前は10年間で8度の負け越しシーズンを記録するなど、歴史的に名のあるチームながら当時強豪チームとは言えないチーム状況でした。そのチームをナショナルチャンピオンにまで押し上げたと言うのはまさに彼のコーチ術、そしてチームの管理・運営能力が非常に長けているからに他なりません。

アラバマ大もセイバン監督が来る以前は10年間で5シーズンしか勝ち越しシーズンがないような状況でした。当然アラバマ大やLSUも地盤はあったものの、コンスタントに強豪と呼ばれるに至らなかったチームでしたが、それをセイバン監督が変えていったのです。

さらにここ10、20年間のスケジュールを見ると、年間の試合数も大幅に増えています。ブライアント監督の初期は年間11試合しかなかったものが年を追うごとに増え続け、今年アラバマ大は計15試合をこなしました。またポストシーズンのフォーマットも大きく異なります。ブライアント監督時代は当然プレーオフも無ければCFPの前身のBCSシステムもありません。どういう事かと言うと、アラバマ大が全米1位にランクされてボウルゲームに出場したとしても、必ずしも彼らが全米2位のチームと対戦するかと言えばそう出なかったと言う事です。SECチーム(アラバマ大)は歴史上シュガーボウルに出場するのが常でしたし、他のチームもどのボウルゲームに出場するかと言うのは大まかに決まっていたのです。ですからそういう利権やらトラディショナルが絡んでトップチーム同士の対戦がポストシーズンに見られないのは常でした。まあ、これはブライアント監督のせいでも何でもありませんが、事実は事実です。

しかし近代カレッジフットボールはこの矛盾を晴らそうと四苦八苦してトップチーム同士が対決出来るようなシステムを模索し続けてきました。それがBCSシステムであり、今回のCFPであるのです。セイバン監督はそのようなより強力なチームと対戦して勝たなければいけない現行のシステムの中で5つのナショナルタイトルを獲得したと言う訳です。

セイバン監督がブライアント監督の総勝利数を抜く事はおそらく無いでしょう。ブライアント監督は生涯合計323勝をあげているのに対し、セイバン監督は191勝なので抜くとしたらあと10年間連続で13~15勝を上げ続けなければなりません。現在63歳ですからなかなか厳しい数字です。さらにSECでの総タイトル数がブライアント監督が15つ(アラバマ大で14、ケンタッキー大で1)に対しセイバン監督が7(アラバマ大で6、LSUで1)。毎年SECのチャンピオンになるなんて事は現実的ではありませんから、あと8つのSECタイトルをセイバン監督が引退するまでに獲得出来るかは正直疑問です。

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ここに凄い統計があります。AP(Associate Press)通信が定めるランキング1位チームがBCSシステム以前は全米王者とされていました(他にもいくつかランキングシステムが共存していましたが、APランキングが最も信頼されていました)。それによるとアラバマ大はAPランキングにおいてこれまで合計74週分ランク1位を獲得しています。そのうち43週分はセイバン監督指揮下のアラバマ大、そして30週分はブライアント監督指揮下のアラバマ大が1位にランクされた訳です。ということはその74週のうち73週分がセイバン監督とブライアント監督によってチームが1位にランクされたと言う事。残りの1週分は1992年にジーン・スターリング監督がナショナルタイトルを獲得した時(その年の最終ランキングで)です。アラバマ大の歴史においてこの両人がいかに抜きん出ているかを示す凄い数字だと思います。

APランキングでセイバン監督だけに焦点を当てるとこんな数字も出てきます。彼は8年連続で最低でも年間に1度はいずれかの週でAPランキング1位の座を獲得しています。彼の次点は5年連続と言う事ですから、セイバン監督がいかにコンスタントに常勝チームを育て上げているかが分かります。

ここまでつらつらと述べてきましたが、結局のところ言ってしまえばどちらがより優秀なコーチなのか、という議論に答えはないわけです。単純に比べられないので。

単純な「凄さ」で言えばより厳しい状況の中短いスパンで結果を出しているセイバン監督の技量・手腕は現在のカレッジフットボール界でナンバーワンであることは間違いありません。

しかしやはりアラバマ大を25年にわたり指揮し続けた、名将ベアー・ブライアント監督のカリスマ性を超えるのはまた別次元の話です。アラバマ大で6つのナショナルタイトル、14つのSECタイトルを獲ったのはもちろん偉業ですが、アラバマ大フットボール部の顔として君臨し、ホームスタジアムに名前がつけられ(ブライアント・デニースタジアム)、そしてアメリカの郵便切手にフィーチャーされたりとアラバマ大と言う枠を超えて多くの人に親しまれている「アメリカのコーチ」なのです。

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1996年に発売された切手。4人のレジェンダリーコーチを取り上げています。

たぶんあのセイバン監督ですらブライアント監督と比較されるなんて恐れ多いと思っていると思います。

今季のナショナルチャンピオンシップゲームが終わった後、会見で自身のレガシーについて聞かれたセイバン監督はこう話しています。

「(自分のレガシーについて)あまり考えた事はなかった。しかし先日同じ事をある人物から訪ねられた時、一番最初に思い出した事は、ミシガン州立大でヘッドコーチとなった最初の試合のこと。対戦相手はトム・オズボーン監督率いるネブラスカ大でミシガン州立大は56対7ぐらいで大敗した(実際は50対10)。ここに至まで私はNFLで4年間コーチしていたこともあったので(クリーブランドブラウンズのディフェンシブコーディネーターだった)、ひょっとしたら私はカレッジフットボールで1勝も出来ないのではないかと思った。試合終了後、トム・オズボーンと言葉を交わした時、彼に「君のチームは思っているほど悪いチームではないよ」と言われたのを克明に覚えている。この時の経験は常に私のコーチ業に活かされていると思う。何があっても次のプレー、次の試合へと切り替える事が大事だと言うこと。」

一つ言える事はセイバン監督のアラバマ大でのコーチングはまだこの先も続くと言う事です。抜くとか抜かれると言うよりも、セイバン監督がどこまでアラバマ大に従事するのかと言う方がより興味深い事かもしれません。